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第二十七話 見せる覚悟
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第二十七話 見せる覚悟
視察団が到着したのは、雨の朝だった。
王都から派遣された官吏たちは、揃って硬い表情をしている。
歓迎の儀礼は、簡素だった。
拍手も、祝辞もない。
ただ、予定表だけが渡される。
「本日の行程です」
エミー・マイセンの声は、淡々としていた。
「成功例と、失敗例を、同じ比重で見ていただきます」
数名が、顔を見合わせる。
「……失敗例、も?」
「はい」
エミーは、迷いなく頷く。
「それを隠す組織は、再現できません」
最初に案内されたのは、物流拠点の拡張計画――
失敗から始まった案件だった。
「初期判断では、需要予測を外しました」
担当官が、率直に説明する。
「稼働率は、想定の六割に届きませんでした」
視察団の一人が、思わず口を挟む。
「責任者は?」
「私です」
担当官は、即答した。
「判断理由と、修正案を提出し、承認を得ました」
資料が回される。
失敗の原因。
見落とした前提。
修正の過程。
どれも、赤裸々だ。
「……処分は?」
王都側の問いに、エミーが答える。
「ありません」
空気が、一瞬凍る。
「失敗は、想定内でした」 「修正可能であることを、確認した上で進めています」
誰も、言い返せなかった。
次に案内されたのは、現在進行中の案件。
判断は、まだ仮だ。
数字も、流動的だ。
「ここは、今も迷っています」
担当官が、正直に言う。
「ですが、迷い続ける理由は、ありません」
黒板に、三つの項目が書かれる。
・目的
・最悪
・修正
「この三点が揃えば、進めます」
それは、エミーが渡した“型”だった。
昼休憩。
控室で、視察団の一人が、ぽつりと漏らす。
「……怖くないのか?」
エミーは、静かに答えた。
「怖いですよ」
意外な即答に、視線が集まる。
「だから、怖さを分けています」 「個人が背負わないように」
それが、見せる覚悟だった。
午後。
最後に案内されたのは、判断が間に合わず、
一部を失った案件だった。
「ここは、取り戻せません」
エミーは、はっきりと言う。
「ですが、全体は守れました」
守れなかった部分。
守れた部分。
線引きは、明確だ。
「判断が遅れた理由は?」
「責任の所在が、曖昧だったからです」
その言葉は、王都側に突き刺さった。
夕刻。
視察の終わりに、質疑の時間が設けられた。
「……このやり方を、我々は真似できますか」
誰かが、恐る恐る尋ねる。
エミーは、首を横に振った。
「真似は、できません」
落胆の気配。
「ですが」
彼女は、続ける。
「覚悟は、真似できます」
失敗を見せる覚悟。
理由を語る覚悟。
責任を引き受ける覚悟。
「それがなければ、制度は飾りです」
夜。
宿舎に戻ったエミーは、窓の外の雨を眺めていた。
今日、見せたのは、成功ではない。
立ち方だ。
同じ頃、王都に戻る馬車の中。
視察団の一人が、低く言った。
「……分かった気がする」 「追いつけない理由が」
誰も、否定しなかった。
エミー・マイセンは、もう教えない。
ただ、見せただけだ。
見せる覚悟を。
それを持ち帰れるかどうかは、
彼ら自身の問題だった。
視察団が到着したのは、雨の朝だった。
王都から派遣された官吏たちは、揃って硬い表情をしている。
歓迎の儀礼は、簡素だった。
拍手も、祝辞もない。
ただ、予定表だけが渡される。
「本日の行程です」
エミー・マイセンの声は、淡々としていた。
「成功例と、失敗例を、同じ比重で見ていただきます」
数名が、顔を見合わせる。
「……失敗例、も?」
「はい」
エミーは、迷いなく頷く。
「それを隠す組織は、再現できません」
最初に案内されたのは、物流拠点の拡張計画――
失敗から始まった案件だった。
「初期判断では、需要予測を外しました」
担当官が、率直に説明する。
「稼働率は、想定の六割に届きませんでした」
視察団の一人が、思わず口を挟む。
「責任者は?」
「私です」
担当官は、即答した。
「判断理由と、修正案を提出し、承認を得ました」
資料が回される。
失敗の原因。
見落とした前提。
修正の過程。
どれも、赤裸々だ。
「……処分は?」
王都側の問いに、エミーが答える。
「ありません」
空気が、一瞬凍る。
「失敗は、想定内でした」 「修正可能であることを、確認した上で進めています」
誰も、言い返せなかった。
次に案内されたのは、現在進行中の案件。
判断は、まだ仮だ。
数字も、流動的だ。
「ここは、今も迷っています」
担当官が、正直に言う。
「ですが、迷い続ける理由は、ありません」
黒板に、三つの項目が書かれる。
・目的
・最悪
・修正
「この三点が揃えば、進めます」
それは、エミーが渡した“型”だった。
昼休憩。
控室で、視察団の一人が、ぽつりと漏らす。
「……怖くないのか?」
エミーは、静かに答えた。
「怖いですよ」
意外な即答に、視線が集まる。
「だから、怖さを分けています」 「個人が背負わないように」
それが、見せる覚悟だった。
午後。
最後に案内されたのは、判断が間に合わず、
一部を失った案件だった。
「ここは、取り戻せません」
エミーは、はっきりと言う。
「ですが、全体は守れました」
守れなかった部分。
守れた部分。
線引きは、明確だ。
「判断が遅れた理由は?」
「責任の所在が、曖昧だったからです」
その言葉は、王都側に突き刺さった。
夕刻。
視察の終わりに、質疑の時間が設けられた。
「……このやり方を、我々は真似できますか」
誰かが、恐る恐る尋ねる。
エミーは、首を横に振った。
「真似は、できません」
落胆の気配。
「ですが」
彼女は、続ける。
「覚悟は、真似できます」
失敗を見せる覚悟。
理由を語る覚悟。
責任を引き受ける覚悟。
「それがなければ、制度は飾りです」
夜。
宿舎に戻ったエミーは、窓の外の雨を眺めていた。
今日、見せたのは、成功ではない。
立ち方だ。
同じ頃、王都に戻る馬車の中。
視察団の一人が、低く言った。
「……分かった気がする」 「追いつけない理由が」
誰も、否定しなかった。
エミー・マイセンは、もう教えない。
ただ、見せただけだ。
見せる覚悟を。
それを持ち帰れるかどうかは、
彼ら自身の問題だった。
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