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第12話 すれ違う正しさ
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第12話 すれ違う正しさ
王宮に、ひとつの正式な文書が回った。
――次期王妃候補として、聖女ミラを中心に据えた体制を試行する、という内容だ。
試行。
あくまで暫定。
だが、文面ははっきりと示していた。
「……いよいよ、ですね」
ミラは、その文書を読み終え、穏やかに息を吐いた。
不安よりも、使命感が先に立つ。
(殿下を支える役目が、正式に認められた……)
彼女にとって、それは喜ばしいことだった。
一方、アークトゥルスは、同じ文書を前にして、複雑な表情を浮かべていた。
「……これで、いいのかな……」
呟きは小さい。
ミラは、すぐに答える。
「はい。殿下が悩まなくて済むよう、
王宮が配慮してくださったのです」
「……悩まなくて、済む……」
その言葉を、彼は繰り返す。
以前なら、
「自分で決めなければならない」と感じていたはずの場面。
だが今は、違った。
(皆が、こうして整えてくれるなら……)
安心と同時に、どこかで小さな違和感が芽生える。
その頃、王宮を離れたデネブのもとにも、噂が届いていた。
「……聖女様が、実質的に取り仕切っている、と」
侯爵家の執事が、慎重に報告する。
デネブは、紅茶を口にしながら静かに頷いた。
「そう……」
驚きはなかった。
「殿下は、何と?」
「……殿下ご自身のお言葉は、ほとんど……」
執事は言葉を濁す。
デネブは、カップを置いた。
「それが、答えですわね」
怒りも、悲しみもない。
ただ、確認。
「誰かが代わりに進めてくれる状況を、
受け入れた時点で……
その方は、自分で選ばない道を選んだのです」
執事は、静かに頭を下げた。
一方、王宮では、別の空気が流れていた。
「……聖女が前に出すぎている」
「だが、殿下は否定なさらない」
「否定しない、のではない。
できないのだ」
評価は、ますます厳しくなる。
ミラは、その視線に気づいていないわけではなかった。
だが、彼女の中では、すべてが一本の線でつながっている。
(殿下を守るため)
(殿下が傷つかないため)
(殿下が壊れないため)
その正しさを、疑う理由がなかった。
夜、アークトゥルスは一人、窓辺に立つ。
遠くに見える灯り。
かつて、デネブと並んで見た景色。
(……彼女なら、何と言っただろう)
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが、すぐに首を振った。
(もう、戻れない)
戻らないのではない。
戻れないと、決めてしまった。
同じ夜、デネブは書斎で一人、筆を走らせていた。
これからの人生の計画。
政治に振り回されない、自分自身の選択。
「……すれ違っていたのね」
小さく呟く。
誰が悪いわけでもない。
だが、正しさは一つではなかった。
そして――
互いの正しさが交わらないと分かった今、
道が分かれるのは、必然だった。
この日、
王太子と元婚約者は、
完全に――
同じ未来を見ることをやめた。
王宮に、ひとつの正式な文書が回った。
――次期王妃候補として、聖女ミラを中心に据えた体制を試行する、という内容だ。
試行。
あくまで暫定。
だが、文面ははっきりと示していた。
「……いよいよ、ですね」
ミラは、その文書を読み終え、穏やかに息を吐いた。
不安よりも、使命感が先に立つ。
(殿下を支える役目が、正式に認められた……)
彼女にとって、それは喜ばしいことだった。
一方、アークトゥルスは、同じ文書を前にして、複雑な表情を浮かべていた。
「……これで、いいのかな……」
呟きは小さい。
ミラは、すぐに答える。
「はい。殿下が悩まなくて済むよう、
王宮が配慮してくださったのです」
「……悩まなくて、済む……」
その言葉を、彼は繰り返す。
以前なら、
「自分で決めなければならない」と感じていたはずの場面。
だが今は、違った。
(皆が、こうして整えてくれるなら……)
安心と同時に、どこかで小さな違和感が芽生える。
その頃、王宮を離れたデネブのもとにも、噂が届いていた。
「……聖女様が、実質的に取り仕切っている、と」
侯爵家の執事が、慎重に報告する。
デネブは、紅茶を口にしながら静かに頷いた。
「そう……」
驚きはなかった。
「殿下は、何と?」
「……殿下ご自身のお言葉は、ほとんど……」
執事は言葉を濁す。
デネブは、カップを置いた。
「それが、答えですわね」
怒りも、悲しみもない。
ただ、確認。
「誰かが代わりに進めてくれる状況を、
受け入れた時点で……
その方は、自分で選ばない道を選んだのです」
執事は、静かに頭を下げた。
一方、王宮では、別の空気が流れていた。
「……聖女が前に出すぎている」
「だが、殿下は否定なさらない」
「否定しない、のではない。
できないのだ」
評価は、ますます厳しくなる。
ミラは、その視線に気づいていないわけではなかった。
だが、彼女の中では、すべてが一本の線でつながっている。
(殿下を守るため)
(殿下が傷つかないため)
(殿下が壊れないため)
その正しさを、疑う理由がなかった。
夜、アークトゥルスは一人、窓辺に立つ。
遠くに見える灯り。
かつて、デネブと並んで見た景色。
(……彼女なら、何と言っただろう)
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが、すぐに首を振った。
(もう、戻れない)
戻らないのではない。
戻れないと、決めてしまった。
同じ夜、デネブは書斎で一人、筆を走らせていた。
これからの人生の計画。
政治に振り回されない、自分自身の選択。
「……すれ違っていたのね」
小さく呟く。
誰が悪いわけでもない。
だが、正しさは一つではなかった。
そして――
互いの正しさが交わらないと分かった今、
道が分かれるのは、必然だった。
この日、
王太子と元婚約者は、
完全に――
同じ未来を見ることをやめた。
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