永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第7話 王太子、動く――そして失策

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第7話 王太子、動く――そして失策


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 貴族院での審議から二日。

 王都の空気は、明らかに変わっていた。

「……聞いたか? イソファガスの令嬢の話」 「ああ。あの年で、初代王の勅命を即座に出したとか」 「偶然知っていたにしては、出来すぎている……」

 噂は、前回とは逆方向へと転がり始めていた。

 ――ただの生意気な地方令嬢ではない。
 ――底が知れない。
 ――下手に触ると危険だ。

 だが、その変化を最も受け入れられなかった者がいる。

     ◆ ◆ ◆

「……ふざけるなッ!!」

 王城・王太子の私室。

 机に叩きつけられた拳が、鈍い音を立てた。

「あの女は、ただの十七歳だ! たまたま古文書を調べさせただけだろう!」

 王太子は、荒い呼吸のまま叫ぶ。

「なぜ皆、あんな女に怯える!? 父上まで態度を改めるとは……!」

 側近たちは、誰もすぐに口を開かなかった。

 ――貴族院での一件は、明らかに“想定外”だった。
 イソファガス家の特例を否定するどころか、正当性を再確認させてしまったのだ。

「……殿下」

 慎重に言葉を選びながら、一人が進み出る。

「ここは一度、距離を置かれては。
 イソファガス家は、表立って敵に回すには……」

「黙れ!」

 王太子は振り向き、鋭く睨みつけた。

「今、引けば負けだ!
 あの女は、“勝った”と思い込む!」

 その言葉に、側近たちは内心で息を呑んだ。

 ――思い込んでいるのは、どちらなのか。

「次は、正面から叩く」

 王太子は、冷たい笑みを浮かべた。

「貴族院では証拠を出された。
 ならば次は、“民意”だ」

     ◆ ◆ ◆

 数日後。

 王都の下町で、不穏な噂が流れ始めた。

「イソファガスの令嬢って、魔女らしいぞ」 「年を取らないって話だ」 「聖女様と違って、不気味だよな……」

 発端は些細なものだった。
 だが、誰かが意図的に火をくべているのは明らかだった。

 その噂は、やがて――

「……民の間で、“異端”という言葉が使われ始めています」

 イソファガス邸のサロンで、ガイウスが報告する。

「王太子派の神殿関係者が、裏で動いている模様です」

「なるほど」

 キクコは、静かに紅茶を置いた。

「聖女を盾に、宗教的な不安を煽る……一番、古典的で厄介な手ね」

「放置すれば、暴動の芽になりかねません」

「ええ。でも――」

 キクコは、少しだけ目を細めた。

「これは、王太子の“悪手”よ」

     ◆ ◆ ◆

 その日の夕方。

 キクコは、護衛も連れずに王都の大通りを歩いていた。

 淡い色の外套を羽織り、いつも通りの穏やかな佇まい。

「……キクコ様!? なぜ、このような場所へ……!」

 慌てて追いついた騎士が声を上げる。

「心配しないで。散歩よ」

「ですが、今は噂が……!」

「だから、よ」

 キクコは微笑み、歩みを止めなかった。

 人々は、最初は遠巻きに彼女を見ていた。
 好奇の視線、不安、警戒。

 だが――。

「……あ、あの人……」 「前に、病気の子に薬を……」 「井戸の件、覚えてる?」

 ぽつり、ぽつりと、声が上がる。

 キクコは、立ち止まり、視線を合わせる。

「こんにちは。今日はいい天気ね」

 ただ、それだけ。

 誰かが、恐る恐る頭を下げた。

「……ありがとうございます、キクコ様」

「何が?」

「去年の冬……」

 その一言で、空気が変わった。

 彼女は、救ってきた。
 名もなく、記録にも残らず、だが確かに。

     ◆ ◆ ◆

 その夜。

 王城では、別の報告が王太子のもとに届いていた。

「……民が、キクコ・イソファガスを支持している?」

「はい。噂は……逆効果だったようで」

「なぜだ!」

「彼女が、自ら街に出て……」

 王太子は、言葉を失った。

 ――恐怖で支配するつもりが、信頼を可視化させた。

「……っ!」

 その瞬間。

 王太子は、はっきりと悟った。

 自分は、相手を完全に見誤っている、と。

     ◆ ◆ ◆

 一方、イソファガス邸。

「王太子殿下は、もう一手打ってきます」

 ガイウスが静かに告げる。

「でしょうね」

 キクコは、扇子を閉じた。

「でも、次は……」

 目を細め、微笑む。

「“王家そのもの”を巻き込むことになる」

 永遠の十七歳。
 だが、その歩みは、確実に王国の中心へと近づいていた。

 ――王太子が、自ら踏み越えた一線に、まだ気づかぬまま。
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