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第34話 正しさの名を借りて
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第34話 正しさの名を借りて
王都からの通達が届いたのは、
静かな朝だった。
紙一枚。
文面は、丁寧で、穏やかで――
そして、冷たい。
「……“品質統一指針の策定に関する協議要請”」
赤毛の受付の女性が、
声に出して読み上げる。
「要するに?」
「締め上げに来た、ってことね」
彼女は、ため息をついた。
禁止ではない。
否定でもない。
だが、
“正しさ”を定義する場に引きずり出そうとしている。
(……来たわね)
私は、紙を受け取り、静かに折りたたんだ。
「行きます」
「一人で?」
「いいえ」
私は、はっきり言う。
「一人では、行きません」
午後、ギルドの応接室。
集まったのは、
私、ルーカス、赤毛の受付の女性、
そして――数名の冒険者と薬師。
「……いいんですか、俺たちが出て」
年若い冒険者が、不安そうに言う。
「ええ」
私は、微笑んだ。
「“正しさ”を語る場に、
使っている人間がいない方が不自然です」
彼は、少し驚いた顔をしてから、
小さく笑った。
「……確かに」
王都の会議室は、
整いすぎていた。
磨かれた机。
整列した書類。
そして、揃った顔ぶれ。
「本日はお越しいただき、感謝する」
中央の官僚が、穏やかに切り出す。
「簡易回復薬について、
品質のばらつきが懸念されている」
想定通り。
「そこで、
一定の基準を設ける必要があると考えた」
私は、遮らずに聞く。
「基準を設けること自体に、
異論はありません」
場が、わずかにざわつく。
官僚は、意外そうに眉を上げた。
「……ほう?」
「ただし」
私は、言葉を続ける。
「その基準が、
誰のためのものかが重要です」
沈黙。
「理想的な品質か。
最高の効果か」
私は、机の上に、
帳簿の写しを置いた。
「それとも――
現場が、生き延びるための基準か」
官僚の視線が、帳簿に落ちる。
「……これは?」
「使用実績です」
日付。
傷の程度。
回復結果。
数字が、淡々と並ぶ。
「噂が出た後も、
使用件数は増えています」
「それは……」
「危険なら、
使われません」
私は、はっきり言った。
「命がかかる現場で、
“噂だけ”で使われる薬はありません」
官僚の一人が、咳払いをする。
「だが、
基準がなければ混乱を招く」
「だから、
基準を否定していません」
私は、視線を上げた。
「提案があります」
ルーカスが、静かに頷く。
「二段階基準です」
私は、説明を続けた。
「高品質・高価格の正規回復薬。
そして、
応急用・低価格の簡易回復薬」
「用途を、分ける?」
「ええ」
私は、即答した。
「同じ“回復薬”として競わせるから、
歪む」
場の空気が、
少しずつ変わっていく。
「用途を分け、
それぞれに必要十分な基準を設ける」
「……前例がない」
「だからこそ、
今、必要です」
沈黙が、長く続いた。
やがて、中央の官僚が口を開く。
「……“正しさ”とは、
難しいものだな」
私は、静かに答えた。
「正しさは、
掲げるものではありません」
帳簿を、軽く叩く。
「積み重なった結果です」
会議は、即決では終わらなかった。
だが――
否定も、されなかった。
王都を出る頃、
夕日が街を染めていた。
「……勝ったのか?」
冒険者が、小声で聞く。
「いいえ」
私は、首を振る。
「まだ、
“正しさの名を借りた戦い”は終わっていません」
でも――
一つだけ、確かなことがある。
もう、
こちらの声は無視できない。
派手な勝利ではない。
ざまぁもない。
けれど、
現実は、確実にこちらへ傾き始めている。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
正しさの名を借りるなら、
こちらは――
現実の名を借りるまでだ。
その戦い方を、
私はもう、知っている。
王都からの通達が届いたのは、
静かな朝だった。
紙一枚。
文面は、丁寧で、穏やかで――
そして、冷たい。
「……“品質統一指針の策定に関する協議要請”」
赤毛の受付の女性が、
声に出して読み上げる。
「要するに?」
「締め上げに来た、ってことね」
彼女は、ため息をついた。
禁止ではない。
否定でもない。
だが、
“正しさ”を定義する場に引きずり出そうとしている。
(……来たわね)
私は、紙を受け取り、静かに折りたたんだ。
「行きます」
「一人で?」
「いいえ」
私は、はっきり言う。
「一人では、行きません」
午後、ギルドの応接室。
集まったのは、
私、ルーカス、赤毛の受付の女性、
そして――数名の冒険者と薬師。
「……いいんですか、俺たちが出て」
年若い冒険者が、不安そうに言う。
「ええ」
私は、微笑んだ。
「“正しさ”を語る場に、
使っている人間がいない方が不自然です」
彼は、少し驚いた顔をしてから、
小さく笑った。
「……確かに」
王都の会議室は、
整いすぎていた。
磨かれた机。
整列した書類。
そして、揃った顔ぶれ。
「本日はお越しいただき、感謝する」
中央の官僚が、穏やかに切り出す。
「簡易回復薬について、
品質のばらつきが懸念されている」
想定通り。
「そこで、
一定の基準を設ける必要があると考えた」
私は、遮らずに聞く。
「基準を設けること自体に、
異論はありません」
場が、わずかにざわつく。
官僚は、意外そうに眉を上げた。
「……ほう?」
「ただし」
私は、言葉を続ける。
「その基準が、
誰のためのものかが重要です」
沈黙。
「理想的な品質か。
最高の効果か」
私は、机の上に、
帳簿の写しを置いた。
「それとも――
現場が、生き延びるための基準か」
官僚の視線が、帳簿に落ちる。
「……これは?」
「使用実績です」
日付。
傷の程度。
回復結果。
数字が、淡々と並ぶ。
「噂が出た後も、
使用件数は増えています」
「それは……」
「危険なら、
使われません」
私は、はっきり言った。
「命がかかる現場で、
“噂だけ”で使われる薬はありません」
官僚の一人が、咳払いをする。
「だが、
基準がなければ混乱を招く」
「だから、
基準を否定していません」
私は、視線を上げた。
「提案があります」
ルーカスが、静かに頷く。
「二段階基準です」
私は、説明を続けた。
「高品質・高価格の正規回復薬。
そして、
応急用・低価格の簡易回復薬」
「用途を、分ける?」
「ええ」
私は、即答した。
「同じ“回復薬”として競わせるから、
歪む」
場の空気が、
少しずつ変わっていく。
「用途を分け、
それぞれに必要十分な基準を設ける」
「……前例がない」
「だからこそ、
今、必要です」
沈黙が、長く続いた。
やがて、中央の官僚が口を開く。
「……“正しさ”とは、
難しいものだな」
私は、静かに答えた。
「正しさは、
掲げるものではありません」
帳簿を、軽く叩く。
「積み重なった結果です」
会議は、即決では終わらなかった。
だが――
否定も、されなかった。
王都を出る頃、
夕日が街を染めていた。
「……勝ったのか?」
冒険者が、小声で聞く。
「いいえ」
私は、首を振る。
「まだ、
“正しさの名を借りた戦い”は終わっていません」
でも――
一つだけ、確かなことがある。
もう、
こちらの声は無視できない。
派手な勝利ではない。
ざまぁもない。
けれど、
現実は、確実にこちらへ傾き始めている。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
正しさの名を借りるなら、
こちらは――
現実の名を借りるまでだ。
その戦い方を、
私はもう、知っている。
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