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第十九話 福利厚生です。みんなで愉しんだ方が、もっと楽しいですわ
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第十九話 福利厚生です。みんなで愉しんだ方が、もっと楽しいですわ
翌日。
ユニリーバ公爵邸の大ホールには、
昨日とはまったく違う空気が流れていた。
ざわざわ。
ひそひそ。
控えめだが、確実に――人の気配。
集まっているのは、
メイド、執事、料理人、庭師、厩務員。
そして、その家族たち。
子どもたちは落ち着きなく周囲を見回し、
大人たちは「本当にいいのだろうか」と
戸惑いを隠しきれない様子だった。
そんな中。
「皆さま、遠慮なさらないでくださいな」
そう声をかけて現れたのが、
ティモテ・ユニリーバだった。
普段通りの、
少し肩の力を抜いた装い。
式典用でも、
威厳を示すためでもない。
「今日は、演奏を聴くだけです」
ざわめきが、一段大きくなる。
「立場も、役職も関係ありません」
にこりと、微笑む。
「ここは私の屋敷ですし――
私が決めましたの」
一拍置いて、
さらりと続けた。
「福利厚生です」
一瞬、
理解が追いつかない沈黙。
次の瞬間、
誰かが小さく息を呑んだ。
(……福利、厚生?)
貴族が、
使用人とその家族に向かって使う言葉ではない。
だがティモテは、
まったく気にしていなかった。
「昨日、私ひとりで聴きましたの」
そう前置きしてから。
「とても、良かったですわ」
それだけで、十分だった。
やがて、
楽団が入場する。
昨日と同じ演奏者たち。
だが、今日の客席は違う。
子どもたちは目を輝かせ、
大人たちは背筋を伸ばしながらも、
どこか落ち着かない。
演奏が始まる。
最初の一音が鳴った瞬間、
ホールの空気が変わった。
ざわめきは消え、
音だけが、空間を満たす。
子どもが、思わず息を止める。
年配の使用人が、目を細める。
(……ああ)
(みんな、ちゃんと感じていますわね)
ティモテは、
その様子を少し後ろから眺めていた。
自分が主役ではない時間。
誰かを“管理”しない時間。
それが、
こんなにも心地いいとは思わなかった。
演奏が終わると、
自然と拍手が起きた。
遠慮がちだった手が、
次第に大きくなる。
子どもたちは、
素直に喜び、
大人たちは、戸惑いながらも笑顔を浮かべていた。
「……楽しかった」
誰かの小さな声が、
確かに聞こえた。
ティモテは、
その言葉に満足そうに頷く。
「でしょう?」
そして、
ゆっくりと皆の前に立つ。
「ひとりで楽しむのも、悪くありません」
一瞬、間を置く。
「でも――
みんなで愉しんだ方が、もっと楽しいですわ」
それは、
命令でも、理念でもない。
ただの、実感だった。
使用人たちは、
深く頭を下げた。
だが、
その表情は、今までとは違う。
恐れではなく、
義務でもなく――
信頼に近い何か。
(……ああ)
(これでいいのですわ)
忠誠を求めなくても、
支配しなくても、
自然と生まれる関係。
それを、
ティモテは初めて知った。
演奏会が終わり、
人々が帰っていく。
ホールに残った静けさの中で、
彼女はそっと息を吐いた。
「……楽しかったですわ」
それは、
昨日とは違う満足。
自分だけの贅沢ではなく、
共有した贅沢。
そしてその夜。
ユニリーバ公爵邸には、
目に見えない変化が、確かに根づき始めていた。
主は、命じる存在ではなく。
働かせる存在でもなく。
――共に楽しむ存在として。
ティモテ・ユニリーバは、
その変化に気づきながらも、
ただ穏やかに微笑んでいた。
翌日。
ユニリーバ公爵邸の大ホールには、
昨日とはまったく違う空気が流れていた。
ざわざわ。
ひそひそ。
控えめだが、確実に――人の気配。
集まっているのは、
メイド、執事、料理人、庭師、厩務員。
そして、その家族たち。
子どもたちは落ち着きなく周囲を見回し、
大人たちは「本当にいいのだろうか」と
戸惑いを隠しきれない様子だった。
そんな中。
「皆さま、遠慮なさらないでくださいな」
そう声をかけて現れたのが、
ティモテ・ユニリーバだった。
普段通りの、
少し肩の力を抜いた装い。
式典用でも、
威厳を示すためでもない。
「今日は、演奏を聴くだけです」
ざわめきが、一段大きくなる。
「立場も、役職も関係ありません」
にこりと、微笑む。
「ここは私の屋敷ですし――
私が決めましたの」
一拍置いて、
さらりと続けた。
「福利厚生です」
一瞬、
理解が追いつかない沈黙。
次の瞬間、
誰かが小さく息を呑んだ。
(……福利、厚生?)
貴族が、
使用人とその家族に向かって使う言葉ではない。
だがティモテは、
まったく気にしていなかった。
「昨日、私ひとりで聴きましたの」
そう前置きしてから。
「とても、良かったですわ」
それだけで、十分だった。
やがて、
楽団が入場する。
昨日と同じ演奏者たち。
だが、今日の客席は違う。
子どもたちは目を輝かせ、
大人たちは背筋を伸ばしながらも、
どこか落ち着かない。
演奏が始まる。
最初の一音が鳴った瞬間、
ホールの空気が変わった。
ざわめきは消え、
音だけが、空間を満たす。
子どもが、思わず息を止める。
年配の使用人が、目を細める。
(……ああ)
(みんな、ちゃんと感じていますわね)
ティモテは、
その様子を少し後ろから眺めていた。
自分が主役ではない時間。
誰かを“管理”しない時間。
それが、
こんなにも心地いいとは思わなかった。
演奏が終わると、
自然と拍手が起きた。
遠慮がちだった手が、
次第に大きくなる。
子どもたちは、
素直に喜び、
大人たちは、戸惑いながらも笑顔を浮かべていた。
「……楽しかった」
誰かの小さな声が、
確かに聞こえた。
ティモテは、
その言葉に満足そうに頷く。
「でしょう?」
そして、
ゆっくりと皆の前に立つ。
「ひとりで楽しむのも、悪くありません」
一瞬、間を置く。
「でも――
みんなで愉しんだ方が、もっと楽しいですわ」
それは、
命令でも、理念でもない。
ただの、実感だった。
使用人たちは、
深く頭を下げた。
だが、
その表情は、今までとは違う。
恐れではなく、
義務でもなく――
信頼に近い何か。
(……ああ)
(これでいいのですわ)
忠誠を求めなくても、
支配しなくても、
自然と生まれる関係。
それを、
ティモテは初めて知った。
演奏会が終わり、
人々が帰っていく。
ホールに残った静けさの中で、
彼女はそっと息を吐いた。
「……楽しかったですわ」
それは、
昨日とは違う満足。
自分だけの贅沢ではなく、
共有した贅沢。
そしてその夜。
ユニリーバ公爵邸には、
目に見えない変化が、確かに根づき始めていた。
主は、命じる存在ではなく。
働かせる存在でもなく。
――共に楽しむ存在として。
ティモテ・ユニリーバは、
その変化に気づきながらも、
ただ穏やかに微笑んでいた。
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