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第35話『祝宴のざわめき──二人はもう夫婦だと誰もが思っている』
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第35話『祝宴のざわめき──二人はもう夫婦だと誰もが思っている』
隣国ヴァルティア王宮・大広間。
新たな交易路の整備が完了した祝宴が開かれ、
各国の使節、貴族、学者らが華やかな衣をまとって集まっていた。
エヴァントラも招待され、
ライトグレーのドレスに淡い銀糸が織り込まれた装いで現れた。
その姿を見た途端——
アイオンは、思考を紛失した。
(……きれいすぎる)
灯火に照らされた彼女のドレスは月光のように輝き、
肌は雪のように白く、
淡い微笑みは宝石よりも気高かった。
視線をそらそうとしても、できない。
一方その頃、
大広間のあちこちでひそひそ声があがっていた。
---
◆◆周囲の反応があまりに露骨
「見た? あれが宰相補佐殿の“奥方様”よ」
「仮の妻だなんて名目だけでしょ。
どう見ても本気でしょ、あのお二人……!」
「アイオン様の視線……あれは確実に落ちてるわね」
「白い結婚(笑)」
笑いを堪えきれない者まで出ている。
エヴァントラは困ったように眉をひそめた。
(……今日は特に視線が多い気がしますわ)
当のアイオン本人は、耳まで赤いまま硬直している。
「アイオン? 顔色が悪いようですけれど……?」
「だ、大丈夫……だ。いや、大丈夫じゃない……
いや、違う……なんと言えば……」
(混乱してますわね)
エヴァントラは内心ため息をついた。
理由はすぐに察した。
(……先日の“あの出来事”を思い出しているのかしら)
盗賊事件の際、
アイオンが自分を抱き寄せた瞬間の熱。
あれ以来、二人の空気はどこかぎこちない。
(私も……思い出すと胸が熱くなるのよね)
そんなことを考えていたら、
背後から軽やかな声が降ってきた。
---
◆◆アリオン王太子、悪意なき爆弾投下
「やあ、弟夫婦。今日も仲睦まじいね?」
「だ、弟ふっ……!?
ア、アリオン兄上!! 不用意な発言は控えてくれ!!」
アイオンが真っ赤になり、必死に否定する。
エヴァントラも慌ててフォローした。
「私たちは白い結婚でして、夫婦関係では──」
「はいはい、建前は後で聞くよ、エヴァントラ嬢」
アリオンはにっこり微笑んだ。
「だって君たち、もう『本物の夫婦にしか見えない』んだから」
エヴァントラの頬が、ほんのり熱くなった。
(お、夫婦……? そんな……)
だがアリオンは続ける。
「ねぇ、アイオン。
君、エヴァントラ嬢を見てる時だけ呼吸が変わるよ?」
「兄上ーーーーーッ!!」
アイオンは頭を抱えた。
周囲がどっと笑いに包まれる。
エヴァントラは思わず顔を伏せる。
(……どうしましょう。
否定できないくらい、今日のアイオンは……その……)
胸が微妙にざわついた。
---
◆◆ふたりきりの会話が甘い
アリオンが離れた後、
アイオンはひどく落ち着かない様子で口を開いた。
「す、すまない……兄上が余計なことを……」
「いえ、兄弟仲が良いのは素晴らしいことですわ」
「よくない……全然よくない……!」
エヴァントラは小さく笑った。
「アイオンが取り乱すのは珍しいですわね」
「そ、それは……君が……」
「私が?」
アイオンは言葉を飲み込み、視線をそらす。
代わりに、静かに言った。
「……君が綺麗すぎて、直視できない」
エヴァントラは固まった。
(き、綺麗……? この私が……?
アイオンがそんなことを言うなんて……)
胸の奥がじん、と熱を帯びる。
「……ありがとうございますわ。
そのように言われたのは、生まれて初めてです」
アイオンが驚いた顔をした。
そして、少し寂しそうに笑う。
「本当か?
……じゃあ光栄だ。
君にとって初めての言葉を贈れたのなら」
エヴァントラは、うまく言葉が返せなかった。
(どうして……こんなに心が温かいの?)
