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第13話: 偽りの噂と最初の危機
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第13話: 偽りの噂と最初の危機
朝の陽光が『Rose Petal』の窓を優しく照らす頃、私はいつものように店を開けた。開店から一ヶ月近く。店は下町の女性たちの憩いの場としてすっかり定着し、今日は新しく作ったボディオイルの初売りだ。ラベンダーとローズの香りが店内に広がり、常連さんたちが早速試してくれている。
「エルカさん、このオイルいいわ! お風呂上がりに塗ったら、肌がつるつる」「私、昨日フェイスパック使って寝たら、旦那に『若返った?』って言われたのよ」「スコーンも今日のは特に美味しい!」
笑顔と感謝の言葉が次々と飛び交う。私は忙しく動きながら、心から幸せを感じていた。一人で始めた店が、ここまで愛されるなんて。ガーラミオ様の投資提案も頭にあるけど、まだ答えを出せずにいる。もう少し、自分の力だけでやってみたい気持ちが強い。
午前中は順調だった。売上も好調で、在庫が心配になるほど。
ところが、昼過ぎから様子がおかしくなった。
最初に入ってきた常連のエマさんが、なんだか顔色が悪い。
「エルカさん……ちょっと、変な噂を聞いてきて」
「噂? どんな?」
エマさんは声を潜めて言った。
「近所の井戸端で、『Rose Petal』のクリームに変なものが入ってるって。塗ったらかぶれた人がいる、とか……毒が入ってるんじゃないか、なんて話も」
私は一瞬、息を止めた。
「そんな……うちの商品は全部、自然のハーブとオイルだけですよ。毒なんてありえない」
「私も信じてないわ! でも、今日の客足がちょっと少ないでしょ? みんな、噂を聞いて様子見してるみたい」
確かに、いつもなら満席のカフェスペースが、今日は半分しか埋まっていない。他の常連さんたちも、なんとなく遠慮がちな様子だ。
胸に冷たいものが広がる。誰かが、意図的に噂を流している。偶然じゃない。
午後三時頃、今度は見知らぬ中年女性が二人、入ってきた。明らかに近所の人じゃない。服の生地が良く、貴族の使用人らしき雰囲気。
「この店のクリーム、毒が入ってるって本当かしら?」
一人が大声で言った。店内の空気が凍りつく。
「私、昨日塗ってから顔が赤くなって……もう使えないわ」
もう一人が同調する。明らかに演技だ。でも、周りのお客さんたちがざわつき始める。
私は冷静を保ち、カウンターから出た。
「お客様、申し訳ございません。もし不調がありましたら、すぐに商品をお預かりして調べます。成分はすべて天然のものだけですし、証明書もお作りできます」
女性たちは顔を見合わせ、鼻を鳴らした。
「ふん、もういいわ。二度と来ないから」
そう言い残して、出て行った。でも、その背中を見送りながら、確信した。これは仕組まれた妨害だ。
夕方近く、客足はさらに減った。常連さんの一部さえ、帰り際に心配そうな顔で「気をつけてね」とだけ言って去っていく。
店を閉め、鍵をかけた後、私はカウンターに座り込んだ。売上は過去最低。心が重い。
誰がこんなことを? 王宮の誰か……アルトゥーラ? それとも、ルークス殿下?
いや、考えすぎかもしれない。でも、婚約破棄の後、私の成功を妬む人はいるはずだ。
二階の部屋に戻り、夕食も喉を通らない。窓から見える商店街はいつも通り賑やかなのに、私の心だけが暗い。
「どうしよう……」
小さな声が漏れた。せっかくここまで来たのに、このまま潰されるの?
でも、すぐに首を振る。前世の私は、会社で困難なプロジェクトを何度も乗り越えた。残業続きでも、諦めなかった。ここで負けるわけにはいかない。
机に向かい、紙とペンを取る。まず、成分リストをすべて書き出す。ハーブの仕入れ先、作り方、保管方法。証明できるものは全部証明する。
次に、常連さんたちへのお手紙。明日、店頭に貼るお知らせも作る。
『お客様へ
最近、商品に関する誤った噂が流れているようです。当店の商品はすべて天然素材のみを使用し、安全性を最優先に作っております。不安な方は、成分の詳細や試供品の再テストをお受けください。私、エルカは皆様の信頼を裏切りません。
Rose Petal 店主 エルカ』
さらに、市場のハーブ商人に相談しよう。仕入れ証明書をもらえるかも。
疲れた体でベッドに横になりながら、思う。この妨害は、最初の試練だ。乗り越えれば、もっと強くなれる。
ガーラミオ様の顔が浮かぶ。あの投資提案……今なら、少し心が動く。でも、まだ一人で戦いたい。
――その夜、王宮。
アルトゥーラは侍女から報告を受け、満足げに微笑んでいた。
「噂は広がっています。今日だけで、数人の客が減ったようです」
「よくやったわ。次は、もっと決定的な一撃を」
アルトゥーラは鏡を見ながら、髪を梳く。
「エルカミーノ、あなたはもう過去の人。殿下の心に、二度と近づかせない」
ルークスは隣の部屋で、書類を眺めながら苛立っていた。側近が税務調査の手配を報告してきたが、なぜか胸がざわつく。
「本当に必要か……?」
小さな後悔が、また棘のように刺さる。でも、すぐに振り払う。
――下町の小さな店。
私は目を閉じ、静かに誓った。
噂なんて、怖くない。私の商品は本物。お客さんたちは、ちゃんとわかってくれる。
