『泣きながら婚約破棄されたので了承しました ――なぜ婚約破棄した側の殿下が取り乱しているのですか? 捨てられたのは私では?――』

鷹 綾

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第31話 声を上げる者たち

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第31話 声を上げる者たち

 静かな崩れは、いつまでも沈黙のままではいられなかった。

 王宮の回廊で、ひそひそとした声が、次第に輪郭を持ち始める。

「……最近、殿下は冷たい」

「以前は、もっと融通が利いたのに」

「聖女様も、
 なぜあそこまで距離を取るのか……」

 不満は、直接本人に向けられることはない。
 だが、陰で積み重なり、形を変えていく。

 ――“やりづらくなった”。

 それが、彼らの本音だった。

 一方、アークトゥルスは、執務室で報告書に目を通していた。

「……この抗議文は?」

 差し出された書類に、眉をひそめる。

「一部の貴族からの連名です。
 『殿下の判断が急に厳しくなった』と……」

 読み終え、静かに紙を置く。

「……厳しく、か」

 以前なら、ここで誰かの顔色を思い浮かべ、
 対応を委ねていた。

 だが、今は違う。

「……返答は、こうだ」

 淡々と告げる。

「理由を明示した判断を、
 今後も続ける。
 それ以上でも、それ以下でもない」

 側近は、一瞬だけ戸惑い――
 やがて、深く頭を下げた。

「承知しました」

 その背中を見送りながら、
 アークトゥルスは、小さく息を吐く。

(……声を上げる、ということは)

 変化を、はっきりと感じ取った証拠だ。

 同じ頃、ミラのもとにも、視線が集まっていた。

「聖女様……
 殿下に、もう少し……
 柔らかく進言なさっては……」

 遠回しな要請。

 ミラは、穏やかに首を振った。

「殿下は、
 ご自身で決めておられます」

 それ以上、言葉を足さない。

「……以前のように、
 間に入っていただければ……」

「それは、
 殿下のためになりません」

 はっきりとした拒否。

 その場に、気まずい沈黙が落ちる。

 ミラは、その沈黙から目を逸らさなかった。

(……これが、
 私が選んだ立ち位置)

 守ることと、代わることは違う。
 その線を、今は越えない。

 一方、王宮の外では。

「……声が上がり始めましたね」

 協議会の席で、誰かがそう呟く。

 デネブは、静かに頷いた。

「仕組みが変わるとき、
 必ず起こる反応です」

「反発を、
 どう見るべきでしょう」

「成長痛です」

 即答だった。

「痛みを嫌って戻れば、
 また同じ形に戻るだけ」

 その言葉に、
 何人かが、静かに頷く。

 夜。

 アークトゥルスは、
 ひとり書斎で灯りを見つめていた。

(……嫌われても、いい)

 そう言い聞かせる。

 だが、本当は――
 嫌われたいわけではない。

(……それでも)

 理由を問う。
 自分で決める。

 その姿勢を、
 今は、手放さない。

 廊下の奥で、
 ミラが足を止める。

(……声を上げる人は、
 これからも増える)

 けれど、
 それに応える役目は、
 自分ではない。

 三人は、それぞれの場所で、
 同じ波を見ていた。

 変わった世界に、
 声を上げる者たち。

 そして――
 声を上げられること自体が、
 もう“前の世界ではない”証だった。

 第31話は、
 ざまぁが表面化する直前の軋み。

 次に来るのは――
 声を上げた者たちが、
 “選ばれなかった理由”を
 自分の立場で知る時間だ。
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