公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾

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23話 開設準備

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23話 開設準備

 許可は出た。

 正式な勅許ではない。

 だが、公爵家附属教養課程としての運営は認められた。

 反対は消えていない。

 しかし止める理由も見つからない。

 その状態が、今の私にとっては十分だった。

 私は男子学院の会議室に講師陣を集めた。

 長机を囲むのは、算術、歴史、法学、作法の担当者たち。

 彼らの多くは、男子学院の成功に誇りを持ち始めている。

「本日は、新課程の設計についてです」

 私が告げると、数名が視線を交わした。

 噂は既に広がっている。

「令嬢教育ですか」

 算術講師が率直に尋ねる。

「はい」

「反発が強いと聞きますが」

「強いのは声だけです」

 私は穏やかに言う。

「制度として成立するなら、必ず支持は増えます」

 法学講師が腕を組む。

「内容はどこまで踏み込みますか」

「基礎のみです」

 私は用意した資料を配る。

 歴史は王朝史と外交史の基礎。

 算術は家計管理と税の理解。

 法学は婚約契約と相続の初歩。

 作法と舞踏は従来通り。

「刺繍や楽器は削らないのですか」

「削りません」

 私はきっぱりと言う。

「否定すれば敵を作ります。積み重ねるのです」

 歴史講師が静かに頷いた。

「時間配分は」

「週三回。男子学院と同時間帯ではありません」

 まだ完全共学にはしない。

 段階を踏む。

 算術講師が苦笑する。

「令嬢に数字は嫌われますぞ」

「嫌われるのは抽象的だからです」

 私は答える。

「刺繍の糸数、舞踏会の予算、婚約持参金。身近な例から始めます」

 講師たちの目が変わる。

 これは実験ではない。

 設計だ。

「講師の選定は慎重に」

 父の言葉を思い出す。

 私は続ける。

「令嬢を見下す者は不要です」

 沈黙が落ちる。

 やがて法学講師が静かに言った。

「公爵令嬢自らが制度を設計する。それだけで示唆的ですな」

「示唆は目的ではありません」

 私は微笑む。

「成果が目的です」

 会議は長時間に及んだ。

 寮の設計。

 通学制との併用。

 保護者への説明書。

 制服は男子と色を変える。

 名称は附属教養課程のまま。

 女子学院とはまだ呼ばない。

 夜、母と庭を歩いた。

「準備は順調?」

「はい」

「怖くはない?」

「少し」

 私は正直に答える。

 男子学院は合理性で押し切れた。

 だが女子教育は価値観に触れる。

「あなたが矢面に立つわけではないわ」

 母は穏やかに言う。

「盾があるからこそ、進めます」

「お父様ね」

「はい」

 父は影の主役だ。

 私が自由に動けるのは、父が前に立つから。

「でも覚えておきなさい」

 母が立ち止まる。

「いつか、あなた自身が盾になる日が来る」

 その言葉が胸に残る。

 私はまだ庇護下にある。

 だが未来は長い。

 男子学院の建物の一角に、改装工事が始まった。

 窓を広く。

 机を軽く。

 明るさを重視。

 閉じた空間にしない。

 象徴は不要。

 実用を。

 開設は半年後。

 定員は少数。

 選抜はしない。

 志願制。

 月謝は男子より少し低く。

 負担を下げる。

 私の机には、志願予定者の名簿が届き始めていた。

 意外にも、保守派の家の名もある。

 口では反対。

 だが娘には機会を。

 矛盾は静かに制度を後押しする。

 私はペンを走らせる。

 開設式の挨拶文。

 理想は語らない。

 利益を語る。

 令嬢が家を支える力を持つこと。

 婚約市場での優位。

 家名の安定。

 それで十分。

 女子学院。

 まだ名を伏せた芽。

 だが確実に形になりつつある。

 私は窓の外を見つめる。

 未来は分からない。

 だが今は、準備が整っていく音が聞こえる。

 静かに。

 確実に。
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