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第二十一話 王太子の逆上
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第二十一話 王太子の逆上
公開会議の翌日。
王宮の回廊は、異様な静けさに包まれていた。
誰もが目を合わせない。
足音だけが響く。
アルヴァリオは勢いよく扉を開け、自室へと入った。
「ふざけるな……!」
机を叩く。
書類が床に散らばる。
公開の場で追及された屈辱。
重臣たちの冷たい視線。
父王の失望。
胸の奥で何かが軋む。
セシルが駆け込む。
「殿下、落ち着いてくださいませ」
「落ち着けるか!」
怒声が響く。
「俺は王太子だぞ!」
拳が震える。
「公爵家が裏で操っているに決まっている!」
セシルの瞳が揺れる。
「お姉様が……?」
「そうだ。あいつが何もしていないはずがない!」
だが、それは事実から目を逸らす言葉だった。
監査は王命。
証言は王宮内部。
書類も王家側の保管。
公爵家は何もしていない。
それが逆に、彼を苛立たせる。
「殿下」
側近が恐る恐る口を開く。
「公爵家への非難は、今は控えた方が」
「黙れ!」
側近は口を閉ざす。
怒りは、論理を押し流す。
「父上は俺を疑った」
アルヴァリオは低く呟く。
「弟も、あの冷たい顔で……」
比較。
それが最も耐え難い。
第二王子レオニードは何も言わない。
ただ冷静に条文を語り、監査に協力している。
その姿が、なおさら際立つ。
「俺は間違っていない」
誰にともなく言う。
「愛を選んだだけだ」
だが、国は愛で動かない。
セシルがそっと近づく。
「殿下は正しいですわ」
その言葉が、火に油を注ぐ。
「そうだ。俺は悪くない」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
「悪いのは――」
一瞬、言葉が止まる。
誰だ。
公爵家か。
監査官か。
父か。
答えは出ない。
その夜、重臣たちは密かに集まっていた。
「殿下は逆上なさっている」
「冷静さを欠いている」
「監査中に感情的発言は危険だ」
囁きは広がる。
怒りは弱さの証だ。
公爵邸。
報告が届く。
「王太子殿下、監査官に強い口調で抗議」
私は静かに聞く。
「内容は」
「公爵家の陰謀だと」
わずかに目を細める。
「事実は」
「変わりません」
「でしょうね」
私は窓の外を見つめる。
怒りは理解できる。
だが、王は怒りを制御する者だ。
制御できぬなら――
その資格はない。
王宮。
翌日の会議。
アルヴァリオは席に着くが、空気は冷たい。
監査官が淡々と報告を続ける。
「追加調査の結果、資金移動は計五回」
「証拠は揃っております」
アルヴァリオは立ち上がる。
「俺は悪くない!」
場が凍る。
「責任は俺にあると言ったが、それは形式だ!」
重臣たちが顔を見合わせる。
「公爵家が裏で仕掛けたのだ!」
その言葉が落ちた瞬間。
国王がゆっくりと立ち上がる。
「……証拠はあるのか」
沈黙。
ない。
あるのは、苛立ちだけ。
国王の目は、もはや父のものではなかった。
王の目だ。
「感情は不要だ」
低い声。
「事実のみが必要だ」
アルヴァリオは何も言えない。
逆上は、最後の砦だった。
だがそれも、崩れた。
王都では、さらに噂が広がる。
「殿下が激昂した」
「公爵家を非難」
「証拠なし」
信用は、また削られる。
公爵邸の庭。
私は静かに呟く。
「怒りは理解いたします」
けれど。
「王は、怒らないものです」
夜風が薔薇を揺らす。
王太子は叫んだ。
“俺は悪くない”
その叫びは、彼の立場をさらに追い詰める。
逆上。
それは最後の選択だった。
そしてその選択は――
決定的に、王太子としての資質を疑わせるものとなった。
公開会議の翌日。
王宮の回廊は、異様な静けさに包まれていた。
誰もが目を合わせない。
足音だけが響く。
アルヴァリオは勢いよく扉を開け、自室へと入った。
「ふざけるな……!」
机を叩く。
書類が床に散らばる。
公開の場で追及された屈辱。
重臣たちの冷たい視線。
父王の失望。
胸の奥で何かが軋む。
セシルが駆け込む。
「殿下、落ち着いてくださいませ」
「落ち着けるか!」
怒声が響く。
「俺は王太子だぞ!」
拳が震える。
「公爵家が裏で操っているに決まっている!」
セシルの瞳が揺れる。
「お姉様が……?」
「そうだ。あいつが何もしていないはずがない!」
だが、それは事実から目を逸らす言葉だった。
監査は王命。
証言は王宮内部。
書類も王家側の保管。
公爵家は何もしていない。
それが逆に、彼を苛立たせる。
「殿下」
側近が恐る恐る口を開く。
「公爵家への非難は、今は控えた方が」
「黙れ!」
側近は口を閉ざす。
怒りは、論理を押し流す。
「父上は俺を疑った」
アルヴァリオは低く呟く。
「弟も、あの冷たい顔で……」
比較。
それが最も耐え難い。
第二王子レオニードは何も言わない。
ただ冷静に条文を語り、監査に協力している。
その姿が、なおさら際立つ。
「俺は間違っていない」
誰にともなく言う。
「愛を選んだだけだ」
だが、国は愛で動かない。
セシルがそっと近づく。
「殿下は正しいですわ」
その言葉が、火に油を注ぐ。
「そうだ。俺は悪くない」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
「悪いのは――」
一瞬、言葉が止まる。
誰だ。
公爵家か。
監査官か。
父か。
答えは出ない。
その夜、重臣たちは密かに集まっていた。
「殿下は逆上なさっている」
「冷静さを欠いている」
「監査中に感情的発言は危険だ」
囁きは広がる。
怒りは弱さの証だ。
公爵邸。
報告が届く。
「王太子殿下、監査官に強い口調で抗議」
私は静かに聞く。
「内容は」
「公爵家の陰謀だと」
わずかに目を細める。
「事実は」
「変わりません」
「でしょうね」
私は窓の外を見つめる。
怒りは理解できる。
だが、王は怒りを制御する者だ。
制御できぬなら――
その資格はない。
王宮。
翌日の会議。
アルヴァリオは席に着くが、空気は冷たい。
監査官が淡々と報告を続ける。
「追加調査の結果、資金移動は計五回」
「証拠は揃っております」
アルヴァリオは立ち上がる。
「俺は悪くない!」
場が凍る。
「責任は俺にあると言ったが、それは形式だ!」
重臣たちが顔を見合わせる。
「公爵家が裏で仕掛けたのだ!」
その言葉が落ちた瞬間。
国王がゆっくりと立ち上がる。
「……証拠はあるのか」
沈黙。
ない。
あるのは、苛立ちだけ。
国王の目は、もはや父のものではなかった。
王の目だ。
「感情は不要だ」
低い声。
「事実のみが必要だ」
アルヴァリオは何も言えない。
逆上は、最後の砦だった。
だがそれも、崩れた。
王都では、さらに噂が広がる。
「殿下が激昂した」
「公爵家を非難」
「証拠なし」
信用は、また削られる。
公爵邸の庭。
私は静かに呟く。
「怒りは理解いたします」
けれど。
「王は、怒らないものです」
夜風が薔薇を揺らす。
王太子は叫んだ。
“俺は悪くない”
その叫びは、彼の立場をさらに追い詰める。
逆上。
それは最後の選択だった。
そしてその選択は――
決定的に、王太子としての資質を疑わせるものとなった。
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