15 / 29
第15話: リオンとのデート
しおりを挟む
第15話: リオンとのデート
カフェの繁栄は、止まることを知らなかった。
オープンから二週間。伯爵のパトロン獲得のおかげで、店は領地公認の施設となり、毎日冒険者、商人、貴族で満席。街の新聞にまで取り上げられ、「甘い魔法の奇跡」と呼ばれている。
この日、珍しく午後の客足が少し落ち着いた。
ミアがカウンターを拭きながら、にこにこ顔で言った。
「エレナお姉様! 今日は少し暇ですよ! ミア、一人で店番できますから、お姉様はリオンお兄様と街を散歩してきてください!」
「えっ……? ミアちゃん、そんな急に」
私は頰を赤らめた。確かに、リオンとはいつも一緒にいるけど、デートなんて意識したことはなかった。でも、ミアの目がいたずらっぽく輝いている。
リオンが二階から降りてきて、珍しく少し照れくさそうに言った。
「……たまには休憩も必要だ。街の様子を見ておきたいし、一緒にどうだ?」
「え、ええ……いいわよ」
こうして、私とリオンの初めての「デート」が決まった。
街の中心広場へ向かう道は、石畳が綺麗に敷かれ、露店が並んでいる。秋の陽光が優しく差し込み、風に甘いカフェの香りが混じっていた。
リオンは普段の黒ローブではなく、少しカジュアルなシャツ姿。銀髪が風に揺れ、端正な顔がより目立つ。通りすがりの女性たちがちらちらこちらを見ているのに気づき、私は少し胸がざわついた。
「リオンさん、街の景色、どう?」
「ああ、活気づいてるな。君のカフェのおかげだ」
リオンが静かに微笑んだ。その笑顔に、ドキッとする。
広場に着くと、噴水の周りで子供たちが遊んでいる。露店では、果物やアクセサリー、魔道具が売られていた。
「何か欲しいものあるか?」
リオンが珍しく積極的に聞いてきた。
「うーん……あれ見て」
私は小さな露店を指さした。そこには、手作りの髪飾りが並んでいた。青いリボンに小さな魔法石が付いた、可愛らしいもの。
「これ、似合うかしら?」
店主に試着させてもらうと、リオンがじっと見て、頷いた。
「似合う。買おう」
「え、でも高いわよ?」
「俺が出す。……お礼だ。いつもケーキを食わせてもらってる」
リオンが銀貨を払い、髪飾りを私の髪にそっと付けてくれた。指先が耳に触れ、熱くなった。
「ありがとう……リオンさん」
二人は広場のベンチに座り、買ったばかりのリンゴ飴を分け合った。
「リオンさん、どうしてずっと私たちのそばにいてくれるの?」
私は勇気を出して聞いた。
リオンは少し黙ってから、静かに語り始めた。
「俺も、昔は似た境遇だった。魔法の才能がありすぎて、王都の貴族に目を付けられ、追われてな。仲間を失い、一人で旅を続けてきた」
「そんな……」
「だから、君を見ていると放っておけなかった。転移者で、理不尽に苦しんで、それでも前を向いてる。ミアみたいな子を守って、カフェを成功させて……強いよ、君は」
リオンの青い瞳が、真っ直ぐ私を見ていた。
「俺は、君たちと一緒にいると、初めて『守りたいもの』ができた気がする」
その言葉に、胸が熱くなった。
「リオンさん……私も、あなたがいなかったらここまで来れなかった。いつも守ってくれて、ありがとう」
二人の手が、ベンチでそっと触れ合った。
そのまま、少しの間無言で噴水を見つめていた。
夕陽が街をオレンジに染め始める頃、二人はカフェに戻った。
ミアがニヤニヤしながら出迎えた。
「おかえりなさい! どうでした、デート!?」
「ミアちゃん! デートなんて言わないで!」
私は真っ赤になったが、リオンが小さく笑った。
その夜、店が閉まった後。
私は二階のバルコニーで、一人空を見上げていた。
リオンとの時間が、幸せすぎて怖いくらい。
でも、同時に決意も新たになった。
この幸せを、絶対に守る。
王都からの脅迫状は、まだ机の引き出しにある。
伯爵に相談したところ、「わしが対処する」と強気だったが、相手は王家に近い貴族らしい。
――リリア・ド・ヴァレンティアの父、ヴァレンティア伯爵が関わっている可能性が高い。
元の世界の仇。
私の成功が、王都に届き始めている証拠。
「来るなら、来なさい」
私は髪飾りを触りながら、呟いた。
甘いスイーツで、あなたたちのプライドを砕いてあげる。
そのとき、店の裏口で物音がした。
リオンがすぐに杖を構え、私の隣に立った。
「……今度は本格的だ。刺客か」
闇の中から、三人の黒装束の男が現れた。
「転移者エレナ、命に従え。王都へ出頭するか、ここで死ぬか選べ」
私はリオンと並んで立ち、微笑んだ。
「選ぶなら……あなたたちを、甘くおもてなしするわ」
魔法が光り、カフェの灯りが再び輝き始めた。
戦いが、始まろうとしていた。
私の復讐は、もう止まらない。
カフェの繁栄は、止まることを知らなかった。
オープンから二週間。伯爵のパトロン獲得のおかげで、店は領地公認の施設となり、毎日冒険者、商人、貴族で満席。街の新聞にまで取り上げられ、「甘い魔法の奇跡」と呼ばれている。
この日、珍しく午後の客足が少し落ち着いた。
ミアがカウンターを拭きながら、にこにこ顔で言った。
「エレナお姉様! 今日は少し暇ですよ! ミア、一人で店番できますから、お姉様はリオンお兄様と街を散歩してきてください!」
「えっ……? ミアちゃん、そんな急に」
私は頰を赤らめた。確かに、リオンとはいつも一緒にいるけど、デートなんて意識したことはなかった。でも、ミアの目がいたずらっぽく輝いている。
リオンが二階から降りてきて、珍しく少し照れくさそうに言った。
「……たまには休憩も必要だ。街の様子を見ておきたいし、一緒にどうだ?」
「え、ええ……いいわよ」
