婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾

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第三十二話 続くかどうか

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第三十二話 続くかどうか

 

 改革は、続ける者を選ぶ。

 成果を出した者ではない。
 理解した者でもない。

 続ける覚悟を、毎日更新できる者だけを。

 

 

 王都の朝。

 新聞には、相反する見出しが並んでいた。

「農業支援、迅速化で現場に光」 「混乱続く改革、責任の所在は王太子」

 

 評価は、割れている。
 だが、それは――
 誰かが、前に立っている証でもあった。

 

 

 王宮・執務室。

 アントナン・ドームは、報告書に目を通していた。

 不正申請の摘発数。
 修正後の処理速度。
 現場からの苦情と、感謝。

 

 数字は、嘘をつかない。

 

「……思った以上に、持ち直しています」

 側近の声は、慎重だが、希望を含んでいた。

 

「問題は?」

 

「殿下が、いつまで立ち続けられるか、です」

 

 アントナンは、書類から目を上げた。

 

「立ち続ける」

 それは、気合ではない。
 英雄的な決意でもない。

 

 毎日、同じ重さを引き受けること。

 

 

 昼。

 地方の役所では、修正された基準が共有されていた。

 

「これで、判断が楽になります」 「理由を、説明しやすい」

 

 若手官吏の声に、上司が頷く。

 

「殿下が、前に立っている間はな」

 

 その一言に、空気が引き締まる。

 

 

 同じ頃、隣国。

 エミー・マイセンは、定例会議を終えていた。

 

「王都の改革、安定し始めています」

 

 補佐官の報告に、彼女は短く頷く。

 

「……安定は、油断の入口です」

 

 その言葉は、王都に向けたものではない。
 自分自身への戒めだった。

 

 

 ガイストが、低く言う。

「評価しないのか」

 

「評価は、結果が定着してからです」

 

 彼女は、淡々としている。

 

「一度立った者が、
 次の日も立てるかどうか」

 

 それが、分水嶺だ。

 

 

 夜。

 王都では、再び批判が噴き出していた。

「また修正?」 「最初から完璧にやれ」

 

 アントナンは、記者の前で、はっきりと答える。

 

「完璧な制度は、存在しません」 「だから、修正します」 「責任は、引き続き私が負います」

 

 言葉は、簡潔だった。

 だが、その裏には、
 終わりの見えない日々がある。

 

 

 書斎に戻った夜。

 アントナンは、椅子に深く沈み込み、目を閉じた。

 

(……逃げたい)

 

 正直な感情が、胸をよぎる。

 

(だが、逃げれば) (すべて、元に戻る)

 

 それだけは、分かっていた。

 

 

 一方、隣国。

 エミーは、今日も変わらず業務を終える。

 王都の改革が成功しても、失敗しても、
 彼女の立ち位置は、変わらない。

 

 ただ、思う。

 

(続くかどうか)

 

 改革は、始める者より、
 続ける者に、冷たい。

 

 

 王都は、今まさに試されている。

 理解したかどうかではない。
 一歩踏み出したかどうかでもない。

 

 明日も、同じ場所に立てるかどうか。

 

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