---
◆◆そして、周囲はさらに盛り上がる
「なんて雰囲気の良い夫婦だ……」
「あとは式の日取りだけだな」
「宰相補佐が奥方をあんな目で見てるんだぞ? もう決まりよ!」
エヴァントラとアイオンは、同じタイミングで顔を赤くした。
「お、俺たちはまだ……!」
「そ、そうですわ! 白い結婚ですのに!」
二人の必死の否定にもかかわらず、
誰一人信じていなかった。
むしろ──
「(あれはもう、どう見ても恋人同士)」
「(いや、夫婦そのものだ)」
完全に“公認”扱いだった。
---
◆◆宴の終わり、二人の沈黙
帰りの馬車。
エヴァントラは静かに窓の外を見つめ、
アイオンは落ち着かないように手を組んだり開いたりしている。
沈黙。
だが、不快ではなく、どこか甘い空気。
エヴァントラがふと口を開いた。
「……今日、
アイオンが私を綺麗だと言ってくれて……嬉しかったですわ」
アイオンは驚き、そして優しく微笑んだ。
「本心だよ。
君は……誰よりも綺麗だった」
エヴァントラは胸が跳ねるのを抑えられなかった。
(ああ……
この気持ち、もう否定できませんわね)
白い結婚のルールが、
二人の心に影を落とす日も近い。
隣国ヴァルティア王宮・大広間。
新たな交易路の整備が完了した祝宴が開かれ、
各国の使節、貴族、学者らが華やかな衣をまとって集まっていた。
エヴァントラも招待され、
ライトグレーのドレスに淡い銀糸が織り込まれた装いで現れた。
その姿を見た途端——
アイオンは、思考を紛失した。
(……きれいすぎる)
灯火に照らされた彼女のドレスは月光のように輝き、
肌は雪のように白く、
淡い微笑みは宝石よりも気高かった。
視線をそらそうとしても、できない。
一方その頃、
大広間のあちこちでひそひそ声があがっていた。
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◆◆周囲の反応があまりに露骨
「見た? あれが宰相補佐殿の“奥方様”よ」
「仮の妻だなんて名目だけでしょ。
どう見ても本気でしょ、あのお二人……!」
「アイオン様の視線……あれは確実に落ちてるわね」
「白い結婚(笑)」
笑いを堪えきれない者まで出ている。
エヴァントラは困ったように眉をひそめた。
(……今日は特に視線が多い気がしますわ)
当のアイオン本人は、耳まで赤いまま硬直している。
「アイオン? 顔色が悪いようですけれど……?」
「だ、大丈夫……だ。いや、大丈夫じゃない……
いや、違う……なんと言えば……」
(混乱してますわね)
エヴァントラは内心ため息をついた。
理由はすぐに察した。
(……先日の“あの出来事”を思い出しているのかしら)
盗賊事件の際、
アイオンが自分を抱き寄せた瞬間の熱。
あれ以来、二人の空気はどこかぎこちない。
(私も……思い出すと胸が熱くなるのよね)
そんなことを考えていたら、
背後から軽やかな声が降ってきた。
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◆◆アリオン王太子、悪意なき爆弾投下
「やあ、弟夫婦。今日も仲睦まじいね?」
「だ、弟ふっ……!?
ア、アリオン兄上!! 不用意な発言は控えてくれ!!」
アイオンが真っ赤になり、必死に否定する。
エヴァントラも慌ててフォローした。
「私たちは白い結婚でして、夫婦関係では──」
「はいはい、建前は後で聞くよ、エヴァントラ嬢」
アリオンはにっこり微笑んだ。
「だって君たち、もう『本物の夫婦にしか見えない』んだから」
エヴァントラの頬が、ほんのり熱くなった。
(お、夫婦……? そんな……)
だがアリオンは続ける。
「ねぇ、アイオン。
君、エヴァントラ嬢を見てる時だけ呼吸が変わるよ?」
「兄上ーーーーーッ!!」
アイオンは頭を抱えた。
周囲がどっと笑いに包まれる。
エヴァントラは思わず顔を伏せる。
(……どうしましょう。
否定できないくらい、今日のアイオンは……その……)
胸が微妙にざわついた。
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◆◆ふたりきりの会話が甘い
アリオンが離れた後、
アイオンはひどく落ち着かない様子で口を開いた。
「す、すまない……兄上が余計なことを……」
「いえ、兄弟仲が良いのは素晴らしいことですわ」
「よくない……全然よくない……!」
エヴァントラは小さく笑った。
「アイオンが取り乱すのは珍しいですわね」
「そ、それは……君が……」
「私が?」
アイオンは言葉を飲み込み、視線をそらす。
代わりに、静かに言った。
「……君が綺麗すぎて、直視できない」
エヴァントラは固まった。
(き、綺麗……? この私が……?
アイオンがそんなことを言うなんて……)
胸の奥がじん、と熱を帯びる。
「……ありがとうございますわ。
そのように言われたのは、生まれて初めてです」
アイオンが驚いた顔をした。
そして、少し寂しそうに笑う。
「本当か?
……じゃあ光栄だ。
君にとって初めての言葉を贈れたのなら」
エヴァントラは、うまく言葉が返せなかった。
(どうして……こんなに心が温かいの?)
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◆◆そして、周囲はさらに盛り上がる
「なんて雰囲気の良い夫婦だ……」
「あとは式の日取りだけだな」
「宰相補佐が奥方をあんな目で見てるんだぞ? もう決まりよ!」
エヴァントラとアイオンは、同じタイミングで顔を赤くした。
「お、俺たちはまだ……!」
「そ、そうですわ! 白い結婚ですのに!」
二人の必死の否定にもかかわらず、
誰一人信じていなかった。
むしろ──
「(あれはもう、どう見ても恋人同士)」
「(いや、夫婦そのものだ)」
完全に“公認”扱いだった。
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◆◆宴の終わり、二人の沈黙
帰りの馬車。
エヴァントラは静かに窓の外を見つめ、
アイオンは落ち着かないように手を組んだり開いたりしている。
沈黙。
だが、不快ではなく、どこか甘い空気。
エヴァントラがふと口を開いた。
「……今日、
アイオンが私を綺麗だと言ってくれて……嬉しかったですわ」
アイオンは驚き、そして優しく微笑んだ。
「本心だよ。
君は……誰よりも綺麗だった」
エヴァントラは胸が跳ねるのを抑えられなかった。
(ああ……
この気持ち、もう否定できませんわね)
白い結婚のルールが、
二人の心に影を落とす日も近い。
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