婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません

鷹 綾

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第3話 思い出した未来、避けるべき処刑エンド

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第3話 思い出した未来、避けるべき処刑エンド

 医務室を出たあと、私はそのまま学園内の自室へ戻された。
 使用人は最低限、扉の外には監視のように立つ侍女。――表向きは「配慮」、実態は隔離だ。

「……静かね」

 椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。
 ようやく一人になれた。

 その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。

 ――映像が、溢れ出す。

 ゲーム画面。選択肢。好感度ゲージ。
 攻略対象の笑顔、聖女ミリアのイベントCG。
 そして――赤い文字で表示される、忌まわしい結末。

『エレナ・フォン・ローレンツ
 反逆罪により処刑』

「……やっぱり、間違いない」

 私は、この世界を知っている。

 前世――日本で平凡なOLだった私は、残業続きの夜に息抜きとして乙女ゲーム
『ロイヤル・エタニティ』をプレイしていた。

 聖女ミリアを中心に、王太子や騎士、魔導師たちと恋を育む物語。
 その裏で、必ず破滅する存在がいた。

 ――悪役令嬢、エレナ。

 婚約者の座にあぐらをかき、聖女を妬み、嫌がらせを重ねる愚かな女。
 最終的には王国転覆未遂の罪を着せられ、公開処刑。

(……ひどい設定よね)

 思わず、乾いた笑いが漏れる。

 現実の私は、そんなこと一度もしていない。
 むしろ、黙って耐え続けてきた。

 けれどゲームの中では、
“そういう女”として扱われ、
“そういう結末”が用意されている。

 ――そして今。

 婚約破棄。
 悪役令嬢扱い。
 聖女を疑った罪。

 もう、ルートに乗り始めている。

「このまま放っておいたら……」

 脳裏に浮かぶのは、処刑台。
 冷たい石床。集まる民衆。
 見下ろすように立つ、かつての婚約者。

「……冗談じゃないわ」

 背筋が、ぞっとするほど冷えた。

 私は、ゆっくりと両手を見つめる。
 細く、白い指。
 これまで「魔法適性なし」と判定されてきた、無力な手。

 ――でも。

 胸の奥で、確かに何かが動いている。

 さっき医務室で感じた、あの違和感。
 呼吸に合わせて、微かに脈打つ“力”。

(……ゲームには、なかった設定)

 『ロイヤル・エタニティ』でのエレナは、最後まで無能だった。
 だから処刑される。

 でも、今の私は――。

「前世の記憶を思い出した時点で、もう別物よ」

 知っている未来。
 避けるべき選択肢。
 そして――破滅へ続く道筋。

 すべて、分かっている。

「なら、やることは一つ」

 私は、静かに立ち上がった。

「――処刑エンド、全力で回避する」

 王太子にも、聖女にも、世界のシナリオにも。
 これ以上、人生を奪わせるつもりはない。

 その瞬間。

 胸の奥で、はっきりと“何か”が目を覚ました。

 熱が走り、視界が一瞬だけ揺らぐ。
 空気が、わずかに震えた。

「……これは……」

 驚いて周囲を見渡す。
 机の上のペンが、かすかに浮いていた。

 落ちる音。
 カラン、と乾いた響き。

 私は、息を呑んだ。

「魔力……?」

 あり得ない。
 私は“魔法適性ゼロ”のはず。

 ――けれど。

 指先に、確かな感覚が残っている。

 封じられていた何か。
 ずっと眠っていた力。

(もしかして……)

 ゲームでは語られなかった真実が、
 今、私の中で目を覚まし始めている。

 私は、唇を引き結んだ。

「……もう、泣いてる暇はないわね」

 悪役令嬢?
 処刑ルート?

 そんなもの――
 全部、書き換えてみせる。

 こうして私は、
“用意された結末”に逆らう決意を固めた。

 静かに、しかし確実に。
 運命を裏切る物語が、ここから始まる。
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