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第11話: 街への進出計画
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第11話: 街への進出計画
朝の森は、霧に包まれていた。
昨夜の上位魔物の咆哮は、リオンが結界を張ってなんとか抑え込んだものの、完全に去ったわけではないらしい。カフェの周囲にはまだ重い気配が残り、鳥のさえずりさえ少ない。
私はカウンターで、新しいメニューの試作品を作っていた。今日は「チョコレートフォンデュ」。温かいチョコレートソースに、森の果物や焼きマシュマロを浸して食べるもの。甘さと温かさが、心まで癒すように魔法を強めに込めた。
ミアが不安げな顔で、私の袖を引いた。
「エレナお姉様……昨夜の魔物、まだ近くにいるんですよね? ミア、怖いです……」
茶色の耳がぺたりと伏せられ、尻尾も巻きついている。
「大丈夫よ。リオンさんが守ってくれるし、私たちも強くなったわ」
私はミアを抱きしめて、頭を撫でた。ミアは少しだけ安心した様子で頷いた。
リオンが森から戻ってきたのは、その直後だった。銀髪に朝露がつき、表情はいつもより硬い。
「報告だ。上位魔物は『フォレストベア・キング』だ。単独で森の支配者級の強さ。甘い香りに引き寄せられたのは確かだが、動きが不自然だ。誰かが誘導している痕跡がある」
「誰か……?」
「まだわからない。だが、このまま森に留まるのは危険だ。街への進出を急いだほうがいい」
リオンの言葉に、私は頷いた。昨日から考えていたことだ。
「そうね。売り上げも貯まったし、ルミナスの街に支店を出しましょう」
ミアの耳がぴょんと立った。
「街ですか!? ミア、街のお店でメイドさんできるんですか!?」
「ええ。もっとたくさんのお客さんに、私たちのスイーツを届けたいわ」
三人で地図を広げ、計画を立て始めた。
リオンが昨日見てきた空き店舗は、冒険者ギルドのすぐ隣。立地は最高だ。家賃は金貨20枚で交渉可能。内装を魔法で整えれば、すぐにオープンできる。
「まずは私とリオンが街へ行って契約を済ませる。ミアちゃんはここを守ってて」
「えっ……ミア、一人ですか?」
ミアが不安げに尻尾を巻いた。
「大丈夫。結界を強化しておくし、常連さんたちも来てくれるわ。もし何かあったら、すぐに合図の魔法花火を上げて」
ミアは少し迷った後、決意したように頷いた。
「わかりました! ミア、ここを守ります! エレナお姉様たちが戻るまで、絶対にがんばります!」
午後、私とリオンはカフェの荷物を魔法でコンパクトにまとめ、街へ向かった。
森を抜ける道は、いつもより静かだった。木々がざわめき、時折遠くで魔物の気配を感じる。
「リオンさん……あの魔物を操ってる人って、誰だと思う?」
「可能性としては、奴隷商人の残党か、競合する店の妨害か……あるいは、もっと大きな勢力」
「大きな勢力?」
リオンは少し黙ってから、静かに言った。
「この世界には、転移者を嫌う貴族派閥がある。君のような強力なスキル持ちは、脅威になるからな」
私の胸がざわついた。元の世界の貴族社会と、似ている。
「でも、私はただカフェをやりたいだけなのに」
「それが脅威なんだ。君のスイーツは、回復ポーションより効果が高い。冒険者たちの忠誠が変わる可能性がある」
話しているうちに、森を抜け、ルミナスの街が見えてきた。
石畳の道に、冒険者や商人が行き交う賑やかな街。ギルドの建物は大きく、旗がはためいている。
空き店舗はまさにギルドの隣。木造二階建てで、一階が広い店舗スペース、二階が住居兼倉庫。少し古いが、魔法でリフォームすれば完璧だ。
店主の老夫婦に会うと、すぐに交渉がまとまった。
「こんな甘い香りの店が入るなら、街がもっと活気づくよ。家賃は金貨15枚にまけておく」
契約書にサインし、鍵を受け取った瞬間、私の胸が熱くなった。
これで、街に本店をオープンできる。
リオンと一緒に内装を魔法で整え始めた。カウンターを白木に、テーブルを増やし、壁に可愛い花の装飾。ショーケースも大きくして、スイーツを美しく並べられるように。
夕方には、ほぼ完成した。
「明日からオープンできるわ」
「常連たちに知らせておこう」
そのとき、ギルドからガルドさんたちが飛び出してきた。
「おい、エレナ嬢! 新しい店か!? やったぜ、森まで行かなくて済む!」
噂がすでに広がっていたらしい。ガルドさんたちは試食と称して、新メニューを大量に注文してくれた。
「街でこの味が食えるなんて、夢みたいだ!」
オープン前なのに、すでに大盛況。
夜、仮のベッドで横になりながら、私はリオンに聞いた。
「リオンさん……この街で、うまくいくと思う?」
「ああ。君の力なら、必ず」
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった」
リオンは少し黙ってから、小声で言った。
「……俺もだ」
その言葉に、胸が少しドキッとした。
街での新生活が、明日から始まる。
でも、同時に――。
森に残したミアのことが、心配でならなかった。
あの魔物が、ミアを狙っている気がして。
その夜、街の宿で眠りにつく直前、遠くの空に赤い魔法花火が上がった。
ミアの合図。
「ミアちゃん!」
私は飛び起き、リオンと一緒に森へ急いだ。
街への進出初日を待たずして、最大の危機が訪れようとしていた。
