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第三十九話 最後の問い
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第三十九話 最後の問い
春が巡り、即位から一年が経とうとしていた。
王都は落ち着いている。
南部の若者たちは討論会を続け、西方の商人連合は共同投資の成果を上げ、北部の畑には新芽が出ている。
制度は根づき始めている。
だが、最後に残された問いがあった。
――あなたは、幸せか。
それは政治の議題ではない。
だが王である前に、一人の人間として避けられない問い。
その問いを持って現れたのは、意外な人物だった。
元公爵――私の父。
隠居後、初めての正式な訪問。
王宮の応接室で向き合う。
かつて私は、彼の所有物だった。
彼はしばらく黙っていた。
「国は安定している」
「努力しています」
「……立派だ」
その言葉に、私はわずかに息を止める。
彼から、評価を求めていたわけではない。
だが心は揺れる。
「お前は、私を責めないのか」
唐突な問い。
「何を」
「所有物として扱ったこと」
沈黙。
私は静かに答える。
「あなたは、それが正しいと思っていた」
「だが、お前は苦しんだ」
「ええ」
否定しない。
「だが今、私はここに立っています」
彼は視線を落とす。
「私は守っているつもりだった」
「存じています」
その言葉は、嘘ではない。
善意の庇護。
だが善意は、必ずしも尊重ではない。
「私は、あなたの奴隷でも物でもありません」
私は改めて言う。
「感情と意志のある人間です」
父は深く息を吐く。
「……ああ」
それだけだった。
謝罪はない。
だが否定もない。
それで十分だ。
夜、私は王宮の屋上に立つ。
一年前、ここで戴冠の決意を固めた。
あの日、私は怒りと理想で立っていた。
今は違う。
怒りは薄れ、責任が残った。
アルトが隣に立つ。
「何を考えている」
「一年を」
「後悔は」
私は首を振る。
「ありません」
「怒りは」
「もう、ありません」
彼は静かに笑う。
「それが成熟だ」
私は空を見上げる。
かつて、ざまあを求めた。
体制を覆し、父や王太子に思い知らせる。
だが今、私は知っている。
最大のざまあは、滅びではない。
変化だ。
所有の思想を終わらせ、
血の特権を相対化し、
王位すら私物ではないと宣言した。
それ以上の逆転はない。
鐘が鳴る。
一年の終わりを告げる鐘。
私は深く息を吸う。
最後の問い。
私は、幸せか。
答えは、静かに胸にある。
自由だ。
孤独もある。
重圧もある。
だが選択は自分のもの。
それが何よりの幸福。
私は振り返る。
鳥籠はもうない。
王冠はある。
だがそれは、私を縛らない。
私は微笑む。
明日、最後の儀式がある。
それが、この物語の締めくくり。
春が巡り、即位から一年が経とうとしていた。
王都は落ち着いている。
南部の若者たちは討論会を続け、西方の商人連合は共同投資の成果を上げ、北部の畑には新芽が出ている。
制度は根づき始めている。
だが、最後に残された問いがあった。
――あなたは、幸せか。
それは政治の議題ではない。
だが王である前に、一人の人間として避けられない問い。
その問いを持って現れたのは、意外な人物だった。
元公爵――私の父。
隠居後、初めての正式な訪問。
王宮の応接室で向き合う。
かつて私は、彼の所有物だった。
彼はしばらく黙っていた。
「国は安定している」
「努力しています」
「……立派だ」
その言葉に、私はわずかに息を止める。
彼から、評価を求めていたわけではない。
だが心は揺れる。
「お前は、私を責めないのか」
唐突な問い。
「何を」
「所有物として扱ったこと」
沈黙。
私は静かに答える。
「あなたは、それが正しいと思っていた」
「だが、お前は苦しんだ」
「ええ」
否定しない。
「だが今、私はここに立っています」
彼は視線を落とす。
「私は守っているつもりだった」
「存じています」
その言葉は、嘘ではない。
善意の庇護。
だが善意は、必ずしも尊重ではない。
「私は、あなたの奴隷でも物でもありません」
私は改めて言う。
「感情と意志のある人間です」
父は深く息を吐く。
「……ああ」
それだけだった。
謝罪はない。
だが否定もない。
それで十分だ。
夜、私は王宮の屋上に立つ。
一年前、ここで戴冠の決意を固めた。
あの日、私は怒りと理想で立っていた。
今は違う。
怒りは薄れ、責任が残った。
アルトが隣に立つ。
「何を考えている」
「一年を」
「後悔は」
私は首を振る。
「ありません」
「怒りは」
「もう、ありません」
彼は静かに笑う。
「それが成熟だ」
私は空を見上げる。
かつて、ざまあを求めた。
体制を覆し、父や王太子に思い知らせる。
だが今、私は知っている。
最大のざまあは、滅びではない。
変化だ。
所有の思想を終わらせ、
血の特権を相対化し、
王位すら私物ではないと宣言した。
それ以上の逆転はない。
鐘が鳴る。
一年の終わりを告げる鐘。
私は深く息を吸う。
最後の問い。
私は、幸せか。
答えは、静かに胸にある。
自由だ。
孤独もある。
重圧もある。
だが選択は自分のもの。
それが何よりの幸福。
私は振り返る。
鳥籠はもうない。
王冠はある。
だがそれは、私を縛らない。
私は微笑む。
明日、最後の儀式がある。
それが、この物語の締めくくり。
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