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18話 父との再対話
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18話 父との再対話
女子教育。
その言葉は、まだ紙の上にも載せていない。
だが、私の中ではすでに設計図の輪郭が見え始めていた。
男子の貴族学院が三年目に入り、入学希望者は増え続けている。講師陣も安定し、卒業生の評価は高い。もはや「前例がない」という言葉は通じない。
前例は、ここにある。
それでも――次の一歩は重い。
父の執務室は相変わらず静かだった。
分厚い帳簿と、各地から届いた報告書。その中心に父がいる。
「来たな」
顔を上げずに言う。
「はい」
「言いたいことがある顔だ」
私は椅子に腰かけ、指先を組む。
「女子学院の件です」
ようやく言葉にした。
父はペンを置き、私を見た。
「まだ早い」
即答だった。
予想していた言葉。
「理由を伺っても?」
「三つある」
父は淡々と指を折る。
「一つ、男子学院がまだ完全ではない。二つ、保守派は黙っているが、納得しているわけではない。三つ、お前が矢面に立てば、潰される」
私は頷く。
「理解しています」
「ではなぜ急ぐ」
「急いではいません」
私は首を横に振る。
「準備を始めたいのです」
父の視線が鋭くなる。
「具体的には」
「女子教育の現状を整理します。どこまでが許容範囲か、どこからが反発の臨界点か」
「理屈の土台作りか」
「はい」
父は椅子に深くもたれた。
「お前は、なぜそこまで女子教育に拘る」
私は一瞬、言葉を探す。
「機会の差です」
「男子学院で足りぬか」
「足りません」
私ははっきり言う。
「男子だけが底上げされれば、家の意思決定は一方に偏ります。令嬢が理解し、議論できなければ、家は半分の力しか使えません」
父は目を細めた。
「家のため、か」
「表向きは」
私は小さく笑う。
「本音は」
「より多くの者に教育の機会を」
父はしばらく沈黙する。
「それを公言するな」
「承知しています」
「その理想は、まだこの国には早い」
「はい」
私は素直に頷く。
「だから男子学院から始めました。反発が少なく、利益が明確で、誰もが得をする形から」
「段階を踏む」
「はい」
父はゆっくりと息を吐いた。
「私が盾になる」
「存じております」
「だが盾にも限界がある」
「だからこそ、今は基盤を厚くします」
男子学院の成果。
財務の安定。
講師の忠誠。
卒業生の評価。
それらが積み重なれば、女子学院も「合理性」で押し切れる。
父は机の上の書類を一枚差し出した。
「見ろ」
それは保守派の動きに関する報告だった。
直接的な反対は減っている。
だが裏では、警戒が続いている。
「今、お前が女子学院を口にすれば、これが一斉に動く」
「理解しています」
「それでもやるか」
私はしばらく考えた。
やる。
だが、今ではない。
「準備だけ」
私は答える。
「制度案は作りません。理念も掲げません。ただ、数字と実績を積みます」
「我慢できるのか」
父の問いは鋭い。
「できます」
私は微笑む。
「目標は、私が達成することではありません。制度が残ることです」
父は静かに笑った。
「欲がないのか、強欲なのか分からぬな」
「後者でしょう」
私は立ち上がる。
「私は、私が終わった後も続くものが欲しい」
「未来は分からぬぞ」
「だから未来です」
父は一瞬、目を細めた。
「転生者のような者がまた現れれば、世界は一気に変わるかもしれん」
「それでも構いません」
「なぜだ」
「私の制度が不要になるなら、それはそれで成功です」
父は声を上げて笑った。
「お前は本当に、私の娘だな」
「光栄です」
執務室を出ると、夕陽が廊下を赤く染めていた。
まだ早い。
だが遅くもない。
種は蒔かれている。
水をやる時期を間違えなければ、必ず芽は出る。
女子学院。
その言葉はまだ公にしない。
だが私の中では、すでに確かな構想となっている。
急がない。
焦らない。
積み重ねる。
