『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第40話 白い夫婦の終わりと、ふたりの始まり

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第40話 白い夫婦の終わりと、ふたりの始まり



 サルヴァトーレ侯爵家への正式な抗議文が王家に受理され、わずか数日後。
 王宮からは驚くほど迅速な返答が届いた。

「侯爵家の要求はすべて却下。
 さらに“王太子殿下への侮辱”と“公爵夫人への名誉毀損”として、侯爵家に処分が下されるそうだ」

 ルカが書簡を読み上げると、部屋に控えていた侍従たちから、安堵の息が漏れた。

 ――そして、エレナもまた。

(よかった。
 これで旦那様が責められる理由は何もないわ)

 胸につかえていたものが、すっと消えていく。


---

◆侯爵家との完全決着

 王家の決定に逆らえる貴族は存在しない。
 サルヴァトーレ侯爵家は公式に謝罪文を提出し、二度とルカの婚姻に干渉しないことを誓約させられた。

「これで本当に終わりですね、旦那様」

「ああ。エレナを傷つけるものは、もういない」

 ルカの穏やかな声に、エレナの頬が自然とゆるむ。

(……この安心感。
 私はいつから、こんなにも旦那様を信じていたのかしら)


---

◆“白い結婚”の契約書を燃やす日

 その夜。
 ルカは書斎から一通の紙を持ってきた。

「エレナ。これを……どうしたい?」

 差し出されたのは、ふたりが結婚した当日交わした契約書。

 ――互いに恋愛感情を持たず、干渉しない。
 ――子を作らない。
 ――形式上の婚姻のみを維持する。

 そんな条項が淡々と並ぶ契約書。

 エレナはしばらく見つめ、そっと微笑んだ。

「……もう、必要ありませんわね」

「君の口からそう聞けて嬉しいよ」

 ルカは暖炉の前に立ち、契約書を静かに火にくべた。
 ぱち、ぱち、と燃え上がる音が、部屋いっぱいに広がる。

 光に照らされるルカの横顔は、どこか神聖で。
 エレナは胸がきゅっと締め付けられた。

(ああ……私はもう)


---

◆ルカ、正式な言葉で伝える

 燃え尽きる契約書を見届けると、ルカはエレナの手をそっと取った。

「エレナ。
 これは契約ではなく、私の意思だ」

「旦那様?」

「私は君と生きていきたい。
 君の隣に立つ男でありたい。
 ……どうか、私の妻になってくれ」

 胸の奥で、ずっと抑えていた感情が溢れ出す。

 あふれる涙を抑えられず、エレナは一歩近づいた。

「……こちらこそ。私でよろしければ、どうか、ずっと」

 言い終わる前に、ルカがそっと抱きしめる。
 優しくて、温かくて、安心できる腕の中。

(ああ……これが、私たちの本当の結婚なのね)


---

◆数日後──新たな夫婦としての一歩

 正式に“契約婚”ではなく“真実の夫婦”となった二人の噂は、領内にすぐ広まった。

「公爵夫妻、ついに真のご夫婦に……!」
「公爵様の顔がずっと柔らかい!」
「公爵夫人が微笑むと世界が平和になるのでは?」

 そんな使用人たちのささやきに、エレナは頬を赤らめる。

「……みんな見すぎですわ」

「人気者だな、エレナ」

「旦那様が原因でしょう。最近、甘すぎますのよ」

「甘やかすのは当然だ。妻だからな」

 からかわれたエレナは、思わず彼の腕を軽く叩いた。

「も、もう……!」

 けれどルカは、そんな反応さえ嬉しそうに受け止める。


---

◆物語の結び

 エレナは窓辺に立ち、遠くの空を眺めた。

(婚約破棄から始まった私の物語は……
 こんな未来にたどり着いたのね)

 もしあのとき、理不尽な婚約破棄を受けなければ。
 もしあのとき、ルカと出会わなければ。

 今の“幸せ”は、なかった。

 エレナはそっとルカの手を握った。

「これからも……よろしくお願いします、旦那様」

「ああ。愛している、エレナ」

 ふたりの指が、固く結ばれる。

 ――婚約破棄から始まった令嬢の物語は、
 ここにひとつの幸福な結末を迎えた。

 そして、ふたりの未来は、まだ続いていく。
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