フォレストベア・キングの咆哮が、再び森を震わせた。
朝の森は、霧に包まれていた。
昨夜の上位魔物の咆哮は、リオンが結界を張ってなんとか抑え込んだものの、完全に去ったわけではないらしい。カフェの周囲にはまだ重い気配が残り、鳥のさえずりさえ少ない。
私はカウンターで、新しいメニューの試作品を作っていた。今日は「チョコレートフォンデュ」。温かいチョコレートソースに、森の果物や焼きマシュマロを浸して食べるもの。甘さと温かさが、心まで癒すように魔法を強めに込めた。
ミアが不安げな顔で、私の袖を引いた。
「エレナお姉様……昨夜の魔物、まだ近くにいるんですよね? ミア、怖いです……」
茶色の耳がぺたりと伏せられ、尻尾も巻きついている。
「大丈夫よ。リオンさんが守ってくれるし、私たちも強くなったわ」
私はミアを抱きしめて、頭を撫でた。ミアは少しだけ安心した様子で頷いた。
リオンが森から戻ってきたのは、その直後だった。銀髪に朝露がつき、表情はいつもより硬い。
「報告だ。上位魔物は『フォレストベア・キング』だ。単独で森の支配者級の強さ。甘い香りに引き寄せられたのは確かだが、動きが不自然だ。誰かが誘導している痕跡がある」
「誰か……?」
「まだわからない。だが、このまま森に留まるのは危険だ。街への進出を急いだほうがいい」
リオンの言葉に、私は頷いた。昨日から考えていたことだ。
「そうね。売り上げも貯まったし、ルミナスの街に支店を出しましょう」
ミアの耳がぴょんと立った。
「街ですか!? ミア、街のお店でメイドさんできるんですか!?」
「ええ。もっとたくさんのお客さんに、私たちのスイーツを届けたいわ」
三人で地図を広げ、計画を立て始めた。
リオンが昨日見てきた空き店舗は、冒険者ギルドのすぐ隣。立地は最高だ。家賃は金貨20枚で交渉可能。内装を魔法で整えれば、すぐにオープンできる。
「まずは私とリオンが街へ行って契約を済ませる。ミアちゃんはここを守ってて」
「えっ……ミア、一人ですか?」
ミアが不安げに尻尾を巻いた。
「大丈夫。結界を強化しておくし、常連さんたちも来てくれるわ。もし何かあったら、すぐに合図の魔法花火を上げて」
ミアは少し迷った後、決意したように頷いた。
「わかりました! ミア、ここを守ります! エレナお姉様たちが戻るまで、絶対にがんばります!」
午後、私とリオンはカフェの荷物を魔法でコンパクトにまとめ、街へ向かった。
森を抜ける道は、いつもより静かだった。木々がざわめき、時折遠くで魔物の気配を感じる。
「リオンさん……あの魔物を操ってる人って、誰だと思う?」
「可能性としては、奴隷商人の残党か、競合する店の妨害か……あるいは、もっと大きな勢力」
「大きな勢力?」
リオンは少し黙ってから、静かに言った。
「この世界には、転移者を嫌う貴族派閥がある。君のような強力なスキル持ちは、脅威になるからな」
私の胸がざわついた。元の世界の貴族社会と、似ている。
「でも、私はただカフェをやりたいだけなのに」
「それが脅威なんだ。君のスイーツは、回復ポーションより効果が高い。冒険者たちの忠誠が変わる可能性がある」
話しているうちに、森を抜け、ルミナスの街が見えてきた。
石畳の道に、冒険者や商人が行き交う賑やかな街。ギルドの建物は大きく、旗がはためいている。
空き店舗はまさにギルドの隣。木造二階建てで、一階が広い店舗スペース、二階が住居兼倉庫。少し古いが、魔法でリフォームすれば完璧だ。
店主の老夫婦に会うと、すぐに交渉がまとまった。
「こんな甘い香りの店が入るなら、街がもっと活気づくよ。家賃は金貨15枚にまけておく」
契約書にサインし、鍵を受け取った瞬間、私の胸が熱くなった。
これで、街に本店をオープンできる。
リオンと一緒に内装を魔法で整え始めた。カウンターを白木に、テーブルを増やし、壁に可愛い花の装飾。ショーケースも大きくして、スイーツを美しく並べられるように。
夕方には、ほぼ完成した。
「明日からオープンできるわ」
「常連たちに知らせておこう」
そのとき、ギルドからガルドさんたちが飛び出してきた。
「おい、エレナ嬢! 新しい店か!? やったぜ、森まで行かなくて済む!」
噂がすでに広がっていたらしい。ガルドさんたちは試食と称して、新メニューを大量に注文してくれた。
「街でこの味が食えるなんて、夢みたいだ!」
オープン前なのに、すでに大盛況。
夜、仮のベッドで横になりながら、私はリオンに聞いた。
「リオンさん……この街で、うまくいくと思う?」
「ああ。君の力なら、必ず」
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった」
リオンは少し黙ってから、小声で言った。
「……俺もだ」
その言葉に、胸が少しドキッとした。
街での新生活が、明日から始まる。
でも、同時に――。
森に残したミアのことが、心配でならなかった。
あの魔物が、ミアを狙っている気がして。
その夜、街の宿で眠りにつく直前、遠くの空に赤い魔法花火が上がった。
ミアの合図。
「ミアちゃん!」
私は飛び起き、リオンと一緒に森へ急いだ。
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フォレストベア・キングの咆哮が、再び森を震わせた。
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