未来はまだ分からない。
だからこそ、最良と思う一手を選び続けるだけだ。
女子教育。
その言葉は、まだ紙の上にも載せていない。
だが、私の中ではすでに設計図の輪郭が見え始めていた。
男子の貴族学院が三年目に入り、入学希望者は増え続けている。講師陣も安定し、卒業生の評価は高い。もはや「前例がない」という言葉は通じない。
前例は、ここにある。
それでも――次の一歩は重い。
父の執務室は相変わらず静かだった。
分厚い帳簿と、各地から届いた報告書。その中心に父がいる。
「来たな」
顔を上げずに言う。
「はい」
「言いたいことがある顔だ」
私は椅子に腰かけ、指先を組む。
「女子学院の件です」
ようやく言葉にした。
父はペンを置き、私を見た。
「まだ早い」
即答だった。
予想していた言葉。
「理由を伺っても?」
「三つある」
父は淡々と指を折る。
「一つ、男子学院がまだ完全ではない。二つ、保守派は黙っているが、納得しているわけではない。三つ、お前が矢面に立てば、潰される」
私は頷く。
「理解しています」
「ではなぜ急ぐ」
「急いではいません」
私は首を横に振る。
「準備を始めたいのです」
父の視線が鋭くなる。
「具体的には」
「女子教育の現状を整理します。どこまでが許容範囲か、どこからが反発の臨界点か」
「理屈の土台作りか」
「はい」
父は椅子に深くもたれた。
「お前は、なぜそこまで女子教育に拘る」
私は一瞬、言葉を探す。
「機会の差です」
「男子学院で足りぬか」
「足りません」
私ははっきり言う。
「男子だけが底上げされれば、家の意思決定は一方に偏ります。令嬢が理解し、議論できなければ、家は半分の力しか使えません」
父は目を細めた。
「家のため、か」
「表向きは」
私は小さく笑う。
「本音は」
「より多くの者に教育の機会を」
父はしばらく沈黙する。
「それを公言するな」
「承知しています」
「その理想は、まだこの国には早い」
「はい」
私は素直に頷く。
「だから男子学院から始めました。反発が少なく、利益が明確で、誰もが得をする形から」
「段階を踏む」
「はい」
父はゆっくりと息を吐いた。
「私が盾になる」
「存じております」
「だが盾にも限界がある」
「だからこそ、今は基盤を厚くします」
男子学院の成果。
財務の安定。
講師の忠誠。
卒業生の評価。
それらが積み重なれば、女子学院も「合理性」で押し切れる。
父は机の上の書類を一枚差し出した。
「見ろ」
それは保守派の動きに関する報告だった。
直接的な反対は減っている。
だが裏では、警戒が続いている。
「今、お前が女子学院を口にすれば、これが一斉に動く」
「理解しています」
「それでもやるか」
私はしばらく考えた。
やる。
だが、今ではない。
「準備だけ」
私は答える。
「制度案は作りません。理念も掲げません。ただ、数字と実績を積みます」
「我慢できるのか」
父の問いは鋭い。
「できます」
私は微笑む。
「目標は、私が達成することではありません。制度が残ることです」
父は静かに笑った。
「欲がないのか、強欲なのか分からぬな」
「後者でしょう」
私は立ち上がる。
「私は、私が終わった後も続くものが欲しい」
「未来は分からぬぞ」
「だから未来です」
父は一瞬、目を細めた。
「転生者のような者がまた現れれば、世界は一気に変わるかもしれん」
「それでも構いません」
「なぜだ」
「私の制度が不要になるなら、それはそれで成功です」
父は声を上げて笑った。
「お前は本当に、私の娘だな」
「光栄です」
執務室を出ると、夕陽が廊下を赤く染めていた。
まだ早い。
だが遅くもない。
種は蒔かれている。
水をやる時期を間違えなければ、必ず芽は出る。
女子学院。
その言葉はまだ公にしない。
だが私の中では、すでに確かな構想となっている。
急がない。
焦らない。
積み重ねる。
未来はまだ分からない。
だからこそ、最良と思う一手を選び続けるだけだ。
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