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第10話: メニュー拡大
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カフェの繁盛は、日を追うごとに加速していた。
開業から十日目。朝の空気が少し冷たくなり、森の葉が赤や金色に染まり始めていた。秋の訪れだ。
「おはよう、エレナお姉様! 今日は新しいメニュー、楽しみです!」
ミアが尻尾をぶんぶん振って、カウンターに並べられた試作品を覗き込む。今日のテーマは「秋の味覚」。この世界の栗に似た実と、かぼちゃのような野菜を使って、新しいスイーツを開発した。
「ミアちゃん、味見してくれる?」
私は魔法で作ったばかりの「モンブラン」と「パンプキンプリン」をミアの前に置いた。モンブランは栗ペーストをたっぷり絞り、パンプキンプリンはシナモンと蜂蜜で香りづけ。どちらも魔力回復と体力向上の効果を強めに付与してある。
ミアがスプーンを口に運ぶと、耳がぴょんと立った。
「わあっ……! 栗の味が濃くて、甘くて……幸せ……! プリンもとろとろで、あったかい!」
「良かった。今日からメニューに加えましょう」
リオンが奥のテーブルで地図を広げながら、こちらを見た。
「朝から甘い香りがすごいな。今日も魔物を呼び寄せそうだ」
最近、甘い香りが原因で魔物が寄ってくる頻度が増えていた。リオンが毎晩見回りをしてくれているおかげで大事には至っていないけど、そろそろ限界かもしれない。
「リオンさん、ありがとう。あなたがいなかったら、私たち守れなかったわ」
「……当然だ」
リオンは少し顔を赤らめて、地図に視線を戻した。ミアがくすくす笑う。
「リオンお兄様、照れてる~」
「黙れ、小僧」
そんな穏やかなやり取りが、私たちの日常になっていた。
開店時間になると、今日も常連さんが次々とやってきた。
最初に来たのは、ランクBのパーティーのリーダー、大剣使いのガルドさん。
「おう、エレナ嬢! ミアちゃんも元気か! 新しいメニューあるって聞いたぜ!」
「はい! 秋限定のモンブランとパンプキンプリンです。魔力回復効果も抜群ですよ」
ガルドさんたちは昨日、大型の魔物を討伐してきたらしく、みんな疲れ切っていた。
モンブランを食べた瞬間、ガルドさんが大声を上げた。
「おおお……なんだこの味! 栗の風味が爆発してる! 魔力がごぽごぽ戻ってくるぞ!」
他のメンバーもプリンを食べて、目を輝かせた。
「嬢ちゃん、毎回驚かされるな。街の菓子屋じゃ絶対味わえねえ味だ」
「ありがとうございます。みんなが元気になってくれれば、それで嬉しいわ」
お客さんたちは追加注文を繰り返し、今日も売り上げは好調だった。
午後には、新しいお客さんが増えた。ルミナスの街からわざわざ馬車で来た商人一行だ。
「噂の魔法カフェですね。甘い香りが遠くまで漂ってましたよ」
商人たちは高級志向らしく、メニューをすべて注文してくれた。モンブランを食べた商人の奥さんが、感動のあまり涙ぐんだ。
「こんな美味しいスイーツ、故郷の王都でも味わったことがありません……」
私は少し胸が熱くなった。元の世界では、貴族令嬢として高級なお菓子を食べていたけど、自分で作って誰かを喜ばせるなんて、初めてだ。
商人たちは大量に持ち帰り用のクッキーを買い、街で販売の交渉まで持ちかけてきた。
「嬢ちゃん、この味なら街で大儲けできるぞ。一緒に店を出さないか?」
「ありがとうございます。検討させていただきます」
街への進出――本気で考え始める時期が来た。
夕方近く、今日一番の盛り上がりになった。
冒険者ギルドの公認パーティーが十人以上でやってきた。みんな森の奥で魔物の群れに遭遇したらしく、傷だらけで逃げてきたらしい。
「助けてくれ……回復ポーションが切れて……」
私は慌てて全員に席を用意し、特大の回復メニューを出した。パンプキンスープの大盛り、モンブランの山盛り、ホットチョコレートの特濃版。
食べ始めた瞬間、パーティー全員がどよめいた。
