真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第四話 公開断罪

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第四話 公開断罪

王都の社交界では、ここ数日で一つの“物語”が出来上がっていた。

高慢な公爵令嬢。
可哀想な義妹。
それを救った正義の王太子。

人は、単純な話を好む。

そしてその物語は、あまりにも分かりやすかった。

「アルヴェイン令嬢は恐ろしい方だったそうですわ」

「義妹をずっと虐げていたとか」

「ヴィオレッタ様はずっと耐えていたらしいです」

「それを王太子殿下が救った」

「まるで騎士のようですわね」

王宮の貴婦人たちが、楽しそうに噂話をしている。

だが、その話題の中心人物は今――王宮の別の部屋にいた。

カルディオン王太子は椅子に座り、苛立った様子で書類を机に叩きつけた。

「まだ騒いでいるのか」

向かいに立つ侍従が言う。

「はい、殿下」

「婚約破棄の件で、社交界は騒然としております」

カルディオンは鼻で笑った。

「当然だ」

「王太子が婚約破棄を宣言したのだ」

侍従は慎重に言う。

「ですが……」

「アルヴェイン公爵家は、この件についてまだ何も発言しておりません」

カルディオンは眉をひそめた。

「何?」

「はい」

侍従は続ける。

「公爵家は沈黙を保っています」

カルディオンはしばらく考え、やがて笑った。

「なるほど」

「言い訳を考えているのだろう」

侍従は何も言わない。

カルディオンは椅子から立ち上がった。

「だが無駄だ」

「事実はすでに明らかだ」

彼は窓の外を見た。

王宮の庭では、ヴィオレッタが侍女たちと話している。

弱々しく微笑み、時折涙を拭っている。

その姿を見て、カルディオンは満足そうに頷いた。

「見ろ」

「彼女がどれほど傷ついているか」

侍従は静かに答える。

「……そうでございますね」

カルディオンは振り返った。

「私は正しいことをした」

「フロレンティアのような女を放置しておくわけにはいかない」

彼は歩きながら言う。

「昨日もそうだ」

「舞踏会で、あの女は弁明しようとした」

侍従が言う。

「“その人は――”と」

カルディオンは頷いた。

「そうだ」

「だが私は止めた」

彼は冷たい声で言った。

「加害者の言葉など聞く価値はない」

侍従は少し考えてから言った。

「しかし」

「もし何か事情があったとすれば――」

カルディオンは即座に遮った。

「ない」

その声ははっきりしていた。

「そんなものは存在しない」

彼は机に手を置く。

「仮にあったとしても」

「それは言い訳だ」

侍従は黙った。

カルディオンは続ける。

「公爵家の娘だからといって」

「何をしても許されるわけではない」

「むしろ」

彼は少し笑った。

「だからこそ断罪する必要がある」

侍従は慎重に言った。

「断罪……でございますか」

カルディオンは頷く。

「そうだ」

「昨日の宣言は、ただの婚約破棄ではない」

「公開断罪だ」

彼は自信に満ちた顔で言う。

「貴族社会には見せしめが必要だ」

「権力を振りかざす者がどうなるか」

侍従は目を伏せた。

「……」

カルディオンは満足そうに続ける。

「これで社交界も理解したはずだ」

「王太子が正義を示したとな」

その頃。

アルヴェイン公爵邸では、静かな午後が流れていた。

フロレンティアは書斎で本を読んでいる。

机の上には例の書類が並んでいた。

ヴィオレッタの戸籍。

結婚記録。

年齢記録。

すべて揃っている。

執事が言った。

「王宮の動きですが」

フロレンティアは本を閉じた。

「ええ」

執事は答える。

「王太子殿下は、今回の件を」

「公開断罪とお考えのようです」

フロレンティアは一瞬だけ目を細めた。

「断罪」

そして静かに笑う。

「なるほど」

執事が続ける。

「社交界でもその認識が広まっております」

フロレンティアは紅茶を口に運んだ。

「そう」

そして淡々と言う。

「では」

執事が顔を上げる。

フロレンティアは穏やかに言った。

「舞台は整いましたね」

執事は静かに頷いた。

「はい」

フロレンティアは窓の外を見る。

春の空は、今日も穏やかだ。

「断罪」

彼女は小さく呟く。

「殿下は」

「それがお好きなのですね」

そして紅茶のカップを置いた。

「でしたら」

その声はとても静かだった。

「最後まで見届けていただきましょう」

「本当の断罪を」
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