所有物だった公爵令嬢は、民に選ばれ女王となる

鷹 綾

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第四十話 女王として

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第四十話 女王として

 戴冠から一年。

 王都は穏やかな光に包まれていた。

 今日は特別な日ではない。
 戦勝でも、祝祭でもない。

 ただ、一年を終え、新しい一年を迎える日。

 私は玉座に座っていない。

 広間の中央に立っている。

 民の代表、評議会、貴族、商人、兵士、農民。
 この一年で顔を合わせてきた人々。

 そして父もいる。
 隅に、静かに。

 私はゆっくりと口を開く。

「私は、一年前、王となりました」

 静かな声。

「怒りと理想を抱いて」

 ざわめきはない。

「この国は、所有の思想の中にありました」

 父の視線がわずかに揺れる。

「私自身も、その一部でした」

 庇護。
 所有。
 善意の鎖。

「私は、それを否定しました」

 だが否定は破壊ではない。

「私は、この国を滅ぼすことを選びませんでした」

 隣国の王は、広間の奥に立っている。

 彼は静かに見守っている。

「私は、変えることを選びました」

 血を絶対としない。
 婚姻を所有としない。
 王位を私物としない。

「すべては、完全ではありません」

 正直な言葉。

「揺らぎはあります」

「反発もあります」

「それでも私は、退きません」

 広間の空気が熱を帯びる。

「私は、誰の所有物でもありません」

 一年前と同じ言葉。

「そして、この国もまた、誰かの所有物ではありません」

 沈黙。

 だが重くはない。

 確信の静けさ。

「私は、女王です」

 それは肩書きではない。

「所有する者ではなく、責任を負う者」

 民の中から、ゆっくりと拍手が起こる。

 大きくはない。

 だが揺るがない。

 私は視線を上げる。

 父と目が合う。

 彼は深く頷いた。

 それだけで十分だ。

 儀式は短い。

 宣誓の更新。

 評議会の承認。

 民代表の同意。

 そして私は、再び立つ。

 選ばれ続ける王として。

 夜。

 王宮の屋上。

 一年前と同じ場所。

 アルトが隣に立つ。

「終わったな」

「いいえ」

 私は微笑む。

「始まりです」

 彼は静かに笑う。

「あなたは変わった」

「国も」

 風がやわらかい。

 鳥籠はない。

 王冠はある。

 だがそれは重みであって、鎖ではない。

 私は空を見上げる。

 ざまあを求めた少女は、もういない。

 だが消えたわけではない。

 あの怒りがあったから、ここまで来られた。

 私は深く息を吸う。

「私は、女王として生きます」

 所有ではなく、選択の象徴として。

 この国と共に。

 物語は、ここで一区切り。

 だが国は続く。

 女王として、私は歩き続ける。
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