こうして、私とリオンの初めての「デート」が決まった。
街の中心広場へ向かう道は、石畳が綺麗に敷かれ、露店が並んでいる。秋の陽光が優しく差し込み、風に甘いカフェの香りが混じっていた。
リオンは普段の黒ローブではなく、少しカジュアルなシャツ姿。銀髪が風に揺れ、端正な顔がより目立つ。通りすがりの女性たちがちらちらこちらを見ているのに気づき、私は少し胸がざわついた。
「リオンさん、街の景色、どう?」
「ああ、活気づいてるな。君のカフェのおかげだ」
リオンが静かに微笑んだ。その笑顔に、ドキッとする。
広場に着くと、噴水の周りで子供たちが遊んでいる。露店では、果物やアクセサリー、魔道具が売られていた。
「何か欲しいものあるか?」
リオンが珍しく積極的に聞いてきた。
「うーん……あれ見て」
私は小さな露店を指さした。そこには、手作りの髪飾りが並んでいた。青いリボンに小さな魔法石が付いた、可愛らしいもの。
「これ、似合うかしら?」
店主に試着させてもらうと、リオンがじっと見て、頷いた。
「似合う。買おう」
「え、でも高いわよ?」
「俺が出す。……お礼だ。いつもケーキを食わせてもらってる」
リオンが銀貨を払い、髪飾りを私の髪にそっと付けてくれた。指先が耳に触れ、熱くなった。
「ありがとう……リオンさん」
二人は広場のベンチに座り、買ったばかりのリンゴ飴を分け合った。
「リオンさん、どうしてずっと私たちのそばにいてくれるの?」
私は勇気を出して聞いた。
リオンは少し黙ってから、静かに語り始めた。
「俺も、昔は似た境遇だった。魔法の才能がありすぎて、王都の貴族に目を付けられ、追われてな。仲間を失い、一人で旅を続けてきた」
「そんな……」
「だから、君を見ていると放っておけなかった。転移者で、理不尽に苦しんで、それでも前を向いてる。ミアみたいな子を守って、カフェを成功させて……強いよ、君は」
リオンの青い瞳が、真っ直ぐ私を見ていた。
「俺は、君たちと一緒にいると、初めて『守りたいもの』ができた気がする」
その言葉に、胸が熱くなった。
「リオンさん……私も、あなたがいなかったらここまで来れなかった。いつも守ってくれて、ありがとう」
二人の手が、ベンチでそっと触れ合った。
そのまま、少しの間無言で噴水を見つめていた。
夕陽が街をオレンジに染め始める頃、二人はカフェに戻った。
ミアがニヤニヤしながら出迎えた。
「おかえりなさい! どうでした、デート!?」
「ミアちゃん! デートなんて言わないで!」
私は真っ赤になったが、リオンが小さく笑った。
その夜、店が閉まった後。
私は二階のバルコニーで、一人空を見上げていた。
リオンとの時間が、幸せすぎて怖いくらい。
でも、同時に決意も新たになった。
この幸せを、絶対に守る。
王都からの脅迫状は、まだ机の引き出しにある。
伯爵に相談したところ、「わしが対処する」と強気だったが、相手は王家に近い貴族らしい。
――リリア・ド・ヴァレンティアの父、ヴァレンティア伯爵が関わっている可能性が高い。
元の世界の仇。
私の成功が、王都に届き始めている証拠。
「来るなら、来なさい」
私は髪飾りを触りながら、呟いた。
甘いスイーツで、あなたたちのプライドを砕いてあげる。
そのとき、店の裏口で物音がした。
リオンがすぐに杖を構え、私の隣に立った。
「……今度は本格的だ。刺客か」
闇の中から、三人の黒装束の男が現れた。
「転移者エレナ、命に従え。王都へ出頭するか、ここで死ぬか選べ」
私はリオンと並んで立ち、微笑んだ。
「選ぶなら……あなたたちを、甘くおもてなしするわ」
魔法が光り、カフェの灯りが再び輝き始めた。
戦いが、始まろうとしていた。
私の復讐は、もう止まらない。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
知らぬはヒロインだけ
ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。
告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。
しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。
そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。
しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。
※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
忖度令嬢、忖度やめて最強になる
ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。
5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。
週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。
そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り――
忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。
そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。
中世風異世界でのお話です。
2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる