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第十九話 揺れる正統性
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第十九話 揺れる正統性
王城の会議室に集められた空気は、重かった。
議題は表向き「制度の整理」。だが、誰もが理解している。
これは――エヴァリーナ・フォン・クロイツの立場を、どう“位置づけるか”という会合だ。
「外部の人間に、最終判断を委ね続ける前例はありません」
伯爵の一人が、慎重な口調で切り出す。
「成果が出ていることは認めます。
しかし、それと正統性は別問題です」
「正統性、ですか」
ヴァルターは、ゆっくりとその言葉を反芻した。
「ならば、問います。
正統性とは、何によって担保されるものですか」
会議室に、ざわめきが走る。
「それは……王家の権限と、制度です」
「制度は、人のためにある」
ヴァルターは、淡々と続けた。
「人が動かず、国が停滞する制度に、どれほどの正統性がある?」
反論しかけた声が、途中で止まる。
誰も、“結果”を否定できない。
「問題は、感情ではない」
別の貴族が、低く言った。
「民と貴族が、“誰が決めているのか”を理解できなくなることだ」
それは、最も現実的な懸念だった。
同じ頃、クロイツ公爵家では、エヴァリーナが同様の報告を受けていた。
「正統性、ですか」
彼女は、資料から目を離さずに呟く。
「来ましたわね」
マティアスが、頷く。
「成果を否定できない場合、次に来るのは必ずそこです」
「分かっております」
エヴァリーナは、ペンを置いた。
「ですから、こちらから提示します」
「……提示?」
「ええ。
“正統性の形”を」
その夜、エヴァリーナは一通の文書をまとめ上げた。
内容は、驚くほど簡潔だ。
・判断権は、案件単位で限定する
・期限を明確にし、延長には再承認を必要とする
・成果と失敗の責任を、名義人が負う
・第三者による検証を受け入れる
「……逃げ道を、すべて塞いでいますね」
マティアスが、正直な感想を漏らす。
「正統性とは、“縛り”ですもの」
エヴァリーナは、静かに答えた。
「自由のためには、制約が必要です」
翌日、その文書は王城に提出された。
ヴァルターは、目を通し、しばらく沈黙した。
「……厳しいな」
「はい」
側近も、率直に頷く。
「ですが、これ以上明確な正統性はありません」
貴族院に回された文書は、即座に議論を呼んだ。
「ここまで責任を明記するとは……」
「失敗した場合、彼女がすべてを背負う?」
「だが、成功した場合も、彼女の功績になる」
それは、等価だった。
功も罪も、同じ重さで引き受ける。
ヴァルターは、その反応を聞きながら、胸の奥で理解していた。
――これは、挑発ではない。
彼女なりの、誠実な回答だ。
「……この条件を、拒否できる理由はあるか」
沈黙が落ちる。
正統性を問う者ほど、
この文書の“正しさ”を否定できない。
一方、エヴァリーナは静かに待っていた。
焦りはない。駆け引きもしない。
「……選ぶのは、向こうですわ」
受け入れるか。
それとも、拒むか。
どちらであっても、彼女の立場は明確だ。
王城では、最終的に結論が出された。
「――条件付きで、受諾する」
ヴァルターの声は、静かだった。
「案件ごとに、彼女の判断を正式に認める。
文書に基づき、責任の所在を明確にする」
貴族院は、完全な納得ではなかった。
だが、反対する理由も失っていた。
その報が、クロイツ公爵家に届く。
「……受け入れ、ですか」
エヴァリーナは、小さく息を吐いた。
「正統性は、与えられました。
同時に――」
「逃げ場も、なくなった」
マティアスが、静かに続ける。
「ええ」
彼女は、微笑んだ。
「望むところですわ」
その夜、エヴァリーナは机に向かい、新たな案件の資料を広げていた。
正統性は、称号ではない。
行動と結果で、更新され続けるものだ。
「……揺れるのは、立場ではありません」
独り言のように呟く。
「揺れるのは、人の覚悟です」
王城の灯りが、遠く瞬いている。
そこに戻るつもりはない。
だが、切り離すつもりもない。
正統性を巡る波は、ひとまず形を得た。
だがそれは、終わりではない。
――次に問われるのは、
結果に耐え続けられるかどうか。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
