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第18話: 王子の接近
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第18話: 王子の接近
王都からの経済制裁が始まって一ヶ月。
ルミナスの街は、むしろ以前より繁栄していた。
私のカフェは領地の経済の柱となり、他領地からの交易商が毎日訪れる。スイーツの輸出量は増え続け、王都の制裁などまるで影響なし。冒険者たちはクーポン目当てにクエストをこなし、街の税収は過去最高を記録した。
伯爵が大笑いしながら言った。
「王都の連中、顔から火が出るじゃろう! エレナ嬢の甘い革命、完璧じゃ!」
私は笑顔で対応しつつ、心の中でほくそ笑んでいた。
リリア、あなたたちの計画は失敗したわね。
その日、カフェはいつも通り大盛況だった。
午後のティータイム。貴族風の客が増える時間帯。
ミアがトレイを抱えて駆け寄ってきた。
「エレナお姉様! お客様です! すごく立派な馬車で来られた方で、個室を希望されてます!」
「わかったわ。案内して」
私は新作の「ロイヤルティラミス」をトレイに載せ、二階の個室へ向かった。
ドアを開けると、そこにいたのは――。
金色の髪、青い瞳。白を基調とした高級な礼服。
アレックス王子だった。
変装はしているが、隠しきれない王族の気品。隣には護衛らしき騎士が二人控えている。
私は一瞬、息を止めた。
元の世界で、私を婚約破棄し、追放した男。
今、私の前にいる。
「……いらっしゃいませ。王子殿下」
私は冷静に微笑み、トレイを置いた。
アレックスは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべた。
「エレナ……久しぶりだな。元気そうで、何よりだ」
その声に、胸の奥で黒い感情が渦巻いた。
元気? あなたが私を追放したせいで、異世界に飛ばされ、死にそうになったのに?
でも、今の私は強い。
「ありがとうございます。お茶をお持ちしました。どうぞ」
王子はティラミスを一口食べ、目を大きく見開いた。
「これは……信じられん。こんな味と効果、王都のどんな菓子職人も作れない」
「褒めていただき、光栄です」
王子はフォークを置き、真剣な目で私を見た。
「エレナ、率直に言う。君のこの店、王都で話題になっている。貴族たちが密かに買いに来るほどだ。リリアも……君のスイーツを食べたいと言っている」
リリアの名前が出た瞬間、私の指先がわずかに震えた。
「ああ、そう」
「だから、提案がある。店を王都に移さないか? 王家の保護を与え、最高の場所を提供する。君の才能は、王国全体のために使うべきだ」
保護? 才能を王国のために?
笑いが込み上げてきた。
あなたたちは、私の成功を潰そうとしたくせに。
今さら、取り込もうというの?
「申し訳ありません。王子殿下。この店は、ルミナスの街と伯爵様のためにあります。王都へは、行きません」
王子の表情が、少し硬くなった。
「エレナ……昔のことは、悪かったと思っている。あのときは、リリアの言葉を信じてしまって……君を傷つけた」
昔のこと?
婚約破棄、追放、家族からの見捨てられ――すべてを「昔のこと」で済ませるの?
私は静かに微笑んだ。
「王子殿下。あのときのことは、もう忘れました。ここで新しい人生を始め、幸せですから」
王子は少し動揺した様子で、立ち上がった。
「そうか……なら、せめて持ち帰りを大量に。リリアが喜ぶ」
「かしこまりました」
私は特別に作った豪華なスイーツセットを包んだ。回復効果だけでなく、少しだけ「真実を見抜く」効果を込めて。
王子が去った後、リオンが個室に入ってきた。
「……よく耐えたな」
「ありがとう。リオンさん」
私はリオンの胸に顔を埋めた。
「悔しかったけど……勝った気がするわ」
ミアがドアから覗いて、にこっと笑った。
「エレナお姉様、カッコよかったです!」
その夜、王都で起こったことを、情報屋から聞いた。
王子が持ち帰ったスイーツを食べたリリアが、突然過去の陰謀を告白し始めたらしい。
「私が……エレナ様を陥れたの……偽の証拠を作って……」
真実を見抜く効果が、効いたのだ。
王子は動揺し、リリアを問い詰め、すべてが明るみに出た。
ヴァレンティア家の陰謀、婚約破棄の真相、転移者狩りの命令――。
王宮は大混乱。
王子が、私に謝罪の手紙を送ってきた。
『エレナ、すべて私の過ちだった。許してくれとは言わないが、真相を公表し、君の名誉を回復する』
私は手紙を読み、静かに燃やした。
名誉回復?
