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第20話: 二人だけの時間と甘い約束
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第20話: 二人だけの時間と甘い約束
結婚式まであと一週間。王宮の準備で王都が華やぐ中、『Rose Petal』の拡大工事はほぼ終わりを迎えていた。新しくなった広い店内は、薔薇の香りとティーの温かさで満ち、女性客たちが「まるでお姫様のサロンみたい!」と目を輝かせている。リナも手慣れた動きで接客をし、私の負担はかなり軽くなった。
今日は珍しく、店を早めに閉めた。ガーラミオ様が「少し時間をくれ」と前日に言っていたからだ。工事の最終チェックも終わり、明日は休みにする予定だった。
夕方、店を閉めて二階の部屋で着替えていると、扉のベルが鳴った。降りてみると、ガーラミオが待っていた。今日は公爵家の正装ではなく、シンプルで動きやすいダークブルーのコート。銀色の髪を軽く風になびかせ、手に小さな籠を持っている。
「準備はできたか?」
「はい。でも、どこに行くんですか?」
彼は少しだけ微笑み、私の手を取った。
「秘密だ。馬車を用意してある」
店を出て、待っていた馬車に乗り込む。王都の外れへ向かう道。夕陽が街を茜色に染め、窓から見える景色が美しい。私は彼の隣に座り、自然と肩が触れ合う。
「ガーラミオ様、今日は本当にありがとうございます。店のこと、証拠のこと……そして、私のこと」
彼は私の手を握り、静かに言った。
「君が頑張っているからだ。俺は、ただ傍にいたいだけ」
甘い言葉に、胸が熱くなる。馬車は王都を抜け、郊外の静かな丘へ。そこに、小さな湖と森がある隠れた場所。貴族が時折訪れるピクニックスポットだが、今日は誰もいないようだ。
馬車が止まり、ガーラミオが籠を持って降りる。私をエスコートし、湖畔の芝生へ。そこに、すでに毛布とクッションが敷かれていた。彼が事前に手配していたらしい。
「ここで、少しゆっくりしよう」
籠を開けると、中には私の作ったスコーンとティー、それに新鮮なフルーツとチーズ、サンドイッチ。すべてが、私の好みを考えたものだ。
「これ……ガーラミオ様が?」
「一部は、君の店のものを。残りは、俺が作らせた」
彼は少し照れたように言った。冷徹な公爵子息が、ピクニックを準備してくれるなんて。想像しただけで、胸がきゅんとする。
二人で毛布に座り、ティーを飲む。湖面に夕陽が映り、風が優しく吹く。鳥の声と、水の音だけが聞こえる静かな時間。
「綺麗……こんな場所、知らなかった」
「ヴェルディア家の隠れスポットだ。幼い頃、母と来たことがある」
彼の過去を思い出し、私はそっと手を重ねた。
「ガーラミオ様の母上様、優しそうな方だったんですね」
「ああ……君に、少し似ている。強いけど、温かい」
突然の言葉に、頰が赤くなる。彼はフルーツを手に取り、私の口元に運ぶ。
「食べてみろ。甘いぞ」
恥ずかしいけど、口を開けて食べる。甘酸っぱいベリーの味。彼も同じものを食べ、笑う。
「美味しいな」
二人でサンドイッチを分け、スコーンを蜂蜜で食べる。ティーをお代わりし、話は自然と未来へ。
「結婚式が終わったら、店をさらに大きくしましょう。貴族街にも支店を」
「え、そんなに……」
「君の才能なら、可能だ。俺が支える」
彼の瞳が、真剣だ。私は頷き、胸の想いを伝えた。
「ガーラミオ様……私、あなたがいなかったら、こんなに強くなれなかった。婚約破棄されて、どん底だった時、あなたが店に来てくれて……本当に、救われた」
彼は私の頰に手を触れ、優しく言った。
「俺もだ。君に出会って、初めて心が温かくなった。冷徹な仮面を、外せたのは君のおかげだ」
視線が絡む。夕陽が沈み、湖面が黄金色に輝く。
彼がゆっくりと体を寄せ、私を抱き寄せた。肩に頭を預け、互いの鼓動を感じる。
「エルカ……愛している。本当に」
「私も……ガーラミオ様を、愛しています」
言葉を交わし、自然と唇が触れ合う。優しく、甘いキス。初めての本当のキス。夕陽の残光の中で、時間が止まるようだった。
キスが終わり、額を寄せ合う。
「結婚式が終わったら……正式に、俺のものになってくれ」
プロポーズのような言葉。私は涙を浮かべて頷いた。
「はい……嬉しい」
二人で湖を見ながら、未来を語り合う。店のこと、旅のこと、二人で過ごす日常のこと。
夜が近づき、星が瞬き始める。馬車で帰る道中も、手を離さない。
――王宮。
アルトゥーラは、結婚式の最終確認をしながら、不安を隠せなかった。エルカミーノとガーラミオの同伴出席。ヴェルディア家の力が、ますます脅威に感じる。
ルークスは、ベッドで眠れぬ夜を過ごしていた。エルカミーノが来る。あの成功した姿で。ガーラミオと一緒に。
後悔が、嵐のように胸を叩く。
――王都の下町。
馬車から降り、店に戻った私たちは、扉の前で再びキスを交わした。
「明日も、来る」
「待っています」
ガーラミオが去った後、私は二階の部屋で、頰を押さえた。熱い。幸せでいっぱい。
結婚式は、嵐の予感。でも、私たちは準備できた。
恋は深まった。甘い約束が、私たちを結ぶ。
