『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第36話『自覚してしまった想いと、白い結婚の壁』

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第36話『自覚してしまった想いと、白い結婚の壁』

──エヴァントラ視点──

祝宴から一夜明けた朝。
エヴァントラは、鏡の前で身支度を整えながら、
昨夜のアイオンの言葉を思い返していた。

『君が綺麗すぎて、直視できない』

『誰よりも綺麗だった』

思い出すだけで胸が熱くなる。

(……まさか私が、そんな言葉で揺れる日が来るなんて)

心臓が鼓動するたび、
この数日でいかに自分が変わったのかが分かってしまう。

認めたくなくて逃げ続けていた気持ちが、
ようやく形を持って姿を現した。

(私……アイオンのことが……好き、なの?)

そう考えた瞬間、頬が一気に熱を帯びた。


---

◆◆いつも通りに接しようとするが、無理だった

執務室に行くと、いつも通り書類に向かうアイオンがいた。

「おはようございます、アイオン」

「おはよう、エヴァントラ」

彼は微笑む。
柔らかくて、優しい、最近増えた微笑み。

(ああ……もうだめですわ……
この顔を見て平然となんてできませんわ……)

エヴァントラは平静を装うが、
紅茶を注ぐ手が微妙に震えている。

アイオンもまた、それに気づいた。

「……手が震えてないか?」

「き、気のせいですわ! ただの冷えです!」

「この部屋、暖炉ついてるが?」

(気まずい……っ!)

逃げるように席についた。


---

◆◆距離が近いだけで鼓動が跳ねる

仕事の相談で、アイオンが椅子ごと近寄ってくる。

いつも通りのはずなのに――

近い。
近すぎる。

肩が触れそうな距離。
呼吸の温度すら感じる。

(ち、ちょっと……この近さは反則ですわ……!)

エヴァントラは急いでページをめくるが、
文字がまるで読めない。

「エヴァントラ、大丈夫か?
今日はどこか様子がおかしいが……」

「お、おかしくありませんわ!
まったく、完全に、おかしくないですわ!!」

「……強調するほど怪しい」

図星すぎて何も言えなかった。


---

◆◆白い結婚という縛りが胸を締めつける

少し距離をとってから、
エヴァントラはこっそり深呼吸をした。

(私……気づいてしまった以上、
どうやって“白い結婚”を続ければいいの?)

恋愛不要。
互いに干渉しない。
それが契約。

エヴァントラは、その条件があったからこそ気楽でいられた。

だが、今は違う。

(もし……もし私が本当にアイオンを好きになってしまったら……
契約違反になるのでは?)

怖い。
失いたくない。
でも気持ちは抑えられない。

その矛盾が胸に苦しくのしかかる。


---

◆◆アイオンの優しさが、逆に苦しい

昼休み。

アイオンが気遣うように声をかけた。

「エヴァントラ。
無理に書類を続けなくてもいい。少し休め」

「……ありがとうございますわ」

彼は続ける。

「昨日の祝宴……君が褒められているのを聞くと、
俺も誇らしかった」

「っ……!」

また胸が跳ねる。

(そんな優しいことを言わないで……!
もっと……もっと好きになってしまいますのに……!)

「エヴァントラ?」

「な、なんでもありませんわ!!」

顔が熱くて仕方がない。

アイオンは不思議そうに首をかしげる。


---

◆◆そして夜、ついに自覚が確信に変わる

仕事を終え、ひとり部屋に戻ると、
エヴァントラはベッドに倒れ込んだ。

(私は……アイオンが好き)

ようやく、はっきり認めてしまった。

胸が温かく、苦しく、切なく、幸せで……
複雑な感情が渦巻く。

(でも……どうすればいいの?
契約があるのに、想いを向けてもいいの?)

考えるほど、涙がにじんだ。

(あの人は……どうなのかしら)

思い浮かぶのは、
自分を見る時に少し揺れるアイオンの瞳。

(もし……あの揺れが、私だけのものだったら)

胸の奥が甘く震えた。


---

◆◆翌朝の予兆

夜明けの光を浴びながら、
エヴァントラは鏡の前で静かにつぶやいた。

「……もし、アイオンも同じ気持ちなら……
私は、この“白い結婚”を越える覚悟を持つべきなのかしら」

その瞳には、昨日までなかった揺らぎがあった。

そして運命は動き出す。


---

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