「傷が……塞がっていく!」
「魔力が満タンだ!」
リーダーの女性剣士が、私に駆け寄ってきた。
「あなた、神か何か? この料理、奇跡だよ!」
「ただのスキルです。でも、みんなが無事で良かった」
お客さんたちは感謝の言葉を連発し、チップを山ほど置いてくれた。
閉店後、今日の売り上げを数えたら過去最高。金貨がまた増え、街への進出資金が十分に貯まった。
ミアが目を輝かせて言った。
「エレナお姉様! お店、街に出せますね! ミア、もっとたくさんのお客さんにスイーツ届けたいです!」
「ああ、そうね。そろそろ決断のときかも」
リオンが地図を指さした。
「ルミナスの街なら、ギルドの近くに空き店舗がある。俺が昨日見てきた」
「ありがとう、リオンさん。あなたのおかげよ」
その夜、三人で未来の話をした。
街に出たら、もっと大きなカフェにできる。ミアのメイド姿をたくさんの人に見てもらえる。新しいメニューも開発できる。
「エレナお姉様のスイーツ、みんなに食べてもらいたい!」
「俺は……君たちが笑っていれば、それでいい」
温かい会話が続く。
私は心から思った。
この世界で、夢が叶い始めている。
元の世界では、すべてを奪われた。
でもここでは、自分で築き上げている。
この成功を、いつかあの人たちに見せつける日が、確実に近づいている。
――アレックス王子。リリア・ド・ヴァレンティア。
あなたたちが私を追放した世界に、いつかこの味を届けてやる。
その決意が、私を強くした。
だが、そのとき――。
森の奥から、地面を揺らすような咆哮が響いた。
ゴオオオオオオオ!!
リオンが即座に立ち上がった。
「これは……上位魔物の気配だ。群れじゃない。一体でこの圧力……」
ミアが私の服を掴んで震えた。
「エレナお姉様……怖い……」
私はミアを抱きしめ、リオンを見た。
「甘い香りが呼び寄せたの?」
「いや……違う。これは意図的だ。誰かが魔物を操ってる」
カフェの灯りが、風もないのに激しく揺れた。
遠くの木々が倒れる音。
巨大な影が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
新しい危機が、私たちの幸せに牙を剥いていた。
カフェの繁盛は、日を追うごとに加速していた。
開業から十日目。朝の空気が少し冷たくなり、森の葉が赤や金色に染まり始めていた。秋の訪れだ。
「おはよう、エレナお姉様! 今日は新しいメニュー、楽しみです!」
ミアが尻尾をぶんぶん振って、カウンターに並べられた試作品を覗き込む。今日のテーマは「秋の味覚」。この世界の栗に似た実と、かぼちゃのような野菜を使って、新しいスイーツを開発した。
「ミアちゃん、味見してくれる?」
私は魔法で作ったばかりの「モンブラン」と「パンプキンプリン」をミアの前に置いた。モンブランは栗ペーストをたっぷり絞り、パンプキンプリンはシナモンと蜂蜜で香りづけ。どちらも魔力回復と体力向上の効果を強めに付与してある。
ミアがスプーンを口に運ぶと、耳がぴょんと立った。
「わあっ……! 栗の味が濃くて、甘くて……幸せ……! プリンもとろとろで、あったかい!」
「良かった。今日からメニューに加えましょう」
リオンが奥のテーブルで地図を広げながら、こちらを見た。
「朝から甘い香りがすごいな。今日も魔物を呼び寄せそうだ」
最近、甘い香りが原因で魔物が寄ってくる頻度が増えていた。リオンが毎晩見回りをしてくれているおかげで大事には至っていないけど、そろそろ限界かもしれない。
「リオンさん、ありがとう。あなたがいなかったら、私たち守れなかったわ」
「……当然だ」
リオンは少し顔を赤らめて、地図に視線を戻した。ミアがくすくす笑う。
「リオンお兄様、照れてる~」
「黙れ、小僧」
そんな穏やかなやり取りが、私たちの日常になっていた。
開店時間になると、今日も常連さんが次々とやってきた。
最初に来たのは、ランクBのパーティーのリーダー、大剣使いのガルドさん。
「おう、エレナ嬢! ミアちゃんも元気か! 新しいメニューあるって聞いたぜ!」
