『婚約破棄されたので、せっかくの異世界を観光と遊びで満喫します!』

鷹 綾

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第二十二話 働く?そんな暇ありません!――テニスコートを見つけましたわ

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第二十二話 働く?そんな暇ありません!――テニスコートを見つけましたわ

バーベキューパーティーの翌日。

ティモテ・ユニリーバは、
屋敷の敷地図を広げながら、
まだ使っていない場所を確認していた。

(プール、浴室、食堂、ホール……)

指でなぞりながら、
ふと、ある区画で手が止まる。

「……これは、何かしら?」

庭園のさらに奥。
長方形の空間。

説明書きには、簡素にこうあった。

――球戯場。

「球……戯?」

首をかしげながら、
実際に足を運んでみる。

そこには、
整えられた平坦な地面。
中央には低い仕切りのようなもの。

「……あ」

ティモテの脳裏に、
前世の記憶がよみがえる。

(これは……)

(テニス……の原型ですわね)

この世界にも、
似たような競技は存在していた。

激しく打ち合うものではなく、
貴族の女性たちが
優雅に球を打ち合う――
社交のための遊戯。

前世で言うなら、
十六世紀から十八世紀の
フランスやイギリスで親しまれていた
「ジュ・ド・ポーム」に近い。

(なるほど)

(屋敷にあるのも、納得ですわ)

だが。

ティモテは、
自分のドレスを見下ろした。

長い裾。
締めつけられた胴。

「……このドレスでプレイ?」

一歩、踏み出してみる。

裾が、引っかかる。

「……無理ですわね」

即断だった。

「テニスに、変えてしまいましょう」

そう言って、
彼女は迷わず指示を出す。

・ラケットは軽量化
・動きやすい設計
・膝丈程度の、クラシックな衣装

派手さは不要。
だが、上品さは残す。

「“遊ぶための服”ですもの」

数日後。

敷地内の球戯場には、
新しい光景が生まれていた。

ティモテは、
膝丈のテニスウェアに身を包み、
軽く身体を伸ばす。

「……いいですわ」

動ける。
息苦しくない。

(服一つで、
こんなにも違うのですね)

相手は、
メイドたち。

「よろしければ、
お付き合い願えますか?」

最初は戸惑っていた彼女たちも、
主の楽しそうな様子に、
次第に笑顔を見せる。

球が、飛ぶ。

軽く。
優しく。

勝敗を競うものではない。

「今の、いいですわ!」 「次、行きます!」

声が飛び交い、
自然と笑い声が混じる。

(……楽しい)

(本当に)

ティモテは、
汗をかきながら確信する。

「働く?」

ラケットを持ったまま、
くるりと振り返り、
朗らかに宣言する。

「そんな暇ありません!
遊ぶのに忙しいんです!」

その言葉に、
メイドたちが思わず笑った。

こうして。

ユニリーバ公爵邸では、
古い球戯は
“テニス”という形で生まれ変わる。

やがてそれが、
貴族社会に広まり、
貴族のスポーツとして
発展していくことになるのだが――

それは、
まだ少し先の話。

今はただ。

ティモテ・ユニリーバは、
青空の下、
思いきり身体を動かし、
心から楽しんでいた。

それこそが、
彼女が選んだ
「働かない人生」の、
何よりの証だった。
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