婚約破棄された令嬢の華麗なる逆転劇 ~王太子の後悔と私の新しい恋~」

鷹 綾

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第17話: 敵の焦りと小さな転落

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第17話: 敵の焦りと小さな転落

王宮の聖女私室は、豪華な絨毯と金縁の鏡で飾られていたが、今日のアルトゥーラの気分は最悪だった。鏡台の前に座り、侍女に髪を梳かせながら、苛立った声で尋ねる。

「指輪の製作者は、まだ見つからないの?」

侍女は恐縮しながら頭を下げた。

「申し訳ございません。突然姿を消してしまい……町の情報屋にも心当たりがないそうです」

アルトゥーラは鏡の中の自分を睨んだ。美しい金髪、青い瞳、無垢な笑顔――すべてが完璧に演出されたもの。でも、今はその仮面が、少しずつ剥がれ落ちそうで怖い。

税務調査が失敗に終わったのは、ヴェルディアのガーラミオの介入だ。あの冷徹公爵が、下町の小さな店を守っている。なぜ? エルカミーノのため? まさか、あの女と――。

「絶対に許さない」

小さな呟きが漏れた。ルークスを魅了した時も、婚約破棄を仕組んだ時も、すべて計画通りだった。平民出身の自分が、王妃になる道は目前だ。なのに、エルカミーノが邪魔をする。

侍女に命じて、下町の最新情報を集めさせた。

「『Rose Petal』は、税務調査を乗り越えて、ますます繁盛しているそうです。ガーラミオ様が投資し、来月には店舗を拡大する予定だとか」

アルトゥーラの拳が震えた。

「拡大? あの女が、ますます調子に乗るのね」

焦りが胸を締めつける。ルークスに相談しようかと思ったが、最近の彼は機嫌が悪い。エルカミーノの名前を出すだけで、苛立つ。

「自分で、何とかしなくちゃ」

アルトゥーラは立ち上がり、隠し引き出しから小さな瓶を取り出した。中身は、癒しの力を演出するための特殊な薬草粉末。残り少ない。これがなくなれば、本物の微弱な力だけでは、聖女の地位を保てない。

「もっと強力な妨害を……」

彼女は侍女に命じた。

「下町のならず者たちを探して。金で雇える連中を。『Rose Petal』を襲わせて、商品を壊すのよ。火を付けるくらいでもいいわ」

侍女が青ざめる。

「聖女様、そんな危険な……」

「黙りなさい! あれがなくなれば、すべて元通りよ」

アルトゥーラの目が、狂おしい光を帯びた。腹黒い本性が、完全に露わになる瞬間。

――一方、王太子の執務室。

ルークスは窓辺に立ち、王都を見下ろしていた。側近の報告が、頭に残っている。

「『Rose Petal』の店は、ヴェルディア家の支援でさらに成長しています。中級貴族の奥方たちまでもが、通うようになったそうです」

ルークスは苛立ったように拳を握った。

「ガーラミオが、そこまでするか……」

エルカミーノの成功が、胸をざわつかせる。あの完璧な令嬢が、下町で商売を続け、しかも繁盛させている。自分がいなくても、彼女は輝いている。

婚約破棄の宴を思い出す。あの時、エルカミーノは涙一つ見せず、静かに退出した。強がりだと思っていたのに、今は違う。あれは、本物の強さだったのかもしれない。

アルトゥーラの顔が浮かぶ。彼女の癒しの力に救われ、運命だと信じた。でも、最近、彼女の態度に違和感がある。支配的で、わがまま。自分の意見を曲げない。

「俺の選択は……本当に正しかったのか?」

小さな後悔が、声になって漏れた。側近が心配そうに見ているが、無視する。

夕食の席で、アルトゥーラが寄り添ってきた。

「殿下、結婚式の準備が進んでいますわ。ドレスも決まりましたのよ」

ルークスは笑顔を作ったが、心は曇っている。

「そうだな……楽しみだ」

でも、言葉が空虚に響く。アルトゥーラは気づかず、甘えるように続ける。

「エルカミーノの店のこと、気にしないでくださいませ。あんな下町の遊び、すぐに飽きられますわ」

その言葉に、ルークスは苛立った。

「もう、その話はするな」

アルトゥーラが驚いた顔をする。ルークスは立ち上がり、部屋を出た。一人になると、胸の棘が痛む。

――その夜、下町の路地。

アルトゥーラが雇ったならず者たちが、数人で集まっていた。リーダーが金貨の袋を振りながら言う。

「聖女様の依頼だ。『Rose Petal』って店を襲え。商品を壊し、脅して来るなって言え。火を付けるなら、追加の金だ」

部下たちがニヤリと笑う。

「簡単な仕事だな。明日、夜中にやるか」

彼らは知らない。その会話を、ガーラミオの情報員が、影から聞いていたことを。

――『Rose Petal』の二階。

私はガーラミオと、遅くまで計画を練っていた。彼が店に残り、証拠の最終確認をしている。

「ならず者たちが動くらしい。明日夜だ」

ガーラミオの報告に、私は頷いた。

「罠を張りましょう。王宮衛兵を呼んで、捕まえれば、アルトゥーラへの証拠になる」

彼は私の手を握り、静かに言った。

「危険だ。君は安全なところに」

「いや、一緒にいます。これは私の戦い」

ガーラミオは少し迷い、微笑んだ。

「強いな、君は」

甘い視線が絡む。今日も、手を握り合った温もりが残っている。

敵の焦りは、深まる。アルトゥーラの計画は、小さな失敗に向かう。

ルークスの後悔は、少しずつ形になる。

そして、私たちは――勝ち始める。

小さなザマアの予感。ならず者たちの襲撃は、逆にアルトゥーラの足をすくう。

私の逆転は、すぐそこだ。

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