その問いを、真正面から受け止める覚悟ができていた。
王城の会議室に集められた空気は、重かった。
議題は表向き「制度の整理」。だが、誰もが理解している。
これは――エヴァリーナ・フォン・クロイツの立場を、どう“位置づけるか”という会合だ。
「外部の人間に、最終判断を委ね続ける前例はありません」
伯爵の一人が、慎重な口調で切り出す。
「成果が出ていることは認めます。
しかし、それと正統性は別問題です」
「正統性、ですか」
ヴァルターは、ゆっくりとその言葉を反芻した。
「ならば、問います。
正統性とは、何によって担保されるものですか」
会議室に、ざわめきが走る。
「それは……王家の権限と、制度です」
「制度は、人のためにある」
ヴァルターは、淡々と続けた。
「人が動かず、国が停滞する制度に、どれほどの正統性がある?」
反論しかけた声が、途中で止まる。
誰も、“結果”を否定できない。
「問題は、感情ではない」
別の貴族が、低く言った。
「民と貴族が、“誰が決めているのか”を理解できなくなることだ」
それは、最も現実的な懸念だった。
同じ頃、クロイツ公爵家では、エヴァリーナが同様の報告を受けていた。
「正統性、ですか」
彼女は、資料から目を離さずに呟く。
「来ましたわね」
マティアスが、頷く。
「成果を否定できない場合、次に来るのは必ずそこです」
「分かっております」
エヴァリーナは、ペンを置いた。
「ですから、こちらから提示します」
「……提示?」
「ええ。
“正統性の形”を」
その夜、エヴァリーナは一通の文書をまとめ上げた。
内容は、驚くほど簡潔だ。
・判断権は、案件単位で限定する
・期限を明確にし、延長には再承認を必要とする
・成果と失敗の責任を、名義人が負う
・第三者による検証を受け入れる
「……逃げ道を、すべて塞いでいますね」
マティアスが、正直な感想を漏らす。
「正統性とは、“縛り”ですもの」
エヴァリーナは、静かに答えた。
「自由のためには、制約が必要です」
翌日、その文書は王城に提出された。
ヴァルターは、目を通し、しばらく沈黙した。
「……厳しいな」
「はい」
側近も、率直に頷く。
「ですが、これ以上明確な正統性はありません」
貴族院に回された文書は、即座に議論を呼んだ。
「ここまで責任を明記するとは……」
「失敗した場合、彼女がすべてを背負う?」
「だが、成功した場合も、彼女の功績になる」
それは、等価だった。
功も罪も、同じ重さで引き受ける。
ヴァルターは、その反応を聞きながら、胸の奥で理解していた。
――これは、挑発ではない。
彼女なりの、誠実な回答だ。
「……この条件を、拒否できる理由はあるか」
沈黙が落ちる。
正統性を問う者ほど、
この文書の“正しさ”を否定できない。
一方、エヴァリーナは静かに待っていた。
焦りはない。駆け引きもしない。
「……選ぶのは、向こうですわ」
受け入れるか。
それとも、拒むか。
どちらであっても、彼女の立場は明確だ。
王城では、最終的に結論が出された。
「――条件付きで、受諾する」
ヴァルターの声は、静かだった。
「案件ごとに、彼女の判断を正式に認める。
文書に基づき、責任の所在を明確にする」
貴族院は、完全な納得ではなかった。
だが、反対する理由も失っていた。
その報が、クロイツ公爵家に届く。
「……受け入れ、ですか」
エヴァリーナは、小さく息を吐いた。
「正統性は、与えられました。
同時に――」
「逃げ場も、なくなった」
マティアスが、静かに続ける。
「ええ」
彼女は、微笑んだ。
「望むところですわ」
その夜、エヴァリーナは机に向かい、新たな案件の資料を広げていた。
正統性は、称号ではない。
行動と結果で、更新され続けるものだ。
「……揺れるのは、立場ではありません」
独り言のように呟く。
「揺れるのは、人の覚悟です」
王城の灯りが、遠く瞬いている。
そこに戻るつもりはない。
だが、切り離すつもりもない。
正統性を巡る波は、ひとまず形を得た。
だがそれは、終わりではない。
――次に問われるのは、
結果に耐え続けられるかどうか。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
その問いを、真正面から受け止める覚悟ができていた。
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