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第一話 卒業舞踏会の宣告
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第一話 卒業舞踏会の宣告
王立学園の卒業舞踏会は、毎年この国で最も華やかな夜の一つとされている。
広大な大広間には無数のシャンデリアが灯り、磨き上げられた床には光がきらめいていた。貴族の子弟たちはそれぞれ華やかな礼装に身を包み、音楽に合わせて優雅に踊っている。
その中心に立つ少女こそ、アルヴェイン公爵家の令嬢――フロレンティア・アルヴェインであった。
長い銀色の髪を緩やかに結い上げ、淡い青のドレスをまとった姿は、まるで氷の精霊のようだと社交界で評されることも多い。もっとも、本人はそんな噂など気にもしていなかった。
今夜は卒業舞踏会。
そして、フロレンティアにとってはもう一つ意味のある夜でもある。
婚約者である王太子カルディオンと、正式に公の場で並ぶ最後の舞踏会になる予定だったからだ。
音楽が一区切りつき、ざわめきが広がる。
貴族たちの視線が、ある一点へと集まり始めた。
玉座の間に続く階段の上。
そこに現れたのは、この国の王太子――カルディオンだった。
背の高い青年で、金色の髪を後ろに流し、王族の礼装を身につけている。堂々とした姿は確かに王太子らしく、周囲の視線を自然と集める。
だがフロレンティアは、彼の隣に立つ人物を見た瞬間、ほんのわずかに眉を動かした。
「……」
そこにいたのは、一人の女性。
長い栗色の髪を揺らし、白いドレスを着た女性が、カルディオンの腕に寄り添うように立っている。
ヴィオレッタ。
オデット伯爵家の令嬢であり――
フロレンティアの義理の妹だった。
会場がざわめく。
なぜ王太子の隣に、彼女がいるのか。
誰もが疑問に思っている。
だがカルディオンはその視線をまったく気にする様子もなく、堂々と階段を降りてきた。
そして大広間の中央に立つと、声高らかに言い放った。
「諸君!」
その声はよく通り、音楽も人の声もすべて止まった。
「今宵、ここにいるすべての者の前で、宣言する!」
一瞬の沈黙。
そして――
「私は、フロレンティア・アルヴェインとの婚約を破棄する!」
ざわめきが爆発した。
「なっ……!」
「婚約破棄だと?」
「まさか……」
貴族たちが一斉に騒ぎ出す。
フロレンティアはその中心に立ちながら、静かに王太子を見つめていた。
驚いていない。
慌てもしていない。
ただ静かに、その言葉を受け止めている。
カルディオンは満足そうに周囲を見回し、さらに続けた。
「理由は明白だ!」
彼は隣の女性――ヴィオレッタの肩を抱いた。
「彼女こそが真実の被害者だからだ!」
ヴィオレッタは小さく肩を震わせ、涙を浮かべる。
「……殿下」
「もう、よろしいのです」
弱々しい声。
だが、その様子を見た貴族たちは一気に同情の色を見せた。
「どういうことだ?」
「アルヴェイン令嬢が何かしたのか?」
カルディオンは怒りを込めた声で言った。
「フロレンティアは長年、彼女を虐げてきた!」
「義理の妹であるヴィオレッタを、嫉妬と権力で押さえつけてきたのだ!」
ざわめきがさらに広がる。
ヴィオレッタは涙を流しながら首を振る。
「違います……」
「お姉様を責めないでください……」
「私が至らないだけなのです……」
その姿は、まさに可哀想な被害者そのものだった。
だが。
フロレンティアはゆっくり口を開いた。
「……殿下」
その声は静かだった。
「お待ちください」
カルディオンは眉をひそめた。
「何だ」
フロレンティアはヴィオレッタを見つめた。
そして言った。
「その方は――」
その瞬間だった。
カルディオンが怒鳴った。
「黙れ!」
大広間が静まり返る。
「加害者の弁明など聞く耳は持たぬ!」
カルディオンは冷たい目でフロレンティアを見下ろした。
「自分の罪を正当化するつもりか?」
「卑劣極まりない」
フロレンティアは一瞬だけ目を伏せた。
だがすぐに顔を上げる。
「殿下」
「その方は――」
「うるさい!」
カルディオンは手を振り払った。
「目障りだ!」
「これ以上ここにいるな!」
周囲の貴族たちもざわめき始める。
「王太子があそこまで言うなら……」
「本当に何かしたのか?」
視線がフロレンティアに突き刺さる。
だが彼女は騒ぎ立てることもなく、ただ静かに一礼した。
「……承知いたしました」
そしてゆっくり背を向ける。
ヴィオレッタが涙声で言った。
「お姉様……」
その言葉を、フロレンティアは振り返らずに聞き流した。
大広間の扉が開く。
フロレンティアはそのまま会場を去った。
背後ではまだ貴族たちのざわめきが続いている。
やがて扉が閉まり、すべての音が遠ざかった。
廊下は静かだった。
フロレンティアはゆっくり歩きながら、小さく息をついた。
そして屋敷へ戻る馬車に乗る。
夜の王都を進み、公爵邸へ。
やがて屋敷の前に馬車が止まった。
扉が開く。
そこに立っていたのは、長年アルヴェイン家に仕える老執事だった。
彼は深く頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
フロレンティアはドレスの裾を整えながら言った。
「ただいま」
執事は静かに言った。
「舞踏会は……予定通りでございましたか」
フロレンティアは少しだけ笑った。
「ええ」