明日から、反撃開始。
小さな危機が、私をさらに強くする。
店は、まだ終わらない。
朝の陽光が『Rose Petal』の窓を優しく照らす頃、私はいつものように店を開けた。開店から一ヶ月近く。店は下町の女性たちの憩いの場としてすっかり定着し、今日は新しく作ったボディオイルの初売りだ。ラベンダーとローズの香りが店内に広がり、常連さんたちが早速試してくれている。
「エルカさん、このオイルいいわ! お風呂上がりに塗ったら、肌がつるつる」「私、昨日フェイスパック使って寝たら、旦那に『若返った?』って言われたのよ」「スコーンも今日のは特に美味しい!」
笑顔と感謝の言葉が次々と飛び交う。私は忙しく動きながら、心から幸せを感じていた。一人で始めた店が、ここまで愛されるなんて。ガーラミオ様の投資提案も頭にあるけど、まだ答えを出せずにいる。もう少し、自分の力だけでやってみたい気持ちが強い。
午前中は順調だった。売上も好調で、在庫が心配になるほど。
ところが、昼過ぎから様子がおかしくなった。
最初に入ってきた常連のエマさんが、なんだか顔色が悪い。
「エルカさん……ちょっと、変な噂を聞いてきて」
「噂? どんな?」
エマさんは声を潜めて言った。
「近所の井戸端で、『Rose Petal』のクリームに変なものが入ってるって。塗ったらかぶれた人がいる、とか……毒が入ってるんじゃないか、なんて話も」
私は一瞬、息を止めた。
「そんな……うちの商品は全部、自然のハーブとオイルだけですよ。毒なんてありえない」
「私も信じてないわ! でも、今日の客足がちょっと少ないでしょ? みんな、噂を聞いて様子見してるみたい」
確かに、いつもなら満席のカフェスペースが、今日は半分しか埋まっていない。他の常連さんたちも、なんとなく遠慮がちな様子だ。
胸に冷たいものが広がる。誰かが、意図的に噂を流している。偶然じゃない。
午後三時頃、今度は見知らぬ中年女性が二人、入ってきた。明らかに近所の人じゃない。服の生地が良く、貴族の使用人らしき雰囲気。
「この店のクリーム、毒が入ってるって本当かしら?」
一人が大声で言った。店内の空気が凍りつく。
「私、昨日塗ってから顔が赤くなって……もう使えないわ」
もう一人が同調する。明らかに演技だ。でも、周りのお客さんたちがざわつき始める。
私は冷静を保ち、カウンターから出た。
「お客様、申し訳ございません。もし不調がありましたら、すぐに商品をお預かりして調べます。成分はすべて天然のものだけですし、証明書もお作りできます」
女性たちは顔を見合わせ、鼻を鳴らした。
「ふん、もういいわ。二度と来ないから」
そう言い残して、出て行った。でも、その背中を見送りながら、確信した。これは仕組まれた妨害だ。
夕方近く、客足はさらに減った。常連さんの一部さえ、帰り際に心配そうな顔で「気をつけてね」とだけ言って去っていく。
店を閉め、鍵をかけた後、私はカウンターに座り込んだ。売上は過去最低。心が重い。
誰がこんなことを? 王宮の誰か……アルトゥーラ? それとも、ルークス殿下?
いや、考えすぎかもしれない。でも、婚約破棄の後、私の成功を妬む人はいるはずだ。
二階の部屋に戻り、夕食も喉を通らない。窓から見える商店街はいつも通り賑やかなのに、私の心だけが暗い。
「どうしよう……」
小さな声が漏れた。せっかくここまで来たのに、このまま潰されるの?
でも、すぐに首を振る。前世の私は、会社で困難なプロジェクトを何度も乗り越えた。残業続きでも、諦めなかった。ここで負けるわけにはいかない。
机に向かい、紙とペンを取る。まず、成分リストをすべて書き出す。ハーブの仕入れ先、作り方、保管方法。証明できるものは全部証明する。
次に、常連さんたちへのお手紙。明日、店頭に貼るお知らせも作る。
『お客様へ
最近、商品に関する誤った噂が流れているようです。当店の商品はすべて天然素材のみを使用し、安全性を最優先に作っております。不安な方は、成分の詳細や試供品の再テストをお受けください。私、エルカは皆様の信頼を裏切りません。
Rose Petal 店主 エルカ』
さらに、市場のハーブ商人に相談しよう。仕入れ証明書をもらえるかも。
疲れた体でベッドに横になりながら、思う。この妨害は、最初の試練だ。乗り越えれば、もっと強くなれる。
ガーラミオ様の顔が浮かぶ。あの投資提案……今なら、少し心が動く。でも、まだ一人で戦いたい。
――その夜、王宮。
アルトゥーラは侍女から報告を受け、満足げに微笑んでいた。
「噂は広がっています。今日だけで、数人の客が減ったようです」
「よくやったわ。次は、もっと決定的な一撃を」
アルトゥーラは鏡を見ながら、髪を梳く。
「エルカミーノ、あなたはもう過去の人。殿下の心に、二度と近づかせない」
ルークスは隣の部屋で、書類を眺めながら苛立っていた。側近が税務調査の手配を報告してきたが、なぜか胸がざわつく。
「本当に必要か……?」
小さな後悔が、また棘のように刺さる。でも、すぐに振り払う。
――下町の小さな店。
私は目を閉じ、静かに誓った。
噂なんて、怖くない。私の商品は本物。お客さんたちは、ちゃんとわかってくれる。
明日から、反撃開始。
小さな危機が、私をさらに強くする。
店は、まだ終わらない。
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