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第二十話 選ばれなかった未来
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第二十話 選ばれなかった未来
王都では、もはや“差”という言葉を避ける者はいなかった。
交易市の結果が示した数字は、あまりにも明確だったからだ。
言い訳の余地も、解釈の逃げ道もない。
――同じ条件で、結果が違う。
政務棟では、改革案が次々と机に積まれていた。
「決裁の簡略化」 「担当官の権限拡大」 「外部顧問の登用」
どれも、正しい。
どれも、遅い。
「……これで、どれほど改善する?」
問いに、誰も即答できない。
「改善は、します」 「ですが……」
言葉が濁る。
「“以前の水準”に戻る保証はありません」
それが、全員の本音だった。
王太子アントナン・ドームは、黙ってその議論を聞いていた。
彼の前には、二つの未来が並んでいる。
一つは、今ある人材で、少しずつ作り直す未来。
時間がかかり、成果が出る頃には、周囲の評価はさらに厳しくなる。
もう一つは――
失ったものを、再び手に入れる未来。
だが、その選択肢は、すでに消えていた。
「……マイセン公爵令嬢に、再度の打診を」
誰かが、最後の望みのように口にした。
だが、老臣が静かに首を横に振る。
「意味がありません」
「なぜです」
「彼女は、もう“個人”として戻る段階にいない」
その言葉は、静かだが、重かった。
「今の彼女を招くには、王都そのものを変える必要があります」 「それが出来ないなら、再び失うだけです」
沈黙。
それは、理解の沈黙だった。
一方、隣国。
エミー・マイセンは、地方行政官向けの研修初日を迎えていた。
集まったのは、若手から中堅まで、立場も経験もばらばらな官吏たち。
「本日の目的は、判断力を高めることではありません」
彼女は、穏やかに言った。
「迷わないための“型”を覚えることです」
ざわり、と小さなどよめき。
「正解を教えるつもりはありません」 「ただ、間違いにくい順番を共有します」
彼女が黒板に書いたのは、三行だけ。
・目的
・制約
・選択肢
「この三つが揃わない限り、判断しないでください」
シンプルな言葉。
だが、それこそが、王都に欠けていたものだった。
休憩時間。
若い官吏が、恐る恐る声をかける。
「……どうして、そこまで教えてくださるのですか」
エミーは、少し考えて答えた。
「一人で出来る仕事には、限界がありますから」
それは、かつての自分への答えでもあった。
夜。
王都の王宮では、アントナンが一人、書斎にいた。
机の上には、古い議事録。
そこには、見覚えのある筆跡があった。
簡潔で、無駄がなく、
判断の根拠が、丁寧に整理されている。
「……君は」
独り言のように呟く。
「この国に、未来を残そうとしていたのか」
だが、その未来は――
彼自身が、選ばなかった。
同じ夜。
隣国の宿舎で、エミーは灯りを落とし、静かに息をついていた。
忙しい一日だったが、疲労は心地いい。
誰かの代わりではない。
誰かの影でもない。
自分の名前で、
仕組みを残す仕事をしている。
王都は、今も改革の途上にある。
だが、それは
「彼女がいない前提」で作られる未来だ。
そしてエミー・マイセンは、
選ばれなかった未来を振り返らない。
彼女が進むのは、
自分で選び、
自分で責任を持つ未来だけだった。
――物語は、まだ終わらない。
だがここで、一つだけ、はっきりしたことがある。
王都が失ったのは、一人の令嬢ではない。
選ばれなかったのは、
“変わる覚悟を持たない未来”だった。
王都では、もはや“差”という言葉を避ける者はいなかった。
交易市の結果が示した数字は、あまりにも明確だったからだ。
言い訳の余地も、解釈の逃げ道もない。
――同じ条件で、結果が違う。
政務棟では、改革案が次々と机に積まれていた。
「決裁の簡略化」 「担当官の権限拡大」 「外部顧問の登用」
どれも、正しい。
どれも、遅い。
「……これで、どれほど改善する?」
問いに、誰も即答できない。
「改善は、します」 「ですが……」
言葉が濁る。
「“以前の水準”に戻る保証はありません」
それが、全員の本音だった。
王太子アントナン・ドームは、黙ってその議論を聞いていた。
彼の前には、二つの未来が並んでいる。
一つは、今ある人材で、少しずつ作り直す未来。
時間がかかり、成果が出る頃には、周囲の評価はさらに厳しくなる。
もう一つは――
失ったものを、再び手に入れる未来。
だが、その選択肢は、すでに消えていた。
「……マイセン公爵令嬢に、再度の打診を」
誰かが、最後の望みのように口にした。
だが、老臣が静かに首を横に振る。
「意味がありません」
「なぜです」
「彼女は、もう“個人”として戻る段階にいない」
その言葉は、静かだが、重かった。
「今の彼女を招くには、王都そのものを変える必要があります」 「それが出来ないなら、再び失うだけです」
沈黙。
それは、理解の沈黙だった。
一方、隣国。
エミー・マイセンは、地方行政官向けの研修初日を迎えていた。
集まったのは、若手から中堅まで、立場も経験もばらばらな官吏たち。
「本日の目的は、判断力を高めることではありません」
彼女は、穏やかに言った。
「迷わないための“型”を覚えることです」
ざわり、と小さなどよめき。
「正解を教えるつもりはありません」 「ただ、間違いにくい順番を共有します」
彼女が黒板に書いたのは、三行だけ。
・目的
・制約
・選択肢
「この三つが揃わない限り、判断しないでください」
シンプルな言葉。
だが、それこそが、王都に欠けていたものだった。
休憩時間。
若い官吏が、恐る恐る声をかける。
「……どうして、そこまで教えてくださるのですか」
エミーは、少し考えて答えた。
「一人で出来る仕事には、限界がありますから」
それは、かつての自分への答えでもあった。
夜。
王都の王宮では、アントナンが一人、書斎にいた。
机の上には、古い議事録。
そこには、見覚えのある筆跡があった。
簡潔で、無駄がなく、
判断の根拠が、丁寧に整理されている。
「……君は」
独り言のように呟く。
「この国に、未来を残そうとしていたのか」
だが、その未来は――
彼自身が、選ばなかった。
同じ夜。
隣国の宿舎で、エミーは灯りを落とし、静かに息をついていた。
忙しい一日だったが、疲労は心地いい。
誰かの代わりではない。
誰かの影でもない。
自分の名前で、
仕組みを残す仕事をしている。
王都は、今も改革の途上にある。
だが、それは
「彼女がいない前提」で作られる未来だ。
そしてエミー・マイセンは、
選ばれなかった未来を振り返らない。
彼女が進むのは、
自分で選び、
自分で責任を持つ未来だけだった。
――物語は、まだ終わらない。
だがここで、一つだけ、はっきりしたことがある。
王都が失ったのは、一人の令嬢ではない。
選ばれなかったのは、
“変わる覚悟を持たない未来”だった。
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