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第21話「説明できない、という事実」
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第21話「説明できない、という事実」
調査は、静かに始まった。
派手な捜索も、
拘束もない。
表向きは、
あくまで「過去経歴の再確認」。
王城内に波紋を立てぬよう、
慎重に、慎重に。
だが、
水面下では、
確実に歯車が回っていた。
オスカー・フォン・ルーヴェンは、
調査報告の第一陣を、
一人で確認していた。
(……整っている)
フローラ・エヴァンスの生活記録。
居住履歴。
使用人の証言。
衣服の購入履歴。
どれも、
婚約者として完璧だ。
だが。
オスカーは、
ふと、
ある項目で手を止めた。
(医師の診察記録……?)
量が、
異様に少ない。
風邪。
怪我。
体調不良。
どんな人間にも、
多少はあるはずのものが、
ほとんど記録されていない。
(……不自然だ)
健康体、
という説明では、
片づけられない。
それは、
診察を受ける必要がない体
であるかのようだった。
一方。
別室では、
調査官たちが、
別の違和感を拾い上げていた。
「この使用人の証言ですが」
一人が、
記録を指差す。
「皆、
“直接触れたことがない”
と答えています」
「触れたことが、ない?」
「はい。
衣服の着付けも、
身の回りの世話も、
すべてフローラ様ご本人が
なさっていたと」
沈黙。
高位貴族の令嬢として、
あまりに不自然だ。
「体を拭く手伝いは?」
「断られたそうです」
「理由は?」
「……『恥ずかしいから』と」
それ自体は、
おかしくない。
だが、
全員が、
例外なく、
そう答えている。
「……徹底してるな」
誰かが、
ぽつりと呟いた。
オスカーは、
別の報告書に目を通す。
衣服の仕立て。
胸部の採寸。
(……変だ)
数字自体は、
女性として成立している。
だが、
毎回、同じ。
微差がない。
成長も、
体調による変動も。
まるで――
固定された寸法を、
なぞっているかのようだ。
「殿下」
調査官が、
慎重に声をかける。
「現時点では、
違法性は確認できません」
それは、
事実だった。
「ただ……
いくつか、
説明できない点が」
オスカーは、
頷いた。
「理屈は、
あとでいい」
彼は、
静かに言った。
「“説明できない”
という事実を、
記録に残せ」
それは、
裁くためではない。
逃げ場を消すためだ。
一方。
フローラ・エヴァンスは、
自室で、
一人、
鏡を見つめていた。
いつも通りの姿。
完璧な化粧。
整った輪郭。
だが、
胸の奥が、
ざわついている。
(……来ている)
調査官の視線。
質問の内容。
そして、
微妙な距離感。
(“触れない”
“診察しない”
……そこを見られたか)
彼女は、
拳を握る。
(いや……
まだ、決定打じゃない)
証拠は、ない。
だが、
違和感が積み重なる段階に
入ってしまった。
それは、
最も危険だ。
理屈で否定できない。
だから、
人は、
“確かめたくなる”。
(……まずい)
フローラは、
静かに深呼吸をする。
(ここで、
触れられる場面があれば……)
それは、
致命的だ。
一方。
オスカーは、
調査報告を閉じ、
椅子にもたれた。
頭の中に浮かぶのは、
マルティナの言葉。
――国内の人間を、
これ以上巻き込むべきではありません。
(……彼女は、
ここまで見ていたのか)
いや。
そこまでは、
見えていなかっただろう。
だが。
(“違和感を無視しない”
……それだけは、
教えられた)
オスカーは、
立ち上がる。
「……次は」
彼は、
自分に言い聞かせるように呟く。
「偶然を、
偶然のままにしない」
それは、
決意というより、
覚悟だった。
フローラ・エヴァンスは、
まだ“女性”だ。
書類上も、
制度上も。
だが。
説明できない違和感が、
王城の中に、
確実に芽を出し始めている。
それは、
もう、
誰にも消せない。
調査は、静かに始まった。
派手な捜索も、
拘束もない。
表向きは、
あくまで「過去経歴の再確認」。
王城内に波紋を立てぬよう、
慎重に、慎重に。
だが、
水面下では、
確実に歯車が回っていた。
オスカー・フォン・ルーヴェンは、
調査報告の第一陣を、
一人で確認していた。
(……整っている)
フローラ・エヴァンスの生活記録。
居住履歴。
使用人の証言。
衣服の購入履歴。
どれも、
婚約者として完璧だ。
だが。
オスカーは、
ふと、
ある項目で手を止めた。
(医師の診察記録……?)