もう、必要ないわ。
私はここで、十分に成功している。
あなたたちが後悔すれば、それでいい。
伯爵が大笑いした。
「王子殿下、顔面蒼白じゃろう! エレナ嬢の甘い罠、見事じゃ!」
カフェはさらに繁栄した。
王都の貴族たちが、こっそり訪れるようになった。
リリアは謹慎、王子は失意。
私のスイーツは、王国中で「禁断の甘さ」と呼ばれ始めた。
私はリオンとミアと、バルコニーで夜空を見上げた。
「これで、ざまぁの半分は達成ね」
リオンが私の手を取った。
「残りは?」
「直接、あなたたちの前に立つことよ。王都で、私のカフェを開く日が来るわ」
ミアが目を輝かせた。
「ミアも一緒に行きます!」
私は頷いた。
甘い復讐は、まだ続く。
王子、リリア。
あなたたちが私から奪ったもの、すべて取り戻してあげる。
華麗に、甘く。
(文字数: 約1780文字)
第18話はここまで。次回、王国パーティへの招待と、対峙の始まりへ――。
王子を直接登場させ、初の直接ざまぁシーンを描きました。エレナの賢さと成長を強調し、爽快感を最大に。
王都からの経済制裁が始まって一ヶ月。
ルミナスの街は、むしろ以前より繁栄していた。
私のカフェは領地の経済の柱となり、他領地からの交易商が毎日訪れる。スイーツの輸出量は増え続け、王都の制裁などまるで影響なし。冒険者たちはクーポン目当てにクエストをこなし、街の税収は過去最高を記録した。
伯爵が大笑いしながら言った。
「王都の連中、顔から火が出るじゃろう! エレナ嬢の甘い革命、完璧じゃ!」
私は笑顔で対応しつつ、心の中でほくそ笑んでいた。
リリア、あなたたちの計画は失敗したわね。
その日、カフェはいつも通り大盛況だった。
午後のティータイム。貴族風の客が増える時間帯。
ミアがトレイを抱えて駆け寄ってきた。
「エレナお姉様! お客様です! すごく立派な馬車で来られた方で、個室を希望されてます!」
「わかったわ。案内して」
私は新作の「ロイヤルティラミス」をトレイに載せ、二階の個室へ向かった。
ドアを開けると、そこにいたのは――。
金色の髪、青い瞳。白を基調とした高級な礼服。
アレックス王子だった。
変装はしているが、隠しきれない王族の気品。隣には護衛らしき騎士が二人控えている。
私は一瞬、息を止めた。
元の世界で、私を婚約破棄し、追放した男。
今、私の前にいる。
「……いらっしゃいませ。王子殿下」
私は冷静に微笑み、トレイを置いた。
アレックスは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべた。
「エレナ……久しぶりだな。元気そうで、何よりだ」
その声に、胸の奥で黒い感情が渦巻いた。
元気? あなたが私を追放したせいで、異世界に飛ばされ、死にそうになったのに?
でも、今の私は強い。
「ありがとうございます。お茶をお持ちしました。どうぞ」
王子はティラミスを一口食べ、目を大きく見開いた。
「これは……信じられん。こんな味と効果、王都のどんな菓子職人も作れない」
「褒めていただき、光栄です」
王子はフォークを置き、真剣な目で私を見た。
「エレナ、率直に言う。君のこの店、王都で話題になっている。貴族たちが密かに買いに来るほどだ。リリアも……君のスイーツを食べたいと言っている」
リリアの名前が出た瞬間、私の指先がわずかに震えた。
「ああ、そう」
「だから、提案がある。店を王都に移さないか? 王家の保護を与え、最高の場所を提供する。君の才能は、王国全体のために使うべきだ」
保護? 才能を王国のために?
笑いが込み上げてきた。
あなたたちは、私の成功を潰そうとしたくせに。
今さら、取り込もうというの?
「申し訳ありません。王子殿下。この店は、ルミナスの街と伯爵様のためにあります。王都へは、行きません」
王子の表情が、少し硬くなった。
「エレナ……昔のことは、悪かったと思っている。あのときは、リリアの言葉を信じてしまって……君を傷つけた」
昔のこと?
婚約破棄、追放、家族からの見捨てられ――すべてを「昔のこと」で済ませるの?
私は静かに微笑んだ。
「王子殿下。あのときのことは、もう忘れました。ここで新しい人生を始め、幸せですから」
王子は少し動揺した様子で、立ち上がった。
「そうか……なら、せめて持ち帰りを大量に。リリアが喜ぶ」
「かしこまりました」
私は特別に作った豪華なスイーツセットを包んだ。回復効果だけでなく、少しだけ「真実を見抜く」効果を込めて。
王子が去った後、リオンが個室に入ってきた。
「……よく耐えたな」
「ありがとう。リオンさん」
私はリオンの胸に顔を埋めた。
「悔しかったけど……勝った気がするわ」
ミアがドアから覗いて、にこっと笑った。
「エレナお姉様、カッコよかったです!」
その夜、王都で起こったことを、情報屋から聞いた。
王子が持ち帰ったスイーツを食べたリリアが、突然過去の陰謀を告白し始めたらしい。
「私が……エレナ様を陥れたの……偽の証拠を作って……」
真実を見抜く効果が、効いたのだ。
王子は動揺し、リリアを問い詰め、すべてが明るみに出た。
ヴァレンティア家の陰謀、婚約破棄の真相、転移者狩りの命令――。
王宮は大混乱。
王子が、私に謝罪の手紙を送ってきた。
『エレナ、すべて私の過ちだった。許してくれとは言わないが、真相を公表し、君の名誉を回復する』
私は手紙を読み、静かに燃やした。
名誉回復?
もう、必要ないわ。
私はここで、十分に成功している。
あなたたちが後悔すれば、それでいい。
伯爵が大笑いした。
「王子殿下、顔面蒼白じゃろう! エレナ嬢の甘い罠、見事じゃ!」
カフェはさらに繁栄した。
王都の貴族たちが、こっそり訪れるようになった。
リリアは謹慎、王子は失意。
私のスイーツは、王国中で「禁断の甘さ」と呼ばれ始めた。
私はリオンとミアと、バルコニーで夜空を見上げた。
「これで、ざまぁの半分は達成ね」
リオンが私の手を取った。
「残りは?」
「直接、あなたたちの前に立つことよ。王都で、私のカフェを開く日が来るわ」
ミアが目を輝かせた。
「ミアも一緒に行きます!」
私は頷いた。
甘い復讐は、まだ続く。
王子、リリア。
あなたたちが私から奪ったもの、すべて取り戻してあげる。
華麗に、甘く。
(文字数: 約1780文字)
第18話はここまで。次回、王国パーティへの招待と、対峙の始まりへ――。
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