13 / 40
第13話 善意という名の介入
しおりを挟む
第13話 善意という名の介入
ミラは、自分が“介入している”とは思っていなかった。
彼女の中では、すべてが「必要なこと」だった。
「殿下、本日の視察ですが……」
朝の執務室。
ミラは手帳を開き、柔らかな声で予定を確認する。
「こちらは延期にして、代わりに孤児院への寄付の件を進めましょう。
殿下のお名前であれば、民も安心します」
アークトゥルスは、一瞬だけ考え――すぐに頷いた。
「……うん。
それで、いいと思う」
判断は、すでに彼の中にはない。
だが、ミラはそれを“奪った”とは感じていない。
(殿下が楽になるなら、それでいい)
その思いに、疑いはなかった。
数日後、王宮にひとつの噂が流れる。
「……聖女様が、元婚約者に接触するらしい」
デネブ・シグナス。
その名は、今もなお、王宮では特別な響きを持っていた。
ミラは、その噂を聞いたとき、ほんの少しだけ胸が高鳴った。
(話せば……分かってもらえるはず)
彼女は、本気でそう思っていた。
デネブが戻れば、
アークトゥルスは立ち直る。
立ち直れば、国も安定する。
――すべて、丸く収まる。
その考えに、悪意は一片もない。
だが、その日の午後。
デネブの屋敷を訪れたミラは、早々に違和感を覚えた。
整えられた庭。
落ち着いた空気。
そこには、「捨てられた令嬢」の影はどこにもなかった。
「お久しぶりです、ミラ様」
迎えに現れたデネブは、穏やかに微笑んでいた。
――あまりにも、穏やかに。
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
その問いに、ミラは一瞬、言葉を失った。
同情される前提で来てしまったことに、今さら気づく。
「……殿下のことなのですが」
そう切り出すと、デネブは静かに頷いた。
「存じておりますわ」
否定も、拒絶もない。
だが、その声音は、はっきりと距離を示していた。
ミラは、意を決して続ける。
「殿下は……とても弱っておられます。
国家のために、あれほどの犠牲を払って……」
「そうでしょうね」
即答だった。
「ですが」
デネブは、視線を逸らさずに言う。
「それは、殿下が選ばれた結果です」
ミラは、息を呑んだ。
「私は、殿下を責めているわけではありません」
淡々と、しかしはっきりと。
「ただ――
その“選択の後始末”を、
他人に委ねることはできません」
善意で差し伸べたはずの手が、
静かに、しかし確実に拒まれた瞬間だった。
ミラは、その意味を、まだ理解できていなかった。
ミラは、自分が“介入している”とは思っていなかった。
彼女の中では、すべてが「必要なこと」だった。
「殿下、本日の視察ですが……」
朝の執務室。
ミラは手帳を開き、柔らかな声で予定を確認する。
「こちらは延期にして、代わりに孤児院への寄付の件を進めましょう。
殿下のお名前であれば、民も安心します」
アークトゥルスは、一瞬だけ考え――すぐに頷いた。
「……うん。
それで、いいと思う」
判断は、すでに彼の中にはない。
だが、ミラはそれを“奪った”とは感じていない。
(殿下が楽になるなら、それでいい)
その思いに、疑いはなかった。
数日後、王宮にひとつの噂が流れる。
「……聖女様が、元婚約者に接触するらしい」
デネブ・シグナス。
その名は、今もなお、王宮では特別な響きを持っていた。
ミラは、その噂を聞いたとき、ほんの少しだけ胸が高鳴った。
(話せば……分かってもらえるはず)
彼女は、本気でそう思っていた。
デネブが戻れば、
アークトゥルスは立ち直る。
立ち直れば、国も安定する。
――すべて、丸く収まる。
その考えに、悪意は一片もない。
だが、その日の午後。
デネブの屋敷を訪れたミラは、早々に違和感を覚えた。
整えられた庭。
落ち着いた空気。
そこには、「捨てられた令嬢」の影はどこにもなかった。
「お久しぶりです、ミラ様」
迎えに現れたデネブは、穏やかに微笑んでいた。
――あまりにも、穏やかに。
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
その問いに、ミラは一瞬、言葉を失った。
同情される前提で来てしまったことに、今さら気づく。
「……殿下のことなのですが」
そう切り出すと、デネブは静かに頷いた。
「存じておりますわ」
否定も、拒絶もない。
だが、その声音は、はっきりと距離を示していた。
ミラは、意を決して続ける。
「殿下は……とても弱っておられます。
国家のために、あれほどの犠牲を払って……」
「そうでしょうね」
即答だった。
「ですが」
デネブは、視線を逸らさずに言う。
「それは、殿下が選ばれた結果です」
ミラは、息を呑んだ。
「私は、殿下を責めているわけではありません」
淡々と、しかしはっきりと。
「ただ――
その“選択の後始末”を、
他人に委ねることはできません」
善意で差し伸べたはずの手が、
静かに、しかし確実に拒まれた瞬間だった。
ミラは、その意味を、まだ理解できていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
【完結】これは紛うことなき政略結婚である
七瀬菜々
恋愛
没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。
金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。
互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。
アンリエッタはそう思っていた。
けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?
*この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。
ーーーーーーーーーー
*主要な登場人物*
○アンリエッタ・ペリゴール
いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。
○クロード・ウェルズリー
一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。
○ニコル
アンリエッタの侍女。
アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。
○ミゲル
クロードの秘書。
優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる