婚約破棄された令嬢の華麗なる逆転劇 ~王太子の後悔と私の新しい恋~」

鷹 綾

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第25話: 結婚式当日と静かなる登場

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第25話: 結婚式当日と静かなる登場

予定されていたルークス王太子とアルトゥーラの結婚式当日。王宮の大ホールは、本来なら花と絨毯で飾られ、数千の貴族と民衆の代表が詰めかけるはずだった。しかし、前夜のアルトゥーラの現行犯逮捕により、式は中止。ホールは厳重な衛兵に守られ、出席予定の貴族たちだけが、真相究明の集会として招集されていた。

私はガーラミオ様と馬車で王宮へ向かった。ドレスは淡いブルーのシルク。サファイアのネックレスと指輪が輝き、髪は優雅にアップにしている。鏡で見た自分は、かつての完璧な令嬢を超えた、自信に満ちた女性だった。

馬車の中で、ガーラミオ様が私の手を取った。

「緊張しているか?」

「少し。でも、もう怖くない。あなたがいるから」

彼は微笑み、額にキスを落とした。

「君の舞台だ。堂々と、勝利を掴め」

王宮の正門に着くと、衛兵たちが敬礼した。ヴェルディア公爵家の馬車と知り、道を開ける。ホールに入ると、貴族たちの視線が一斉に集まった。驚き、好奇心、同情、そして――羨望。

「あれがエルカミーノ様?」「美しくなられた……」「ガーラミオ様と、本当にご一緒で」

私はガーラミオ様の腕に手を添え、優雅に歩いた。あの宴で捨てられた場所に、今、勝者として戻ってきた。

玉座近くの席に案内されると、ルークス殿下が立っていた。隣にアルトゥーラはいない。彼女は別室で拘束されているらしい。

ルークス殿下の顔は青白く、目は落ちくぼんでいる。私を見た瞬間、表情が凍りついた。

「エルカミーノ……来てくれたのか」

声が掠れている。私は軽く頭を下げ、微笑んだ。

「招待状をいただきましたので。当然、出席いたします」

ガーラミオ様が私の隣に立ち、冷たくルークスを見据える。

「殿下、真相究明の場ですね。ヴェルディア家として、公正な判断を期待します」

ホールが静まり返る。貴族たちが息を呑む。

ルークスは席に座り、側近に合図した。

「アルトゥーラを連れてこい。そして、調査結果を発表せよ」

衛兵がアルトゥーラを連れてきた。彼女は華やかなドレスではなく、簡素な拘束衣。髪は乱れ、化粧も落ち、顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

「殿下……信じて! 私は無実ですわ!」

ルークスは冷たく見下ろした。

「無実? 毒瓶を持っていたのは事実だ。エルカミーノの店を狙った理由を、説明しろ」

アルトゥーラは震え、言葉を失う。貴族たちの視線が刺さる。

側近が調査結果を読み上げた。

「聖女アルトゥーラの癒しの力は、薬草粉末と人工魔法石による偽装であることが判明。指輪の製作者、薬草仕入れ記録、調合再現実験により、証明されました。また、婚約破棄後の妨害行為――偽噂の流布、税務調査の誘導、ならず者の雇用、そして昨夜の毒撒き未遂――すべてアルトゥーラの指示によるものです」

ホールがどよめく。貴族たちが口々に囁く。

「偽りの聖女だったのか……」「王太子殿下を騙していたなんて」「エルカミーノ様が、被害者だったのね」

アルトゥーラは崩れ落ち、叫んだ。

「違う! 私は殿下を愛していただけ! エルカミーノが邪魔だったのよ!」

その言葉に、ルークス殿下の顔が歪んだ。

私は立ち上がり、静かに証拠の箱を側近に渡した。

「これが、決定的な証拠です。ご確認ください」

ガーラミオ様が私の傍に立ち、ヴェルディア家の権威で宣言した。

「この偽りは、王国に対する欺瞞です。公正な裁きを求めます」

ルークス殿下は証拠を見て、目を閉じた。肩が震えている。

「……アルトゥーラ、お前はすべてを偽っていたのか」

アルトゥーラは這いつくばり、ルークスの足にすがった。

「殿下、許して! 愛していたから……」

ルークスは冷たく足を振り払った。

「愛? お前の愛は、権力欲だ。俺を騙し、王座を狙っただけだ」

ホールが静寂に包まれる。ルークスは私の方を向き、掠れた声で言った。

「エルカミーノ……申し訳なかった。お前を、傷つけた」

私は静かに答えた。

「過去は、もういいです。私は今、幸せですから」

ガーラミオ様の手を握り、指輪を見せる。貴族たちがどよめく。

ルークス殿下の目が、絶望に染まる。

「……そうか。お前は、俺など必要なかったんだな」

彼の座は、揺らぎ始めた。王太子としての信頼を、失った。

アルトゥーラは衛兵に連れ去られ、泣き叫ぶ声がホールに響く。

私はガーラミオ様と席に戻り、静かに見守った。大スキャンダルは、王国中に広がるだろう。

ルークス殿下の転落が、始まった。

私の勝利。爽快な、華麗なる逆転。

ホールを出る時、貴族たちが頭を下げる。

「エルカミーノ様、お強い」「ヴェルディア公爵夫人に、ふさわしい」

私は微笑み、ガーラミオ様と馬車に乗り込んだ。

「終わったわ」

「いや、始まりだ」

彼のキスが、優しく降る。

結婚式当日は、私の勝利の日に変わった。

ザマアの幕開け。そして、私の幸せの始まり。

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