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第24話 王都からの召喚状
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第24話 王都からの召喚状
アルヴェルに、王都の名が落ちてきたのは、その翌日だった。
朝のギルドは、いつも以上に落ち着きがなかった。
依頼掲示板の前で立ち話をする者。
受付に詰め寄る商人。
そして、入口付近に立つ、見慣れない騎士たち。
(……来たわね)
私は、外套のフードを深く被り、視線を伏せたまま歩く。
騎士団の制服。
それも、アルヴェル駐留の者ではない。
「王都からの使者だって」 「昨日の回復薬の件で、正式に動くらしいぞ」
囁きが、波のように広がっていく。
受付の赤毛の女性が、私を見つけて小さく手招きした。
「エレナ。
……奥へ来て」
胸の奥が、静かに引き締まる。
応接室に入ると、そこにはルーカスと、もう一人――
見知らぬ男がいた。
年の頃は三十代半ば。
王都の文官らしい、無駄のない服装。
視線は柔らかいが、隙がない。
「初めまして」
男は、丁寧に頭を下げた。
「王都監査局の者です。
本日は、回復薬の一件で参りました」
監査局。
(……王太子直属の組織)
最悪ではない。
けれど、油断もできない。
「この街で提出された、匿名の鑑定報告」
男は、書類を一枚取り出す。
「非常に的確で、再現性が高い。
王都の鑑定班でも、同じ結果が出ました」
私は、黙って聞く。
「そこで――」
男は、言葉を選ぶように一拍置いた。
「この鑑定を行った人物に、
王都での説明をお願いしたい」
――召喚。
予想はしていた。
だが、胸の奥が冷える。
「名前は不要です」
男は、すぐに続けた。
「身分も問いません。
あくまで、“技術者”としての意見を聞きたい」
ルーカスが、こちらを見る。
視線に、問いはない。
判断を、私に委ねている。
(……断ることも、できる)
ここで拒めば、
ルーカスが適当な理由を用意するだろう。
でも。
(それは、時間を稼ぐだけ)
王都は、もうこちらを見ている。
逃げ続ければ、
いずれ、もっと強引な手段に出る。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……条件があります」
男の眉が、わずかに動く。
「第一に。
私の名は、最後まで伏せてください」
「可能です」
「第二に。
私は、誰かを断罪するために行くのではありません」
「……承知しました」
「第三に」
私は、はっきりと言った。
「帰還の自由を、保証してください」
沈黙。
少し、長い沈黙。
やがて、男は小さく笑った。
「……なるほど。
確かに、技術者の条件だ」
彼は、頷く。
「すべて、約束しましょう」
ルーカスが、静かに息を吐いた。
「無理はしないでいい」
小さな声で、そう言ってくる。
「分かっています」
私は、頷いた。
――覚悟は、できている。
応接室を出ると、ギルドの喧騒が遠く感じられた。
数時間後、宿へ戻り、最低限の荷をまとめる。
着替え。
ノート。
そして、三本の小瓶。
(……これも、持っていこう)
念のため。
窓から見える夕焼けは、どこか王都の空と似ていた。
「……また、一歩ね」
呟きながら、私は外套を羽織る。
名を出さずに、
影のまま。
それでも、
王都の中枢へ踏み込む。
この召喚は、
罠かもしれない。
試し石かもしれない。
けれど。
ここで行かなければ、
“答えを示す”という私の役目は、終わってしまう。
翌朝、私は王都行きの馬車に乗る。
処刑エンドから始まった人生は、
ついに――
王都そのものを、舞台に選び始めていた。
逃げ場は、もうない。
だからこそ、
前を向くしかなかった。
アルヴェルに、王都の名が落ちてきたのは、その翌日だった。
朝のギルドは、いつも以上に落ち着きがなかった。
依頼掲示板の前で立ち話をする者。
受付に詰め寄る商人。
そして、入口付近に立つ、見慣れない騎士たち。
(……来たわね)
私は、外套のフードを深く被り、視線を伏せたまま歩く。
騎士団の制服。
それも、アルヴェル駐留の者ではない。
「王都からの使者だって」 「昨日の回復薬の件で、正式に動くらしいぞ」
囁きが、波のように広がっていく。
受付の赤毛の女性が、私を見つけて小さく手招きした。
「エレナ。
……奥へ来て」
胸の奥が、静かに引き締まる。
応接室に入ると、そこにはルーカスと、もう一人――
見知らぬ男がいた。
年の頃は三十代半ば。
王都の文官らしい、無駄のない服装。
視線は柔らかいが、隙がない。
「初めまして」
男は、丁寧に頭を下げた。
「王都監査局の者です。
本日は、回復薬の一件で参りました」
監査局。
(……王太子直属の組織)
最悪ではない。
けれど、油断もできない。
「この街で提出された、匿名の鑑定報告」
男は、書類を一枚取り出す。
「非常に的確で、再現性が高い。
王都の鑑定班でも、同じ結果が出ました」
私は、黙って聞く。
「そこで――」
男は、言葉を選ぶように一拍置いた。
「この鑑定を行った人物に、
王都での説明をお願いしたい」
――召喚。
予想はしていた。
だが、胸の奥が冷える。
「名前は不要です」
男は、すぐに続けた。
「身分も問いません。
あくまで、“技術者”としての意見を聞きたい」
ルーカスが、こちらを見る。
視線に、問いはない。
判断を、私に委ねている。
(……断ることも、できる)
ここで拒めば、
ルーカスが適当な理由を用意するだろう。
でも。
(それは、時間を稼ぐだけ)
王都は、もうこちらを見ている。
逃げ続ければ、
いずれ、もっと強引な手段に出る。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……条件があります」
男の眉が、わずかに動く。
「第一に。
私の名は、最後まで伏せてください」
「可能です」
「第二に。
私は、誰かを断罪するために行くのではありません」
「……承知しました」
「第三に」
私は、はっきりと言った。
「帰還の自由を、保証してください」
沈黙。
少し、長い沈黙。
やがて、男は小さく笑った。
「……なるほど。
確かに、技術者の条件だ」
彼は、頷く。
「すべて、約束しましょう」
ルーカスが、静かに息を吐いた。
「無理はしないでいい」
小さな声で、そう言ってくる。
「分かっています」
私は、頷いた。
――覚悟は、できている。
応接室を出ると、ギルドの喧騒が遠く感じられた。
数時間後、宿へ戻り、最低限の荷をまとめる。
着替え。
ノート。
そして、三本の小瓶。
(……これも、持っていこう)
念のため。
窓から見える夕焼けは、どこか王都の空と似ていた。
「……また、一歩ね」
呟きながら、私は外套を羽織る。
名を出さずに、
影のまま。
それでも、
王都の中枢へ踏み込む。
この召喚は、
罠かもしれない。
試し石かもしれない。
けれど。
ここで行かなければ、
“答えを示す”という私の役目は、終わってしまう。
翌朝、私は王都行きの馬車に乗る。
処刑エンドから始まった人生は、
ついに――
王都そのものを、舞台に選び始めていた。
逃げ場は、もうない。
だからこそ、
前を向くしかなかった。
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