婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾

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第三十三話 支える側に回る者

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第三十三話 支える側に回る者

 

 改革が続くとき、
 最初に変わるのは、制度でも数字でもない。

 立ち位置だ。

 

 

 王都の官庁では、静かな変化が起きていた。

 

「……殿下に、全部投げるのは違う」

 

 ある中堅官吏が、会議後にそう口にした。

 以前なら、誰も反応しなかった言葉だ。

 

「でも、判断を外したら……」

「外してもいい」 「理由が説明できるなら」

 

 その会話に、周囲が耳を傾ける。

 

 責任を押し付けるのではなく、
 支える側に回るという発想。

 

 それは、王都では珍しいものだった。

 

 

 数日後。

 新たな案件が、改革会議に持ち込まれる。

 地方医療拠点の再編。
 住民感情が絡む、難しい判断だ。

 

「……殿下、今回は我々で案をまとめました」

 

 側近の言葉に、
 アントナン・ドームは、わずかに目を見開いた。

 

「判断基準は?」

 

「目的は、医療崩壊の回避」 「最悪は、一部地域の反発」 「修正は、段階導入で可能です」

 

 エミーが使っていた“型”が、
 自然に、言葉として出てくる。

 

 アントナンは、静かに頷いた。

 

「……では、進めよう」 「責任は、共有する」

 

 その一言に、
 会議室の空気が、確かに変わった。

 

 

 地方。

 新制度の説明会で、官吏が住民に頭を下げる。

 

「この判断は、我々の責任です」 「問題が出れば、必ず修正します」

 

 逃げ道のない言葉。

 だが、不思議と、反発は以前より少なかった。

 

「……そこまで言うなら」 「様子を見よう」

 

 完全な納得ではない。
 だが、対話が成立している。

 

 

 一方、隣国。

 エミー・マイセンは、報告書を読みながら、静かに目を細めた。

 

「……支える側が、出てきましたね」

 

 補佐官が、少し驚いた声を出す。

「分かるのですか」

 

「分かります」 「言葉が、変わっています」

 

 命令形から、主語が変わっている。
 「殿下が」ではなく、「我々が」。

 

 それは、決定的な違いだった。

 

 

 ガイストが、低く言う。

「追いつくかもしれんな」

 

 エミーは、首を横に振る。

 

「追いつく、ではありません」 「ようやく、並ぶ資格を得たかどうか、です」

 

 

 夜。

 王都の書斎。

 アントナンは、机に置かれた修正案の束を見つめていた。

 

(……一人じゃない)

 

 それは、重さが減ったという意味ではない。

 支点が、増えたという意味だ。

 

 

 かつて、エミー・マイセンが一人で背負っていた場所。

 今、そこに、少しずつ人が立ち始めている。

 

 それが、改革が続く条件。

 

 

 エミーは、灯りを落としながら、静かに思った。

 

(続くかもしれない)

 

 まだ、確信ではない。
 だが、希望でもない。

 

 ただ――

 支える側に回る者が現れた。

 

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