真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第二十話 三十路のババァ

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第二十話 三十路のババァ

王宮の中庭。

昼下がりの光の中、カルディオン王太子は苛立った様子で歩いていた。

周囲には数人の近衛騎士と侍従。

だが彼らは妙に静かだった。

いつもなら、王太子が通ればすぐに笑顔で迎える者たちが――今日は視線を逸らしている。

カルディオンは眉をひそめた。

「何だ、その顔は」

侍従の一人が慌てて頭を下げる。

「い、いえ……」

カルディオンは苛立って手を振った。

「くだらん」

彼は歩きながら言う。

「最近、妙な噂が広がっている」

誰も答えない。

カルディオンは舌打ちした。

「ヴィオレッタの年齢だとか」

その言葉に、近くにいた侍従が小さく肩を震わせた。

カルディオンはそれを見逃さなかった。

「おい」

侍従はびくりとした。

「はい、殿下」

カルディオンは睨みつける。

「お前も聞いているのか」

侍従は言葉に詰まる。

「その……」

カルディオンは苛立って言った。

「答えろ」

侍従は小さく言った。

「社交界では……」

「二十九歳という噂が」

一瞬。

空気が凍った。

カルディオンはゆっくり瞬きをした。

「……二十九歳?」

侍従は震える声で言う。

「は、はい」

カルディオンは数秒、黙った。

そして。

「馬鹿な」

彼は笑った。

「そんなはずがない」

侍従は何も言えない。

カルディオンは手を振った。

「ヴィオレッタは二十歳だ」

その声には自信があった。

だが。

侍従は小さく言う。

「教会の結婚記録が……」

カルディオンの表情が変わった。

「結婚記録?」

侍従は頷く。

「三年前の婚姻」

「その時の年齢が……」

カルディオンは苛立って言った。

「いくつだ」

侍従は言った。

「二十八歳」

沈黙。

カルディオンの顔がゆっくり歪む。

「……つまり」

彼は呟いた。

「今は」

侍従は目を閉じる。

「二十九歳」

次の瞬間。

カルディオンは叫んだ。

「ふざけるな!」

近衛騎士たちが一斉に頭を下げる。

カルディオンは怒りに震えていた。

「二十九歳だと?」

「そんなはずがあるか!」

侍従は必死に言う。

「ですが、記録は……」

カルディオンは机を叩いた。

「嘘だ!」

彼は荒い息を吐いた。

そして。

信じられないものを見るように呟いた。

「二十九歳……」

数秒後。

彼の顔が歪んだ。

「三十路のババァじゃないか……」

その言葉は、はっきりと響いた。

周囲の空気が凍る。

誰も動かない。

カルディオンはまだ怒っていた。

「私は!」

彼は叫ぶ。

「二十歳の令嬢を選んだんだ!」

侍従は小さく言う。

「ですが殿下……」

カルディオンは睨みつけた。

「何だ」

侍従は恐る恐る言った。

「殿下は……」

「ヴィオレッタ様が既婚者であることは」

「ご存知でした」

カルディオンは一瞬黙った。

そして言う。

「それは問題ない」

「離婚させればいい」

侍従は言葉を飲み込んだ。

カルディオンは歩き出す。

だがその顔は、さっきまでとは違っていた。

「二十九歳……」

彼はもう一度呟く。

そして苛立ったように吐き捨てた。

「ふざけるな」

その言葉は。

王宮の静かな廊下に。

重く響いた。
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