婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ～偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う～

第29話: 後日談: 悪役の末路

第29話: 後日談: 悪役の末路

数年後。

王国は、アプリリアの聖女の力とガイアの騎士団の守りで、未曾有の繁栄を謳歌していた。  
黒薔薇の谷は、王国随一の聖地となり、  
訪れる人々が絶えない観光地となっていた。

一方、追放された者たちの末路は、惨めなものだった。

まず、エテルナ・フォン・ロズウェル。

永久追放の判決を受け、王国領土の外――荒野の向こうの小国に流れ着いた。

最初は、残った美貌と貴族の知識で、  
小さな貴族の愛人として暮らしていた。

しかし、薬の後遺症で体が弱り、  
聖女の力の残滓さえ失っていた。

愛人はすぐに冷め、  
エテルナは、街の安酒場で働く身となった。

金髪は切り落とされ、顔には疲労の皺。  
客の酔った嘲笑を浴びながら、  
酒を運ぶ日々。

ある夜、酒場で昔の貴族の旅人が入ってきた。

エテルナは、慌てて顔を隠した。

だが、旅人は気づいた。

「お前……昔のロズウェル家の妾腹の娘か？  
偽聖女の、エテルナだろ？」

客たちが、どっと笑う。

「偽聖女が、こんなところで酒運びかよ！」  
「王太子を騙した女が、落ちぶれちまったな！」

エテルナは、トレイを落として泣き崩れた。

「違う……私は……  
お姉様に、すべてを奪われただけ……」

しかし、誰も同情しない。

彼女は、酒場を追い出され、  
街の路地で、物乞いに近い生活を送るようになった。

嫉妬の炎は、  
今は自分を焼く灰だけになっていた。

「アプリリア……  
あなたが、幸せなら……  
せめて、私を……」

だが、その呟きは、風に消えるだけ。

次に、ヴェゼル侯爵令嬢。

侯爵家は完全に没落。  
領地は没収され、家族は平民に落とされた。

ヴェゼルは、かつての華やかなドレスではなく、  
粗末な服で、王都の裏通りを歩いていた。

取り巻きは誰もおらず、  
父は病死、母は行方不明。

彼女は、安い宿で針仕事をして暮らしていた。

ある日、市場で、アプリリアの聖女行列を見た。

華やかな馬車、  
民の歓声、  
隣にいる銀髪の騎士。

ヴェゼルは、影に隠れて震えた。

「あの女が……  
私が嘲笑った女が……  
あんなに、幸せに……」

嫉妬と後悔が、胸を締めつける。

彼女は、市場の片隅で、  
物を売る小さな露店を出すようになった。

だが、客はほとんど来ない。

ある日、昔の知り合いの貴族令嬢が通りかかった。

「あら、ヴェゼル？  
あなた、ここで商売？」

ヴェゼルは、顔を赤らめて俯いた。

「ええ……家が、没落してしまって……」

令嬢は、冷たく笑った。

「エテルナ様と一緒に、聖女様を陥れた報いね。  
自業自得よ」

ヴェゼルは、涙をこぼした。

結局、彼女は王都を離れ、  
小さな村で、独りで暮らすようになった。

乞食に近い、貧しい生活。

かつての傲慢さは、  
完全に砕け散っていた。

最後に、ルキノ・エドワード。

王族の隠棲所――王都から遠く離れた、古い城館。

権力も名誉も失い、  
わずかな使用人だけを伴い、静かに暮らしていた。

金髪は白髪が混じり、  
顔には深い後悔の皺。

毎朝、庭で一人、薔薇を剪定する。

かつて、アプリリアと歩いた庭を思い出しながら。

ある日、旅の商人が、噂を語った。

「聖女様とガイア団長の結婚式が、盛大だったそうですよ。  
王国中が祝福したって」

ルキノは、静かに頷いた。

「……そうか。  
あいつは、幸せなんだな」

夜、独りでワインを飲む。

「アプリリア……  
俺は、お前を愛していたのに……  
なぜ、信じられなかったんだ」

涙が、グラスに落ちる。

彼は、王位を失ったことを、  
後悔していなかった。

ただ、アプリリアを失ったことを、  
一生、悔やみ続けた。

隠棲所で、静かに老いていく。

使用人さえ、減っていった。

惨めな、孤独な末路。

三人の悪役は、  
それぞれの場所で、  
過去の罪を、背負って生きていた。

アプリリアの幸せを、  
遠くから知りながら、  
自分たちの愚かさを、噛みしめながら。

ザマアは、完結した。

エテルナの孤独。  
ヴェゼルの貧困。  
ルキノの後悔。

読者のスカッと感が、  
最高潮に。

一方、アプリリアとガイアは、  
領地で幸せに暮らしていた。

子どもたちの笑い声が、  
館に響く。

悪役たちの末路は、  
対比で、アプリリアの勝利を、  
より輝かせる。

王国は、平和。

聖女の光が、  
すべてを照らす。

後日談は、  
ザマアの余韻を、残す。

三人は、  
二度と、戻れない。

アプリリアの、  
華麗なる逆転の、  
完璧な締めくくり。