「婚約破棄された令嬢の異世界カフェ革命～甘い復讐と運命の恋～」

第17話: 逆転の策

 第17話: 逆転の策

刺客事件から三日後、カフェはさらに賑わっていた。

王都からの攻撃を甘い魔法で退けた話が冒険者たちの間で英雄譚になり、店は朝から晩まで満席。伯爵の保護とギルドの公認が加わり、誰も手出しできない「聖域」のような存在になっていた。

私はカウンターで、新しいメニューの試作品を作っていた。「王都風ティラミス」――コーヒーとマスカルポーネを効かせた大人の味。ストレス軽減と集中力向上の効果を強く込めて、王都の貴族たちを意識した一品だ。

ミアがトレイを運びながら、興奮気味に言った。

「エレナお姉様！ 今日もお客さんいっぱいです！ みんな『刺客をケーキで倒した店』って言ってます！」

「ミアちゃん、ありがとう。でも、油断しないでね」

リオンは窓際の席で、王都から届いた最新の情報を読んでいた。伯爵が送ってくれた密書だ。

「王都の動きが活発化してる。ヴァレンティア伯爵が王子に進言し、『ルミナスの転移者カフェを経済制裁で潰せ』と動いているらしい」

「経済制裁……？」

「ああ。領地への物資輸送を制限し、税金を吊り上げ、冒険者ギルドへの補助金を止める。王都の貴族連中が連名で圧力をかけてくる」

胸の奥で、怒りが再燃した。

リリアの父親が、私の成功をそんなに恐れている。

でも、今の私はあの頃の無力な令嬢じゃない。

「だったら、こちらも策を講じましょう」

私は伯爵を店に招いた。

豪華な私室室として使っている二階の個室で、伯爵、ギルドマスター、リオン、そして私とミアで会議を開く。

伯爵が地図を広げて言った。

「王都の経済制裁は痛いが、わしの領地は自給自足に近い。問題は冒険者たちの士気じゃ。補助金が止まれば、ギルドの運営が苦しくなる」

ギルドマスターが頷いた。

「その通りです。クエスト報酬が減れば、冒険者たちが王都側へ流れる可能性がある」

私は微笑んで、試作品のティラミスをみんなに出した。

「どうぞ。お口直しに」

伯爵が一口食べ、目を丸くした。

「これは……！ 疲れが吹き飛ぶ！ 集中力が上がる感覚じゃ！」

「ありがとうございます。これを武器にしましょう」

私は計画を語り始めた。

「王都が経済制裁をするなら、こちらは『甘い経済革命』を起こすわ」

具体策は三つ。

1. カフェのスイーツを領地の特産品にし、伯爵の名前で王都以外の他領地へ輸出開始。回復効果の高さが噂になり、王都を迂回した取引ルートを確立。

2. 冒険者ギルドと提携し、スイーツをクエスト報酬の代替に。カフェのクーポンを公式通貨のように使う。補助金がなくても、冒険者たちはカフェ目当てに領地に残る。

3. 持ち帰り用の「魔法保存スイーツ」を開発。王都の貴族たちが密かに買いに来るように仕向ける。効果が抜群なら、制裁など無意味になる。

伯爵が膝を叩いた。

「素晴らしい！ わしが全力を貸す！ 交易商団を動かし、他領地へスイーツを売り込むじゃ！」

ギルドマスターも笑った。

「クーポン制度、最高だ。冒険者たちは喜んで残るぞ」

リオンが静かに補足した。

「王都のスパイがまだ街にいる。輸出ルートは俺が守る」

ミアが拳を握った。

「ミアも、たくさんスイーツ作る手伝いします！」

計画は即座に動き始めた。

数日後、伯爵の商団が他領地へ出発。ティラミスや新作の「貴族風マカロン」を積んで。

同時に、カフェでは「冒険者専用クーポン」が大流行。クエスト達成で無料ケーキ券がもらえ、ギルドの受付が大混雑。

王都からの制裁通達が届いたのは、その直後だった。

『ルミナス領への補助金全額停止。物資輸送税三倍。転移者カフェの営業禁止を勧告』

伯爵は大笑いして、通達を破り捨てた。

「勧告など無視じゃ！ わしの領地は、もう君のスイーツで自立しておる！」

実際、補助金が止まっても、冒険者たちは減らなかった。むしろ増えた。カフェのクーポンが魅力すぎて、他領地から移住してくる者まで現れた。

そして、王都で異変が起きた。

貴族たちの間で、「ルミナスの禁断のスイーツ」が密かに取引され始めた。回復効果が凄すぎて、宮廷医師のポーションより優れていると噂に。

ある日、店に変装した王都の貴族がやってきた。

「持ち帰りで、ティラミスを十個……いや、二十個！」

私は笑顔で対応した。

「かしこまりました。王都方面へお届けですか？」

貴族が慌てて首を振ったが、目が輝いていた。

リリア、あなたの周りでも、私のスイーツが食べられているはずよ。

王子も、きっと知っているわ。

私の成功を。

夕方、閉店後。

リオンが手紙を持ってきてくれた。

王都の情報屋からだ。

『ヴァレンティア家内で動揺。リリア嬢が「エレナのスイーツを食べたい」と駄々をこね、王子殿下が密かに購入を検討中』

私は手紙を見て、くすりと笑った。

「逆転ね」

ミアが飛び跳ねた。

「エレナお姉様、勝ってます！」

リオンが私の肩に手を置いた。

「まだ終わっていない。王都の本格的な動きが、次に来る」

「ああ、知ってるわ」

私は窓から街を見下ろした。

繁栄するルミナス。笑顔の冒険者たち。可愛いミア。頼もしいリオン。

そして、私の甘い魔法。

「次は、私から攻める番よ」

王都へ、直接スイーツを届ける日が、近づいていた。

リリア、アレックス。

あなたたちの前に、私が立つわ。

そのとき、あなたたちは――華麗にざまぁされる。

私の復讐は、甘く、確実に進んでいた。