公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾

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24話 女子学院開校

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24話 女子学院開校

 開設式の日、空は澄み切っていた。

 男子学院の石造りの建物の一角に、新たに整えられた教室。壁は明るく塗り直され、窓は大きく、光がよく入る。

 華美ではない。

 だが閉ざされてもいない。

 それが、今の段階での最善だった。

 入口の看板には、こう記されている。

 公爵家附属 貴族令嬢教養課程。

 女子学院とはまだ呼ばない。

 だが、私の胸の中では確かにそう呼んでいる。

 控室で、私は鏡の前に立っていた。

 派手ではない淡い色のドレス。

 威圧しない装い。

 今日は主役ではない。

 制度が主役。

「緊張している?」

 母ビー・レッドが後ろから声をかける。

「少しだけ」

「良い緊張ね」

 母は微笑む。

「あなたがここまで来られたのは、段階を踏んだからよ」

「はい」

 私は深く息を吸う。

 開場の鐘が鳴る。

 父ファウンディングが壇上に立つ。

 挨拶は短い。

「本課程は、家を支える令嬢の育成を目的とする」

 理想は語らない。

 家のため。

 安定のため。

 それだけ。

 続いて、私が前に出る。

 視線が集まる。

 令嬢たち。

 母親たち。

 そして、様子見の貴族たち。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 深く一礼する。

「本課程は、刺繍や舞踏を否定するものではありません」

 安心を先に置く。

「それらをより活かすための知識を補うものです」

 ざわめきは小さい。

「婚約契約を理解し、家計を把握し、家を支える力を持つ。それは令嬢にとって武器ではなく、支えです」

 私は一人ひとりを見渡す。

 緊張している少女。

 期待を隠せない少女。

 不安げな母。

「ここでは競争ではなく、理解を目指します」

 男子学院とは違う空気。

 競争心を煽らない。

 まずは安心。

 式は静かに終わった。

 最初の授業は算術。

 算術講師が板書する。

「本日は、持参金の計算を例に取ります」

 令嬢たちの背筋が伸びる。

 具体的。

 自分事。

 数字は抽象ではない。

「もし持参金が千金貨で、年利が三%なら……」

 ざわめきが起きる。

 難しい。

 だが興味はある。

 私は教室の後ろから見守る。

 刺繍の授業では見られなかった表情。

 考える顔。

 戸惑う顔。

 やがて、理解したときの小さな笑み。

 昼休み、廊下で数人の令嬢が話している。

「数字って、意外と面白いのね」

「父の話が少し分かった気がする」

 その言葉を聞いたとき、胸が静かに熱くなる。

 理解。

 それだけでいい。

 午後は歴史。

 王朝の変遷。

 外交の失敗例。

 婚約が政治とどう結びついてきたか。

 講師は慎重に語る。

 刺激しない。

 だが隠さない。

 放課後、数名の母親が私に近づく。

「思っていたより穏やかでした」

「安心いたしました」

 私は微笑む。

「家を守るための学びです」

 それ以上は言わない。

 夕方、教室が空になる。

 私は一人、窓辺に立つ。

 始まった。

 まだ小さな一歩。

 定員は少数。

 注目は限定的。

 だが確実に動き出した。

 男子学院が芽吹き。

 女子教養課程が開いた。

 社会はまだ変わらない。

 男尊女卑は続く。

 令嬢は依然として家の資産。

 それでも。

 今日、数十人の少女が新しい視点を得た。

 それは消えない。

 父が後ろに立つ。

「どうだ」

「静かな始まりです」

「それでいい」

 父は短く言う。

「派手な改革は反発を生む。静かな変化は根を張る」

 私は頷く。

 未来はまだ定まらない。

 私が見届けられるかも分からない。

 だが制度は動き始めた。

 芽は土を割った。

 まだ名も掲げない女子学院。

 けれど確かに存在する。

 私は教室の灯りを消す。

 明日もまた、授業は続く。

 積み重ね。

 それだけが未来を形にする。

 私は歩き出す。

 静かな廊下を。

 静かな確信とともに。
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