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第33話 数字が示すもの
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第33話 数字が示すもの
噂は、完全には消えなかった。
けれど――
勢いは、確実に削がれている。
それを一番はっきり示していたのは、
数字だった。
朝、ギルドの事務室。
私は受付の赤毛の女性と向かい合って、
帳簿を覗き込んでいた。
「……これ、三日前の記録」
彼女が指で示す。
「簡易回復薬の使用件数。
正規品と比べて……」
「増えてますね」
私は即答した。
彼女は、苦笑する。
「ええ。
噂が出た“後”に、よ」
噂が出れば、使われなくなる――
普通は、そうだ。
だが、今回は逆だった。
「現場は、
口より手を信じるってことね」
「命がかかってますから」
私は、淡々と言った。
「不安より、
“助かった経験”が勝ちます」
帳簿には、明確な傾向が出ていた。
軽傷。
応急処置。
連戦の合間。
簡易回復薬が最も必要とされる場面で、
確実に使われている。
(……十分だ)
昼過ぎ、
ルーカスから呼び出しがあった。
場所は、
ギルド近くの静かな資料室。
「王都が、数字に気づいた」
開口一番、そう告げられる。
「……でしょうね」
「噂で止まらない以上、
次は別の角度から来る」
私は、椅子に腰を下ろす。
「“品質基準”ですか」
「その通り」
ルーカスは、頷いた。
「統一基準を作る、という名目でな」
規制ではない。
禁止でもない。
だが――
基準を上げれば、
小規模工房は脱落する。
「……やり方が、上手い」
「褒めてる場合か?」
「ええ。
だから、対抗策もあります」
私は、机の上に紙を置いた。
「……これは?」
「使用実績の集計です」
日付。
傷の程度。
回復時間。
全て、匿名。
「基準を作るなら、
現場データを基にすべきです」
ルーカスは、紙に目を落とし、
小さく息を呑んだ。
「……揃ってるな」
「ええ」
私は、静かに言う。
「こちらは、
“現実に使われている基準”を出します」
理想の品質ではない。
最高性能でもない。
必要十分。
「それを、
王都が無視できると思いますか?」
ルーカスは、しばらく黙っていたが、
やがて、苦笑した。
「……思わないな」
夕方、
薬師の工房を訪ねる。
「……帳簿、ですか?」
彼は、少し戸惑いながらも、
協力を申し出た。
「変なことには、
使われませんよね?」
「ええ」
私は、真っ直ぐに答える。
「守るために使います」
彼は、しばらく考えてから、
静かに頷いた。
「……分かりました」
夜、宿の部屋。
机に並べた帳簿と記録を、
私は一つずつ確認する。
派手な戦いは、ない。
ざまぁも、ない。
けれど――
数字は、嘘をつかない。
噂よりも強く、
権威よりも静かに。
現実を示す。
私は、ペンを走らせ、
最後に一行を書き足した。
『基準とは、
現場が生き延びた結果の集合である』
処刑エンドから始まった人生は、
今や――
剣でも、魔法でもない場所で、
確実に世界を動かしている。
灯りを落とし、
私は静かに息を吐いた。
次に来るのは、
正面からの否定ではない。
“正しさの形”を巡る争いだ。
けれど――
もう、引き返すつもりはなかった。
噂は、完全には消えなかった。
けれど――
勢いは、確実に削がれている。
それを一番はっきり示していたのは、
数字だった。
朝、ギルドの事務室。
私は受付の赤毛の女性と向かい合って、
帳簿を覗き込んでいた。
「……これ、三日前の記録」
彼女が指で示す。
「簡易回復薬の使用件数。
正規品と比べて……」
「増えてますね」
私は即答した。
彼女は、苦笑する。
「ええ。
噂が出た“後”に、よ」
噂が出れば、使われなくなる――
普通は、そうだ。
だが、今回は逆だった。
「現場は、
口より手を信じるってことね」
「命がかかってますから」
私は、淡々と言った。
「不安より、
“助かった経験”が勝ちます」
帳簿には、明確な傾向が出ていた。
軽傷。
応急処置。
連戦の合間。
簡易回復薬が最も必要とされる場面で、
確実に使われている。
(……十分だ)
昼過ぎ、
ルーカスから呼び出しがあった。
場所は、
ギルド近くの静かな資料室。
「王都が、数字に気づいた」
開口一番、そう告げられる。
「……でしょうね」
「噂で止まらない以上、
次は別の角度から来る」
私は、椅子に腰を下ろす。
「“品質基準”ですか」
「その通り」
ルーカスは、頷いた。
「統一基準を作る、という名目でな」
規制ではない。
禁止でもない。
だが――
基準を上げれば、
小規模工房は脱落する。
「……やり方が、上手い」
「褒めてる場合か?」
「ええ。
だから、対抗策もあります」
私は、机の上に紙を置いた。
「……これは?」
「使用実績の集計です」
日付。
傷の程度。
回復時間。
全て、匿名。
「基準を作るなら、
現場データを基にすべきです」
ルーカスは、紙に目を落とし、
小さく息を呑んだ。
「……揃ってるな」
「ええ」
私は、静かに言う。
「こちらは、
“現実に使われている基準”を出します」
理想の品質ではない。
最高性能でもない。
必要十分。
「それを、
王都が無視できると思いますか?」
ルーカスは、しばらく黙っていたが、
やがて、苦笑した。
「……思わないな」
夕方、
薬師の工房を訪ねる。
「……帳簿、ですか?」
彼は、少し戸惑いながらも、
協力を申し出た。
「変なことには、
使われませんよね?」
「ええ」
私は、真っ直ぐに答える。
「守るために使います」
彼は、しばらく考えてから、
静かに頷いた。
「……分かりました」
夜、宿の部屋。
机に並べた帳簿と記録を、
私は一つずつ確認する。
派手な戦いは、ない。
ざまぁも、ない。
けれど――
数字は、嘘をつかない。
噂よりも強く、
権威よりも静かに。
現実を示す。
私は、ペンを走らせ、
最後に一行を書き足した。
『基準とは、
現場が生き延びた結果の集合である』
処刑エンドから始まった人生は、
今や――
剣でも、魔法でもない場所で、
確実に世界を動かしている。
灯りを落とし、
私は静かに息を吐いた。
次に来るのは、
正面からの否定ではない。
“正しさの形”を巡る争いだ。
けれど――
もう、引き返すつもりはなかった。
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