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第23話 答えを示す、名もなき鑑定
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第23話 答えを示す、名もなき鑑定
翌朝の空は、重たく曇っていた。
アルヴェル全体が、息を潜めているような空気。
昨日の騒ぎは、街に確かな爪痕を残している。
「……回復薬、怖くて使えねぇな」 「騎士団の指示が出るまで待つしかない」
市場もギルドも、動きが止まっていた。
――沈黙は、もう限界。
(だからこそ、“答え”が必要)
私は、宿の机に並べた三本の瓶を見つめていた。
・正規の回復薬
・格安で出回っていた高級回復薬
・昨日、倒れた冒険者が使用していた残り
すべて、外見はよく似ている。
素人には、まず見分けがつかない。
(……でも)
私は、深く息を吸い、魔力を指先に集めた。
光らせない。
震わせない。
“見る”だけ。
前世の知識と、この世界の魔導理論を重ね合わせる。
――やはり。
(魔力の流れが、歪んでいる)
高級回復薬と称されていたものは、
回復効率を無理やり底上げする構造になっている。
一時的には、驚くほど効く。
だが、その代償として――
体内の魔力循環を破壊する。
(……意図的)
偶然ではない。
設計思想そのものが、危険だ。
昼前、私は外套を羽織り、ギルドへ向かった。
視線が集まる。
昨日までの沈黙が、逆に注目を生んでいる。
私は、受付の赤毛の女性に近づいた。
「……一つ、提案があります」
彼女は、驚いたように目を見開いた。
「エレナ?」
「騎士団長に、伝えてください。
“匿名での鑑定結果”を提出したいと」
少しの沈黙。
それから、彼女は静かに頷いた。
「……分かった」
応接室には、すぐにルーカスが現れた。
「匿名、か」
「ええ。
名前も、立場も、必要ありません」
私は、三本の瓶を机に並べる。
「この回復薬は、
短期的な回復と引き換えに、
魔力循環を破壊します」
私は、簡潔に説明した。
「初動で倒れたのが、
魔力の扱いに慣れた冒険者だった理由です」
ルーカスは、無言で聞いている。
「そして――」
私は、最後の瓶を指差した。
「これは、“量産”を前提に作られています」
「……王都の工房か」
「おそらく。
個人の犯行ではありません」
沈黙が落ちる。
やがて、ルーカスは深く息を吐いた。
「これで、動ける」
「ええ。
でも――」
私は、はっきりと言った。
「この情報は、
“誰かが言った”形にしてください」
「……君自身は?」
「影で十分です」
英雄になる気はない。
裁く立場に立つ気もない。
ただ、答えを示すだけ。
ルーカスは、ゆっくりと頷いた。
「了解した」
その目には、確かな決意が宿っている。
応接室を出ると、ギルドの喧騒が少しずつ戻り始めていた。
人々は、まだ不安そうだ。
けれど、立ち止まってはいない。
(……これでいい)
私がやったのは、
正体を暴くことでも、
敵を糾弾することでもない。
正しい答えを、正しい形で渡しただけ。
夕方、宿へ戻る途中、
私はふと立ち止まり、空を見上げた。
雲の切れ間から、わずかな光。
名もなき鑑定。
名もなき協力者。
それでも、その“答え”は、
確実に世界を一歩、前へ進めた。
次に来るのは、
王都からの正式な反応。
それが、穏やかなものになるか、
あるいは――
さらに激しい波になるかは、まだ分からない。
ただ一つ確かなのは。
私は、もう逃げるだけの存在ではない。
名を出さずとも、
答えを示すことはできる。
その事実を、
世界は、はっきりと知り始めていた。
翌朝の空は、重たく曇っていた。
アルヴェル全体が、息を潜めているような空気。
昨日の騒ぎは、街に確かな爪痕を残している。
「……回復薬、怖くて使えねぇな」 「騎士団の指示が出るまで待つしかない」
市場もギルドも、動きが止まっていた。
――沈黙は、もう限界。
(だからこそ、“答え”が必要)
私は、宿の机に並べた三本の瓶を見つめていた。
・正規の回復薬
・格安で出回っていた高級回復薬
・昨日、倒れた冒険者が使用していた残り
すべて、外見はよく似ている。
素人には、まず見分けがつかない。
(……でも)
私は、深く息を吸い、魔力を指先に集めた。
光らせない。
震わせない。
“見る”だけ。
前世の知識と、この世界の魔導理論を重ね合わせる。
――やはり。
(魔力の流れが、歪んでいる)
高級回復薬と称されていたものは、
回復効率を無理やり底上げする構造になっている。
一時的には、驚くほど効く。
だが、その代償として――
体内の魔力循環を破壊する。
(……意図的)
偶然ではない。
設計思想そのものが、危険だ。
昼前、私は外套を羽織り、ギルドへ向かった。
視線が集まる。
昨日までの沈黙が、逆に注目を生んでいる。
私は、受付の赤毛の女性に近づいた。
「……一つ、提案があります」
彼女は、驚いたように目を見開いた。
「エレナ?」
「騎士団長に、伝えてください。
“匿名での鑑定結果”を提出したいと」
少しの沈黙。
それから、彼女は静かに頷いた。
「……分かった」
応接室には、すぐにルーカスが現れた。
「匿名、か」
「ええ。
名前も、立場も、必要ありません」
私は、三本の瓶を机に並べる。
「この回復薬は、
短期的な回復と引き換えに、
魔力循環を破壊します」
私は、簡潔に説明した。
「初動で倒れたのが、
魔力の扱いに慣れた冒険者だった理由です」
ルーカスは、無言で聞いている。
「そして――」
私は、最後の瓶を指差した。
「これは、“量産”を前提に作られています」
「……王都の工房か」
「おそらく。
個人の犯行ではありません」
沈黙が落ちる。
やがて、ルーカスは深く息を吐いた。
「これで、動ける」
「ええ。
でも――」
私は、はっきりと言った。
「この情報は、
“誰かが言った”形にしてください」
「……君自身は?」
「影で十分です」
英雄になる気はない。
裁く立場に立つ気もない。
ただ、答えを示すだけ。
ルーカスは、ゆっくりと頷いた。
「了解した」
その目には、確かな決意が宿っている。
応接室を出ると、ギルドの喧騒が少しずつ戻り始めていた。
人々は、まだ不安そうだ。
けれど、立ち止まってはいない。
(……これでいい)
私がやったのは、
正体を暴くことでも、
敵を糾弾することでもない。
正しい答えを、正しい形で渡しただけ。
夕方、宿へ戻る途中、
私はふと立ち止まり、空を見上げた。
雲の切れ間から、わずかな光。
名もなき鑑定。
名もなき協力者。
それでも、その“答え”は、
確実に世界を一歩、前へ進めた。
次に来るのは、
王都からの正式な反応。
それが、穏やかなものになるか、
あるいは――
さらに激しい波になるかは、まだ分からない。
ただ一つ確かなのは。
私は、もう逃げるだけの存在ではない。
名を出さずとも、
答えを示すことはできる。
その事実を、
世界は、はっきりと知り始めていた。
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