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第二十一話 数字は嘘をつかない
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第二十一話 数字は嘘をつかない
朝の王都は、珍しく騒がしかった。
通りを行き交う商人たちの声が、いつもより張りがある。荷車の数も増え、港へ向かう馬車の列が途切れない。
「……数字が、動いていますわね」
クロイツ公爵家の書斎で、エヴァリーナは集計表に目を落としていた。
水路整備の進捗率、通商税軽減後の流通量、税収の推移。
すべてが、予測した範囲内で動いている。
「初動としては、理想的です」
マティアスが、資料を指し示す。
「反発もありましたが、現場は動いた。
それだけで、十分な成果です」
「“十分”では、まだ足りませんわ」
エヴァリーナは、ペンを止めなかった。
「期限付きの成果は、期限が切れた瞬間に疑われます。
重要なのは――」
「持続性、ですね」
「ええ」
彼女は、次の紙をめくる。
「数字が、継続して示せるかどうか」
同じ頃、王城の会議室では、別の空気が流れていた。
「……税収が、落ちていない?」
「むしろ、回復しています」
官吏が、信じられないという顔で報告書を読む。
「軽減したはずなのに……」
「流通量が増えています。
結果として、総額は――」
言葉が、途切れた。
「増加、です」
静まり返る会議室。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「……数字は、正直だな」
ヴァルターは、その言葉を聞きながら、静かに頷いていた。
「嘘をつかない。
だからこそ、怖い」
数字は、言い訳を許さない。
感情も、立場も、すべてを切り落とす。
午後、王城には複数の陳情が届いた。
内容は、以前とは逆だ。
「同様の措置を、我が領にも」
「期限付きでも構わない」
「検証を受け入れる」
エヴァリーナの名義が、文書の中で繰り返し使われている。
「……広がるのが、早いですわね」
報告を受け、エヴァリーナは小さく息を吐いた。
「成功例は、最も強い説得材料です」
マティアスは、冷静に分析する。
「ですが、同時に――」
「失敗した時の反動も、大きい」
彼女は、先に言った。
「だから、次は絞ります」
「絞る?」
「ええ。
全てを引き受ければ、必ず歪みが出ます」
エヴァリーナは、決裁予定表に線を引く。
「案件は、三つまで。
それ以上は、王城に戻します」
「反発が出ますよ」
「出るでしょうね」
だが、彼女は動じない。
「責任の名前は、便利な看板ではありません。
耐えられる重さに、限定すべきですわ」
その判断は、王城にも伝えられた。
「……断った?」
ヴァルターは、報告書を読み上げる。
「はい。
“現行三案件以上は受けない”と明記されています」
貴族院から、不満の声が上がる。
「人気取りではないか」
「都合が良すぎる」
だが、数字が口を封じる。
「現行案件は、すべて改善している」
「期限と検証も、守られている」
ヴァルターは、静かに結論づけた。
「……ならば、それが正しい」
夜、エヴァリーナは一日の集計を終え、ペンを置いた。
灯りの下で、数字が静かに並んでいる。
「……数字は、嘘をつきませんわ」
それは、自分自身への言葉でもあった。
評価されるか、切り捨てられるか。
それを決めるのは、感情ではない。
数字だ。
だからこそ、逃げない。
だからこそ、誤魔化さない。
マティアスが、静かに言った。
「あなたは、嫌われる決断もしますね」
「好かれるために、座っている席ではありませんから」
即答だった。
「数字に耐えられないなら、
最初から名を出すべきではありません」
窓の外では、王都の灯りが増えていた。
流れが戻り、人が動き、金が回る。
それは、偶然ではない。
数字が示した結果だ。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
その数字の前に、今日も立っていた。
――評価も、非難も、
すべて同じ秤に載せるために。
朝の王都は、珍しく騒がしかった。
通りを行き交う商人たちの声が、いつもより張りがある。荷車の数も増え、港へ向かう馬車の列が途切れない。
「……数字が、動いていますわね」
クロイツ公爵家の書斎で、エヴァリーナは集計表に目を落としていた。
水路整備の進捗率、通商税軽減後の流通量、税収の推移。
すべてが、予測した範囲内で動いている。
「初動としては、理想的です」
マティアスが、資料を指し示す。
「反発もありましたが、現場は動いた。
それだけで、十分な成果です」
「“十分”では、まだ足りませんわ」
エヴァリーナは、ペンを止めなかった。
「期限付きの成果は、期限が切れた瞬間に疑われます。
重要なのは――」
「持続性、ですね」
「ええ」
彼女は、次の紙をめくる。
「数字が、継続して示せるかどうか」
同じ頃、王城の会議室では、別の空気が流れていた。
「……税収が、落ちていない?」
「むしろ、回復しています」
官吏が、信じられないという顔で報告書を読む。
「軽減したはずなのに……」
「流通量が増えています。
結果として、総額は――」
言葉が、途切れた。
「増加、です」
静まり返る会議室。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「……数字は、正直だな」
ヴァルターは、その言葉を聞きながら、静かに頷いていた。
「嘘をつかない。
だからこそ、怖い」
数字は、言い訳を許さない。
感情も、立場も、すべてを切り落とす。
午後、王城には複数の陳情が届いた。
内容は、以前とは逆だ。
「同様の措置を、我が領にも」
「期限付きでも構わない」
「検証を受け入れる」
エヴァリーナの名義が、文書の中で繰り返し使われている。
「……広がるのが、早いですわね」
報告を受け、エヴァリーナは小さく息を吐いた。
「成功例は、最も強い説得材料です」
マティアスは、冷静に分析する。
「ですが、同時に――」
「失敗した時の反動も、大きい」
彼女は、先に言った。
「だから、次は絞ります」
「絞る?」
「ええ。
全てを引き受ければ、必ず歪みが出ます」
エヴァリーナは、決裁予定表に線を引く。
「案件は、三つまで。
それ以上は、王城に戻します」
「反発が出ますよ」
「出るでしょうね」
だが、彼女は動じない。
「責任の名前は、便利な看板ではありません。
耐えられる重さに、限定すべきですわ」
その判断は、王城にも伝えられた。
「……断った?」
ヴァルターは、報告書を読み上げる。
「はい。
“現行三案件以上は受けない”と明記されています」
貴族院から、不満の声が上がる。
「人気取りではないか」
「都合が良すぎる」
だが、数字が口を封じる。
「現行案件は、すべて改善している」
「期限と検証も、守られている」
ヴァルターは、静かに結論づけた。
「……ならば、それが正しい」
夜、エヴァリーナは一日の集計を終え、ペンを置いた。
灯りの下で、数字が静かに並んでいる。
「……数字は、嘘をつきませんわ」
それは、自分自身への言葉でもあった。
評価されるか、切り捨てられるか。
それを決めるのは、感情ではない。
数字だ。
だからこそ、逃げない。
だからこそ、誤魔化さない。
マティアスが、静かに言った。
「あなたは、嫌われる決断もしますね」
「好かれるために、座っている席ではありませんから」
即答だった。
「数字に耐えられないなら、
最初から名を出すべきではありません」
窓の外では、王都の灯りが増えていた。
流れが戻り、人が動き、金が回る。
それは、偶然ではない。
数字が示した結果だ。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
その数字の前に、今日も立っていた。
――評価も、非難も、
すべて同じ秤に載せるために。
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