真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第十七話 社交界の疑念

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第十七話 社交界の疑念

王都の貴族街。

豪奢な屋敷が並ぶその一角に、今日も令嬢たちの社交会が開かれていた。

華やかなドレス。

煌びやかな宝石。

紅茶の香りが漂う室内では、いつものように優雅な会話が交わされている。

だが。

話題は一つだった。

「聞きました?」

一人の伯爵令嬢が声を潜める。

「ヴィオレッタ様のこと」

別の令嬢が頷く。

「ええ」

「王太子殿下と婚約するという…」

周囲の令嬢たちがざわめいた。

一人が言う。

「でも」

「ヴィオレッタ様は」

言葉を選びながら続ける。

「既婚者では?」

別の令嬢が小さく頷く。

「ダリオン様の奥様ですわよね」

沈黙が落ちる。

誰も大きな声では言えない。

相手は王太子だからだ。

だが。

疑問は消えなかった。

一人の侯爵令嬢が言う。

「離婚するそうですわ」

別の令嬢が眉をひそめた。

「それでも」

「人妻でしょう?」

「王太子が関係を持つのは…」

言葉は途中で止まる。

それ以上は不敬に聞こえる。

だが。

別の話題がすぐに出てきた。

「それより」

一人が言う。

「年齢の話」

令嬢たちは顔を見合わせる。

「聞きました?」

「二十九歳だとか」

「まさか」

一人が首を振る。

「社交界では二十歳のはず」

別の令嬢が言う。

「でも」

「結婚したのは三年前」

「その時十九歳」

侯爵令嬢が考えるように言った。

「もし二十九歳なら」

「結婚時は二十八歳…」

部屋が静まり返る。

誰かが小さく言った。

「……あり得る?」

一人が答える。

「年齢詐称?」

すぐに別の令嬢が慌てて言う。

「そんな」

「伯爵家が?」

だが疑念は消えなかった。

「でも」

「妙ですわ」

侯爵令嬢が言う。

「ヴィオレッタ様」

「昔からずっと同じ年齢ですもの」

その言葉に何人かが頷いた。

「確かに」

「私が学園に入った時も」

「二十歳でしたわ」

「私たちより年上のはずなのに…」

令嬢たちは互いに顔を見る。

そして一人が小さく呟いた。

「もし本当に二十九歳なら」

「王太子妃になるために」

「年齢を偽っていた?」

沈黙。

その時。

別の令嬢が言った。

「それより問題は」

「結婚ですわ」

周囲が頷く。

「そう」

「ダリオン様」

「アルヴェイン公爵家」

侯爵令嬢が言う。

「つまり」

「公爵家の嫁」

誰かが呟く。

「人妻」

その言葉が部屋の空気を重くする。

令嬢の一人が言う。

「王太子殿下は」

「ご存知なのかしら」

別の令嬢が答える。

「もちろん」

「知っているはず」

侯爵令嬢がため息をつく。

「それでも婚約?」

「真実の愛だとか」

一人が苦笑した。

「真実の愛」

そして小さく言う。

「便利な言葉ですわね」

その言葉に、何人かがくすっと笑った。

だが笑いはすぐに消えた。

なぜなら。

誰もが感じていたからだ。

この話はおかしい。

そしてその疑念は。

ゆっくりと。

確実に。

社交界全体へと広がっていった。

誰かが最後に言った。

「アルヴェイン公爵令嬢」

「フロレンティア様」

令嬢たちは頷く。

「あの方が黙っているのも」

侯爵令嬢が静かに言う。

「不思議ですわね」

そして。

その言葉の意味を。

誰もが理解していた。

フロレンティアは。

まだ何もしていない。

だが。

何かが起こる。

社交界は、そう感じ始めていた。
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