追放された悪役令嬢は最強魔法で復讐し、隣国王子に永遠に愛される

鷹 綾

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第3話 婚約破棄宣言

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第3話 婚約破棄宣言

王都アステリアの空は、今日も澄み渡っていた。

しかし、王宮の大広間は異様な熱気に包まれていた。貴族たちがひそひそと囁き合い、視線を一箇所に集中させている。

その中心に立つのは、王太子カーチス・フォン・アステリア。そして、その隣に寄り添うように立つ聖女セラだった。

エメロードは、少し遅れて広間に到着した。

今朝、カーチスから急な呼び出しがあったのだ。

『重要な話がある。必ず来てくれ、エメロード』

手紙の筆跡はいつもより乱れていた。それでも、エメロードは穏やかな表情を崩さず、純白のドレスに身を包んで馬車を降りた。

大広間の扉が開くと、数百の視線が一斉に彼女に注がれた。

祝福の視線ではない。好奇、嘲笑、同情──様々な感情が混じり合った、冷たい視線。

エメロードは背筋を伸ばし、優雅に歩を進めた。

カーチスの前に立つと、彼は少し顔を背けるようにして口を開いた。

「……エメロード、よく来てくれた」

「カーチス殿下。お呼びでしょうか」

エメロードは静かに一礼する。いつもの完璧な微笑みを保ちながら。

セラは、カーチスの後ろで控えめに立っていた。しかし、その瞳は──勝ち誇ったように輝いている。

カーチスは深く息を吸い、声を張り上げた。

「諸君! 本日、ここに重要な発表がある!」

広間が静まり返る。

「私は、長年婚約していたエメロード・フォン・エルグランドとの婚約を、ここに解除する!」

一瞬の静寂の後、どよめきが広がった。

エメロードは、ただ静かにカーチスを見つめた。

心臓が、激しく鳴っている。それでも、表情は変えない。

カーチスは続ける。

「エメロードは確かに完璧な令嬢だった。しかし……私は気づいたのだ。真の運命の相手が、別にいることを」

そう言って、カーチスはセラの手を取った。

セラは恥ずかしそうに俯きながらも、カーチスの腕にそっと寄り添う。

「聖女セラこそが、私の運命の相手だ。彼女の純粋さ、優しさ、異世界の知識──全てが、私を導いてくれる」

会場がざわめく。

「王太子殿下と聖女様……!」

「やはり、そうだったのね」

「エメロード様が可哀想だけど……」

そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

カーチスはさらに声を強めた。

「エメロード、お前は確かに美しく、賢く、完璧だった。だが……冷たい。感情が薄い。民の苦しみを理解しようともしない、ただの飾り物の令嬢だ」

エメロードの瞳が、わずかに揺れた。

冷たい? 感情が薄い?

これまで、彼女は完璧であるために全てを抑えてきた。公爵令嬢として、王太子の婚約者として、感情を表に出さず、常に笑顔でいることを選んできた。

それが、今──「冷たい」と糾弾されている。

カーチスは、興が乗ったように続ける。

「お前はいつも完璧ぶっていたが、それはただの虚飾だ。セラは違う。彼女は本当に民を思い、傷ついた者を癒し、王国を救おうとしている」

セラが、涙を浮かべて口を開いた。

「カーチス様……私、そんなつもりでは……エメロード様のご迷惑になるなんて……」

その声は震え、儚げで、会場中の貴族たちの心を掴んだ。

「聖女様は優しい……」

「エメロード様は、確かに少し高慢だったかも」

「王太子殿下の選択は正しいわ」

エメロードは、静かに周囲を見渡した。

誰も、彼女の味方はいない。

いや、一人だけ──遠くの隅で、侍女のリアナが青ざめた顔で立っているのが見えた。

カーチスは、最後に言い放った。

「エメロード・フォン・エルグランド。お前はもはや私の婚約者ではない。これ以上の関係は一切ない。公爵家としての名誉は保つが、王宮への出入りは控えてもらいたい」

公衆の面前での侮辱。

これ以上ないほどの、婚約破棄宣言。

エメロードは、ゆっくりと一礼した。

「承知いたしました、カーチス殿下」

声は震えなかった。完璧に、穏やかに。

しかし、胸の奥で──何かが、音を立てて砕けた。

セラが、カーチスの腕にさらに寄り添い、小さく微笑んだ。

その笑顔は、誰にも見えないように──勝利の笑みだった。

会場から拍手が沸き起こる。

王太子と聖女の、新しい物語を祝福する拍手。

エメロードはその拍手の中を、背筋を伸ばして歩き出した。

誰もが彼女の敗北を見守っている。

完璧公爵令嬢の、華々しい転落。

しかし、エメロードの瞳は──まだ、死んでいなかった。

(あなたたちは、私を侮辱した)

(この屈辱、必ず返してあげる)

馬車に乗った瞬間、リアナが駆け寄ってきた。

「エメロード様……!」

リアナの目には涙が浮かんでいる。

エメロードは、静かにリアナの手を取った。

「リアナ……ありがとう。あなただけが、味方でいてくれて」

「そんな……当然です! エメロード様は、何も悪くないのに……!」

エメロードは、窓の外を見つめた。

王宮が、遠ざっていく。

これまでの全てが、崩れ落ちていく。

けれど、同時に──新しい何かが、生まれ始めていた。

公爵邸に戻ると、兄のヴィクトルが待っていた。

「エメロード……聞いたぞ」

ヴィクトルの声は、怒りに震えていた。

「カーチスめ……許せない。あいつに抗議してくる」

しかし、エメロードは静かに首を振った。

「お兄様……今は、静かにしていてください」

「だが……!」

「お願い。お兄様まで巻き込むわけにはいかないわ」

ヴィクトルは、悔しそうに拳を握りしめた。

その夜、エメロードは自室で一人、鏡の前に立っていた。

鏡の中の自分は、まだ完璧な笑顔を保っている。

しかし、瞳の奥に──黒い炎が灯り始めていた。

(カーチス……セラ……)

(あなたたちが私にしたこと、絶対に後悔させてあげる)

婚約破棄のニュースは、王都中に瞬く間に広がった。

「悪役令嬢エメロード、ついに破滅」

「聖女セラ様こそ、真の王妃に相応しい」

誰もが、そう噂した。

誰もが、エメロードの終わりを予感した。

しかし、それは──始まりに過ぎなかった。

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