量が、
異様に少ない。
風邪。
怪我。
体調不良。
どんな人間にも、
多少はあるはずのものが、
ほとんど記録されていない。
(……不自然だ)
健康体、
という説明では、
片づけられない。
それは、
診察を受ける必要がない体
であるかのようだった。
一方。
別室では、
調査官たちが、
別の違和感を拾い上げていた。
「この使用人の証言ですが」
一人が、
記録を指差す。
「皆、
“直接触れたことがない”
と答えています」
「触れたことが、ない?」
「はい。
衣服の着付けも、
身の回りの世話も、
すべてフローラ様ご本人が
なさっていたと」
沈黙。
高位貴族の令嬢として、
あまりに不自然だ。
「体を拭く手伝いは?」
「断られたそうです」
「理由は?」
「……『恥ずかしいから』と」
それ自体は、
おかしくない。
だが、
全員が、
例外なく、
そう答えている。
「……徹底してるな」
誰かが、
ぽつりと呟いた。
オスカーは、
別の報告書に目を通す。
衣服の仕立て。
胸部の採寸。
(……変だ)
数字自体は、
女性として成立している。
だが、
毎回、同じ。
微差がない。
成長も、
体調による変動も。
まるで――
固定された寸法を、
なぞっているかのようだ。
「殿下」
調査官が、
慎重に声をかける。
「現時点では、
違法性は確認できません」
それは、
事実だった。
「ただ……
いくつか、
説明できない点が」
オスカーは、
頷いた。
「理屈は、
あとでいい」
彼は、
静かに言った。
「“説明できない”
という事実を、
記録に残せ」
それは、
裁くためではない。
逃げ場を消すためだ。
一方。
フローラ・エヴァンスは、
自室で、
一人、
鏡を見つめていた。
いつも通りの姿。
完璧な化粧。
整った輪郭。
だが、
胸の奥が、
ざわついている。
(……来ている)
調査官の視線。
質問の内容。
そして、
微妙な距離感。
(“触れない”
“診察しない”
……そこを見られたか)
彼女は、
拳を握る。
(いや……
まだ、決定打じゃない)
証拠は、ない。
だが、
違和感が積み重なる段階に
入ってしまった。
それは、
最も危険だ。
理屈で否定できない。
だから、
人は、
“確かめたくなる”。
(……まずい)
フローラは、
静かに深呼吸をする。
(ここで、
触れられる場面があれば……)
それは、
致命的だ。
一方。
オスカーは、
調査報告を閉じ、
椅子にもたれた。
頭の中に浮かぶのは、
マルティナの言葉。
――国内の人間を、
これ以上巻き込むべきではありません。
(……彼女は、
ここまで見ていたのか)
いや。
そこまでは、
見えていなかっただろう。
だが。
(“違和感を無視しない”
……それだけは、
教えられた)
オスカーは、
立ち上がる。
「……次は」
彼は、
自分に言い聞かせるように呟く。
「偶然を、
偶然のままにしない」
それは、
決意というより、
覚悟だった。
フローラ・エヴァンスは、
まだ“女性”だ。
書類上も、
制度上も。
だが。
説明できない違和感が、
王城の中に、
確実に芽を出し始めている。
それは、
もう、
誰にも消せない。
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