完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第16話 白い結婚、破棄されそうになる

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 その知らせは、夕刻の静けさを破って届いた。

「公爵様。中央より、正式な照会文です」

 執務室に入ってきた側近の表情は、硬い。
 クロードは無言で文書を受け取り、目を走らせた。

 ――王宮評議会名義。
 内容は、簡潔で、そして厄介だった。

「……“白い結婚の実態確認”か」

 事実上の圧力。
 婚姻が形式のみであれば、外交上の不安定要素になる――そんな理屈を並べ立てている。

 クロードは、文書を机に置いた。

(来たか)

 王宮は、セレナを“取り戻す”ことを諦めていない。
 正面から奪えないなら、制度で揺さぶる。

「……セレナには、知らせるな」 「しかし……」 「私が処理する」

 側近が下がった直後。

 ノックもなく、扉が開いた。

「もう、知っていますわ」

 セレナだった。
 静かな声。だが、目は冴えている。

「……盗み聞きは感心しない」 「廊下で堂々と話していらっしゃいましたから」

 クロードは、短く息を吐いた。

「心配する必要はない」 「ええ。公爵が、私を守ってくださるのは分かっています」

 彼女は、そう言ってから、少しだけ間を置いた。

「でも――今回は、私の問題でもあります」

 机の上の文書に、視線を落とす。

「“白い結婚”が、形式だけだと証明されたら」 「婚姻の正当性が揺らぐ」 「はい」

 セレナは、顔を上げた。

「王宮は、それを狙っています」 「……その通りだ」

 沈黙が、落ちる。

 クロードは、覚悟を決めた。

「最悪の場合――婚姻の見直しを求められる」 「……白い結婚の、破棄」

 言葉にした瞬間、
 胸の奥に、鈍い痛みが走った。

 セレナは、表情を変えない。

「それが、最も合理的だと判断されれば……」 「私は、拒否する」

 クロードは、即答した。

「王宮が何を言おうと、
 この婚姻は、私の意思だ」

 セレナは、少しだけ目を見開いた。

「……合理性を、捨てるのですか?」 「今回はな」

 彼は、真っ直ぐに彼女を見る。

「私は、公爵である前に――夫だ」

 その言葉は、重かった。

 ***

 夜。

 二人は、テラスに立っていた。
 風が、静かに吹き抜ける。

「……私が、重荷になっていませんか」

 セレナが、ぽつりと聞いた。

「なっていない」 「即答ですわね」 「迷う理由がない」

 彼女は、夜空を見上げる。

「王宮に戻れば、すべて丸く収まります」 「それは、君が壊れる選択だ」

 クロードは、はっきり言った。

「私は、それを選ばせない」

 セレナは、しばらく黙っていたが――
 やがて、小さく笑った。

「……では、私も覚悟を決めます」

 彼を見る。

「白い結婚であるかどうかを、
 他人に判断させる必要はありませんわね」

 クロードの喉が、鳴った。

「……どういう意味だ」 「そのままの意味です」

 彼女は、一歩近づく。

「私たちが、どう在るかを決めるのは、私たちです」

 近い。
 息が、触れるほど。

 だが、彼女はそれ以上踏み込まない。

「――今は、まだ」

 微笑む。

「でも、逃げません」

 クロードは、拳を握りしめた。

(……試されているのは)

(王宮ではない)

(私たち、だ)

 白い結婚。
 それは、守るための盾だった。

 だが今、その盾は――
 選択を迫ってくる。

 夜風が、二人の間を通り抜ける。

 静かで、張り詰めた時間。

 次に一歩踏み出せば、
 もう後戻りはできない。


---
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