『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾

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第28話 正式な席

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第28話 正式な席

 王都・中央会議殿。

 年に数度しか開かれない、
 諸侯合同の公式会合。

 この場に招かれるということ自体が、
 王国からの明確な評価を意味していた。

「……アンクレイブ公爵家、
 到着です」

 扉の外から、
 儀礼的な声が響く。

 ざわり、と
 会場の空気が動いた。


---

 先に姿を現したのは、
 ゼファー・アンクレイブ。

 いつも通り、
 無駄のない足取り。

 そして――
 その半歩後ろ。

 淡い色合いの礼装に身を包んだ
 エミーラが、静かに入場する。

「……」

 一瞬の沈黙。

 だが、
 それは戸惑いではなかった。

 確認だった。

(……ああ、そうか)

 誰もが、
 同じ結論に辿り着く。


---

「こちらへ」

 案内役の官吏は、
 迷いなく二人を導く。

 止まった席は、
 公爵家の正式席。

 しかも――
 公爵の隣。

 空いている席など、
 最初から存在しなかったかのように。

 エミーラは、
 一瞬だけ視線を落とし、
 静かに腰を下ろす。

 誰も、
 説明を求めない。

 誰も、
 名前を確認しない。

 それが、
 答えだった。


---

「……随分と、
 自然ですね」

 隣席の伯爵夫人が、
 小声で囁く。

「ええ」

 別の貴族が頷く。

「むしろ、
 今までそうでなかった方が
 不自然だった」

 ひそひそとした声。

 だが、
 否定的な響きは、
 一切ない。


---

 会合が始まる。

 議題は、
 国境付近の物流調整。

「……現状では、
 地方ごとの判断に差が出ています」

 説明役が話す中、
 エミーラは黙って耳を傾ける。

 やがて――
 ゼファーが、短く言った。

「意見はあるか」

 それは、
 命令ではない。

 確認だった。

 エミーラは、
 一拍置き、口を開く。

「一つだけ」

 会場が、
 静まる。

「“統一”ではなく、
 “共有”に留めるべきです」

 誰かが、
 小さく息を呑む。

「地方の特性を殺せば、
 かえって滞ります」

 淡々とした声。

 感情は、
 一切乗っていない。

「成功例を提示し、
 選ばせる形が、
 最も早いかと」

 短い沈黙。

 次の瞬間――

「……理にかなっている」

 老侯爵が、
 静かに頷いた。

「異論は?」

 誰も、
 口を開かない。


---

 会合は、
 滞りなく進んだ。

 エミーラが発言するたび、
 誰も遮らない。

 誰も軽んじない。

 それは、
 “特別扱い”ではない。

 **“当然扱い”**だった。


---

 休憩時間。

 エミーラは、
 窓辺で一息ついていた。

「……お疲れでは?」

 声をかけてきたのは、
 王妃付きの女官。

「いいえ」

 エミーラは、
 穏やかに答える。

「普段と、
 変わりませんから」

 女官は、
 微笑んだ。

「でしたら……
 もう、お分かりですね」

「?」

「貴女の席は、
 最初からここにありました」

 エミーラは、
 一瞬だけ目を伏せ――
 静かに頷く。

「……はい」


---

 会合の終わり。

 退出する二人の背中を、
 多くの視線が追っていた。

 羨望でも、
 敵意でもない。

 ただの、
 納得。


---

 その夜。

 宿舎の部屋で、
 エミーラは衣装を脱ぎながら言った。

「……緊張、
 しませんでした」

「そうだろうな」

 ゼファーは、
 短く答える。

「君は、
 自分の席に座っていただけだ」

 エミーラは、
 小さく笑った。

「……不思議ですわ」

「何がだ」

「かつては、
 必死に立とうとしていた席に」

 一拍、置く。

「今は、
 無理なく座れています」

 ゼファーは、
 その言葉を聞き、
 確信する。

(……もう、
 この女を“仮”とは
 誰も呼べない)


---

 正式な席とは、
 与えられるものではない。
 ――立ち続けた者の足元に、
 いつの間にか用意されているものだ。


---
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