そして短く答えた。
「予定通りです」
その瞳には、ほんのわずかな冷たい光が宿っていた。
王立学園の卒業舞踏会は、毎年この国で最も華やかな夜の一つとされている。
広大な大広間には無数のシャンデリアが灯り、磨き上げられた床には光がきらめいていた。貴族の子弟たちはそれぞれ華やかな礼装に身を包み、音楽に合わせて優雅に踊っている。
その中心に立つ少女こそ、アルヴェイン公爵家の令嬢――フロレンティア・アルヴェインであった。
長い銀色の髪を緩やかに結い上げ、淡い青のドレスをまとった姿は、まるで氷の精霊のようだと社交界で評されることも多い。もっとも、本人はそんな噂など気にもしていなかった。
今夜は卒業舞踏会。
そして、フロレンティアにとってはもう一つ意味のある夜でもある。
婚約者である王太子カルディオンと、正式に公の場で並ぶ最後の舞踏会になる予定だったからだ。
音楽が一区切りつき、ざわめきが広がる。
貴族たちの視線が、ある一点へと集まり始めた。
玉座の間に続く階段の上。
そこに現れたのは、この国の王太子――カルディオンだった。
背の高い青年で、金色の髪を後ろに流し、王族の礼装を身につけている。堂々とした姿は確かに王太子らしく、周囲の視線を自然と集める。
だがフロレンティアは、彼の隣に立つ人物を見た瞬間、ほんのわずかに眉を動かした。
「……」
そこにいたのは、一人の女性。
長い栗色の髪を揺らし、白いドレスを着た女性が、カルディオンの腕に寄り添うように立っている。
ヴィオレッタ。
オデット伯爵家の令嬢であり――
フロレンティアの義理の妹だった。
会場がざわめく。
なぜ王太子の隣に、彼女がいるのか。
誰もが疑問に思っている。
だがカルディオンはその視線をまったく気にする様子もなく、堂々と階段を降りてきた。
そして大広間の中央に立つと、声高らかに言い放った。
「諸君!」
その声はよく通り、音楽も人の声もすべて止まった。
「今宵、ここにいるすべての者の前で、宣言する!」
一瞬の沈黙。
そして――
「私は、フロレンティア・アルヴェインとの婚約を破棄する!」
ざわめきが爆発した。
「なっ……!」
「婚約破棄だと?」
「まさか……」
貴族たちが一斉に騒ぎ出す。
フロレンティアはその中心に立ちながら、静かに王太子を見つめていた。
驚いていない。
慌てもしていない。
ただ静かに、その言葉を受け止めている。
カルディオンは満足そうに周囲を見回し、さらに続けた。
「理由は明白だ!」
彼は隣の女性――ヴィオレッタの肩を抱いた。
「彼女こそが真実の被害者だからだ!」
ヴィオレッタは小さく肩を震わせ、涙を浮かべる。
「……殿下」
「もう、よろしいのです」
弱々しい声。
だが、その様子を見た貴族たちは一気に同情の色を見せた。
「どういうことだ?」
「アルヴェイン令嬢が何かしたのか?」
カルディオンは怒りを込めた声で言った。
「フロレンティアは長年、彼女を虐げてきた!」
「義理の妹であるヴィオレッタを、嫉妬と権力で押さえつけてきたのだ!」
ざわめきがさらに広がる。
ヴィオレッタは涙を流しながら首を振る。
「違います……」
「お姉様を責めないでください……」
「私が至らないだけなのです……」
その姿は、まさに可哀想な被害者そのものだった。
だが。
フロレンティアはゆっくり口を開いた。
「……殿下」
その声は静かだった。
「お待ちください」
カルディオンは眉をひそめた。
「何だ」
フロレンティアはヴィオレッタを見つめた。
そして言った。
「その方は――」
その瞬間だった。
カルディオンが怒鳴った。
「黙れ!」
大広間が静まり返る。
「加害者の弁明など聞く耳は持たぬ!」
カルディオンは冷たい目でフロレンティアを見下ろした。
「自分の罪を正当化するつもりか?」
「卑劣極まりない」
フロレンティアは一瞬だけ目を伏せた。
だがすぐに顔を上げる。
「殿下」
「その方は――」
「うるさい!」
カルディオンは手を振り払った。
「目障りだ!」
「これ以上ここにいるな!」
周囲の貴族たちもざわめき始める。
「王太子があそこまで言うなら……」
「本当に何かしたのか?」
視線がフロレンティアに突き刺さる。
だが彼女は騒ぎ立てることもなく、ただ静かに一礼した。
「……承知いたしました」
そしてゆっくり背を向ける。
ヴィオレッタが涙声で言った。
「お姉様……」
その言葉を、フロレンティアは振り返らずに聞き流した。
大広間の扉が開く。
フロレンティアはそのまま会場を去った。
背後ではまだ貴族たちのざわめきが続いている。
やがて扉が閉まり、すべての音が遠ざかった。
廊下は静かだった。
フロレンティアはゆっくり歩きながら、小さく息をついた。
そして屋敷へ戻る馬車に乗る。
夜の王都を進み、公爵邸へ。
やがて屋敷の前に馬車が止まった。
扉が開く。
そこに立っていたのは、長年アルヴェイン家に仕える老執事だった。
彼は深く頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
フロレンティアはドレスの裾を整えながら言った。
「ただいま」
執事は静かに言った。
「舞踏会は……予定通りでございましたか」
フロレンティアは少しだけ笑った。
「ええ」
そして短く答えた。
「予定通りです」
その瞳には、ほんのわずかな冷たい光が宿っていた。
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