「はい! 秋限定のモンブランとパンプキンプリンです。魔力回復効果も抜群ですよ」
ガルドさんたちは昨日、大型の魔物を討伐してきたらしく、みんな疲れ切っていた。
モンブランを食べた瞬間、ガルドさんが大声を上げた。
「おおお……なんだこの味! 栗の風味が爆発してる! 魔力がごぽごぽ戻ってくるぞ!」
他のメンバーもプリンを食べて、目を輝かせた。
「嬢ちゃん、毎回驚かされるな。街の菓子屋じゃ絶対味わえねえ味だ」
「ありがとうございます。みんなが元気になってくれれば、それで嬉しいわ」
お客さんたちは追加注文を繰り返し、今日も売り上げは好調だった。
午後には、新しいお客さんが増えた。ルミナスの街からわざわざ馬車で来た商人一行だ。
「噂の魔法カフェですね。甘い香りが遠くまで漂ってましたよ」
商人たちは高級志向らしく、メニューをすべて注文してくれた。モンブランを食べた商人の奥さんが、感動のあまり涙ぐんだ。
「こんな美味しいスイーツ、故郷の王都でも味わったことがありません……」
私は少し胸が熱くなった。元の世界では、貴族令嬢として高級なお菓子を食べていたけど、自分で作って誰かを喜ばせるなんて、初めてだ。
商人たちは大量に持ち帰り用のクッキーを買い、街で販売の交渉まで持ちかけてきた。
「嬢ちゃん、この味なら街で大儲けできるぞ。一緒に店を出さないか?」
「ありがとうございます。検討させていただきます」
街への進出――本気で考え始める時期が来た。
夕方近く、今日一番の盛り上がりになった。
冒険者ギルドの公認パーティーが十人以上でやってきた。みんな森の奥で魔物の群れに遭遇したらしく、傷だらけで逃げてきたらしい。
「助けてくれ……回復ポーションが切れて……」
私は慌てて全員に席を用意し、特大の回復メニューを出した。パンプキンスープの大盛り、モンブランの山盛り、ホットチョコレートの特濃版。
食べ始めた瞬間、パーティー全員がどよめいた。
「傷が……塞がっていく!」
「魔力が満タンだ!」
リーダーの女性剣士が、私に駆け寄ってきた。
「あなた、神か何か? この料理、奇跡だよ!」
「ただのスキルです。でも、みんなが無事で良かった」
お客さんたちは感謝の言葉を連発し、チップを山ほど置いてくれた。
閉店後、今日の売り上げを数えたら過去最高。金貨がまた増え、街への進出資金が十分に貯まった。
ミアが目を輝かせて言った。
「エレナお姉様! お店、街に出せますね! ミア、もっとたくさんのお客さんにスイーツ届けたいです!」
「ああ、そうね。そろそろ決断のときかも」
リオンが地図を指さした。
「ルミナスの街なら、ギルドの近くに空き店舗がある。俺が昨日見てきた」
「ありがとう、リオンさん。あなたのおかげよ」
その夜、三人で未来の話をした。
街に出たら、もっと大きなカフェにできる。ミアのメイド姿をたくさんの人に見てもらえる。新しいメニューも開発できる。
「エレナお姉様のスイーツ、みんなに食べてもらいたい!」
「俺は……君たちが笑っていれば、それでいい」
温かい会話が続く。
私は心から思った。
この世界で、夢が叶い始めている。
元の世界では、すべてを奪われた。
でもここでは、自分で築き上げている。
この成功を、いつかあの人たちに見せつける日が、確実に近づいている。
――アレックス王子。リリア・ド・ヴァレンティア。
あなたたちが私を追放した世界に、いつかこの味を届けてやる。
その決意が、私を強くした。
だが、そのとき――。
森の奥から、地面を揺らすような咆哮が響いた。
ゴオオオオオオオ!!
リオンが即座に立ち上がった。
「これは……上位魔物の気配だ。群れじゃない。一体でこの圧力……」
ミアが私の服を掴んで震えた。
「エレナお姉様……怖い……」
私はミアを抱きしめ、リオンを見た。
「甘い香りが呼び寄せたの?」
「いや……違う。これは意図的だ。誰かが魔物を操ってる」
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