婚約破棄されたので30歳年上公爵様と婚約しました ――魔法少女は、公爵夫人になります――

鷹 綾

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第31話 揺らぐ立場、試される覚悟

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対等な婚約――
その言葉が、ローマン公爵邸の中で静かに共有されてから数日。

何かが劇的に変わったわけではない。
朝は来て、執務は積み重なり、王都は相変わらず忙しい。

だが、視線の向きだけが、確実に変わった。

「……増えましたね」

ミント・マリーベルは、執務机に積まれた書類を見て、静かに呟いた。

・各区の魔力設備の点検要請
・貴族家からの助言依頼
・文官経由の制度調整相談

いずれも、名義は――
ローマン公爵家・婚約者ミント宛。

ナンシーが、苦笑交じりに言う。

「完全に」

「“未来の公爵夫人”として、
見られ始めてるわね」

「はい」

ミントは、頷いた。

「そして」

「それは、
好意だけではありません」

その予感は、すぐに現実となった。

王都評議会からの、非公式な招集。

名目は、
「公爵家の影響力拡大に関する意見交換」。

ローマン公爵は、招集状を見つめ、低く言った。

「……来たか」

「はい」

ミントは、落ち着いて答える。

「立場が定まれば」

「次は」

「その立場が、
妥当かどうかを問われます」

評議会の小会議室。

出席者は、数名の上級貴族と文官。
いずれも、穏やかな表情を浮かべているが、目は鋭い。

「まずは」

一人の伯爵が、口を開いた。

「近頃のローマン公爵家の動き」

「王都行政に、
大きな影響を与えていますな」

「評価すべき点も、
多い」

「しかし」

一拍。

「影響力が、
個人に集中しすぎているのでは?」

視線が、ミントに集まる。

「特に」

「まだ10歳の婚約者が」

「実務に深く関わることについて」

「懸念が、
出ています」

ナンシーなら、噛みついていただろう。
ジョーなら、机を叩いていたかもしれない。

だが、ミントは違った。

「……ご懸念」

「もっともです」

会議室が、静まり返る。

「私は」

「年齢的に、
未熟です」

「それは」

「否定しません」

数名が、意外そうに眉を動かす。

「ですが」

ミントは、続ける。

「私が関与しているのは」

「決定権ではありません」

「助言」

「技術的判断」

「状況整理」

「最終決定は」

「すべて」

「公爵、
または正式な行政機関が
行っています」

文官の一人が、口を挟む。

「しかし」

「現場では」

「“ミント様が言ったから”
という声も……」

「ええ」

ミントは、頷いた。

「それは」

「私の責任です」

その言葉に、空気が動いた。

「影響力が、
生じている以上」

「年齢を理由に」

「責任から、
逃げることはしません」

「ですから」

「提案があります」

彼女は、一枚の書類を差し出した。

「私の関与範囲を、
文書化してください」

「何を、
行い」

「何を、
行わないのか」

「権限と、
責任を」

「明確にします」

伯爵が、目を見開く。

「……自ら」

「縛ると?」

「はい」

ミントは、即答した。

「影響力は」

「持てば、
便利です」

「ですが」

「便利だからこそ」

「制限が、
必要です」

沈黙。

やがて、評議会の一人が、ゆっくりと頷いた。

「……覚悟が」

「ある、
ということか」

「はい」

ミントは、まっすぐ答えた。

「私は」

「“特別扱い”を、
求めません」

「ですが」

「“責任を負うこと”は、
拒みません」

会議は、想定よりも早く終わった。

結論は保留。
だが、空気は変わっていた。

帰りの馬車で。

グレイ・ローマン公爵が、静かに言った。

「……今日の発言」

「危険だった」

「はい」

ミントは、頷く。

「ですが」

「逃げれば」

「“守られる子供”に、
戻ります」

「私は」

「もう」

「そこには、
戻れません」

グレイは、しばらく黙り――
やがて、低く笑った。

「……頼もしいな」

「それは」

「父親の言葉ですか?」

「いや」

グレイは、はっきりと言った。

「婚約者の言葉だ」

その夜。

ミントは、ロシナンテと並んで夜風に当たっていた。

「……今日」

「少しだけ」

「怖かったです」

「ヒヒン」

(意訳:でも立った)

「はい」

ミントは、静かに微笑む。

「立ちました」

「守られる立場でも」

「甘えられる立場でもなく」

「選んだ立場として」

王都は、再び揺れ始めている。

だが、それは崩れる揺れではない。

支え合うために、
形を変える揺れだ。

そしてミント・マリーベルは、その中心で、はっきりと立っていた。

10歳の少女としてではない。
未来の公爵夫人としてでもない。

責任を引き受ける者として。
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