あの舞台で、すべてを終わらせて。
そして、本当の幸せを始める。
私の新しい恋は、輝いている。
結婚式まであと一週間。王宮の準備で王都が華やぐ中、『Rose Petal』の拡大工事はほぼ終わりを迎えていた。新しくなった広い店内は、薔薇の香りとティーの温かさで満ち、女性客たちが「まるでお姫様のサロンみたい!」と目を輝かせている。リナも手慣れた動きで接客をし、私の負担はかなり軽くなった。
今日は珍しく、店を早めに閉めた。ガーラミオ様が「少し時間をくれ」と前日に言っていたからだ。工事の最終チェックも終わり、明日は休みにする予定だった。
夕方、店を閉めて二階の部屋で着替えていると、扉のベルが鳴った。降りてみると、ガーラミオが待っていた。今日は公爵家の正装ではなく、シンプルで動きやすいダークブルーのコート。銀色の髪を軽く風になびかせ、手に小さな籠を持っている。
「準備はできたか?」
「はい。でも、どこに行くんですか?」
彼は少しだけ微笑み、私の手を取った。
「秘密だ。馬車を用意してある」
店を出て、待っていた馬車に乗り込む。王都の外れへ向かう道。夕陽が街を茜色に染め、窓から見える景色が美しい。私は彼の隣に座り、自然と肩が触れ合う。
「ガーラミオ様、今日は本当にありがとうございます。店のこと、証拠のこと……そして、私のこと」
彼は私の手を握り、静かに言った。
「君が頑張っているからだ。俺は、ただ傍にいたいだけ」
甘い言葉に、胸が熱くなる。馬車は王都を抜け、郊外の静かな丘へ。そこに、小さな湖と森がある隠れた場所。貴族が時折訪れるピクニックスポットだが、今日は誰もいないようだ。
馬車が止まり、ガーラミオが籠を持って降りる。私をエスコートし、湖畔の芝生へ。そこに、すでに毛布とクッションが敷かれていた。彼が事前に手配していたらしい。
「ここで、少しゆっくりしよう」
籠を開けると、中には私の作ったスコーンとティー、それに新鮮なフルーツとチーズ、サンドイッチ。すべてが、私の好みを考えたものだ。
「これ……ガーラミオ様が?」
「一部は、君の店のものを。残りは、俺が作らせた」
彼は少し照れたように言った。冷徹な公爵子息が、ピクニックを準備してくれるなんて。想像しただけで、胸がきゅんとする。
二人で毛布に座り、ティーを飲む。湖面に夕陽が映り、風が優しく吹く。鳥の声と、水の音だけが聞こえる静かな時間。
「綺麗……こんな場所、知らなかった」
「ヴェルディア家の隠れスポットだ。幼い頃、母と来たことがある」
彼の過去を思い出し、私はそっと手を重ねた。
「ガーラミオ様の母上様、優しそうな方だったんですね」
「ああ……君に、少し似ている。強いけど、温かい」
突然の言葉に、頰が赤くなる。彼はフルーツを手に取り、私の口元に運ぶ。
「食べてみろ。甘いぞ」
恥ずかしいけど、口を開けて食べる。甘酸っぱいベリーの味。彼も同じものを食べ、笑う。
「美味しいな」
二人でサンドイッチを分け、スコーンを蜂蜜で食べる。ティーをお代わりし、話は自然と未来へ。
「結婚式が終わったら、店をさらに大きくしましょう。貴族街にも支店を」
「え、そんなに……」
「君の才能なら、可能だ。俺が支える」
彼の瞳が、真剣だ。私は頷き、胸の想いを伝えた。
「ガーラミオ様……私、あなたがいなかったら、こんなに強くなれなかった。婚約破棄されて、どん底だった時、あなたが店に来てくれて……本当に、救われた」
彼は私の頰に手を触れ、優しく言った。
「俺もだ。君に出会って、初めて心が温かくなった。冷徹な仮面を、外せたのは君のおかげだ」
視線が絡む。夕陽が沈み、湖面が黄金色に輝く。
彼がゆっくりと体を寄せ、私を抱き寄せた。肩に頭を預け、互いの鼓動を感じる。
「エルカ……愛している。本当に」
「私も……ガーラミオ様を、愛しています」
言葉を交わし、自然と唇が触れ合う。優しく、甘いキス。初めての本当のキス。夕陽の残光の中で、時間が止まるようだった。
キスが終わり、額を寄せ合う。
「結婚式が終わったら……正式に、俺のものになってくれ」
プロポーズのような言葉。私は涙を浮かべて頷いた。
「はい……嬉しい」
二人で湖を見ながら、未来を語り合う。店のこと、旅のこと、二人で過ごす日常のこと。
夜が近づき、星が瞬き始める。馬車で帰る道中も、手を離さない。
――王宮。
アルトゥーラは、結婚式の最終確認をしながら、不安を隠せなかった。エルカミーノとガーラミオの同伴出席。ヴェルディア家の力が、ますます脅威に感じる。
ルークスは、ベッドで眠れぬ夜を過ごしていた。エルカミーノが来る。あの成功した姿で。ガーラミオと一緒に。
後悔が、嵐のように胸を叩く。
――王都の下町。
馬車から降り、店に戻った私たちは、扉の前で再びキスを交わした。
「明日も、来る」
「待っています」
ガーラミオが去った後、私は二階の部屋で、頰を押さえた。熱い。幸せでいっぱい。
結婚式は、嵐の予感。でも、私たちは準備できた。
恋は深まった。甘い約束が、私たちを結ぶ。
あの舞台で、すべてを終わらせて。
そして、本当の幸せを始める。
私の新しい恋は、輝いている。
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