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第11話 呼ばれなかった者
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第11話 呼ばれなかった者
舞踏会の翌朝、王宮はいつも通りに目を覚ました。
回廊は静まり返り、朝の光が高窓から差し込む。昨夜の喧騒が嘘のように、整然とした日常が戻ってきていた。
だが、それは「何も起きなかった」という意味ではない。
むしろ逆だ。王宮において、何事もなかったかのように朝が始まるときこそ、すでに処理が始まっている証拠だった。
ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、用意された客室で静かに紅茶を飲んでいた。
夜を越えても、感情が荒れることはない。眠れなかったわけでもない。ただ、起きるべきことが起きただけだと、身体が理解している。
侍女が控えめに告げる。
「公爵令嬢、本日、国王陛下よりお呼びがかかっております」
それだけだった。
余計な言葉はない。慰めも、気遣いもない。
ソフィは、静かに頷いた。
「承知しました」
呼ばれた。
それが、すべてを物語っている。
一方、別の場所では、まったく違う朝が始まっていた。
イディオット・パーソーン王太子は、自室で苛立ちを募らせていた。
昨夜の舞踏会の後、誰も訪ねてこない。側近たちは姿を見せず、いつもなら顔を出すはずの重臣たちも現れない。
「……遅いな」
苛立ち混じりに呟く。
父である国王から、まだ何の呼び出しもない。それが、彼には不満だった。
叱るなら叱ればいい。
注意するなら注意すればいい。
それでも最終的には、王太子である自分が守られる。
そう信じているからこそ、呼ばれないことが理解できない。
だが、理解できないのは彼だけだった。
王宮では、すでに線引きがなされている。
呼ばれる者。
呼ばれない者。
それは罰ではない。
処理の順番だ。
王宮の会議室には、すでに関係者が集められていた。
国王。
重臣たち。
そして、ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢。
そこに、王太子の姿はない。
ソフィは、その事実を見て、内心で静かに理解した。
これは、感情の場ではない。
王太子がいないからこそ、成立する話し合いなのだ。
「昨夜の件について、確認を行う」
国王の声は低く、感情を抑えたものだった。
怒りはない。だが、疲労と失望が滲んでいる。
形式的な確認が続く。
発言内容。
撤回の有無。
書記官の記録。
すべてが淡々と読み上げられる。
ソフィは、必要なときだけ答えた。
余計な説明はしない。
訴えもしない。
それが、公爵令嬢としての正しい振る舞いだった。
会議は長くは続かなかった。
なぜなら、議論する余地がほとんどなかったからだ。
結論は、すでに出ている。
今日ここで行われているのは、それを正式な形に落とし込む作業に過ぎない。
会議が終わり、ソフィは静かに一礼する。
「本日は、お時間を頂きありがとうございました」
国王は、彼女を見つめ、短く頷いた。
「……下がってよい」
それ以上、言葉はなかった。
ソフィは部屋を出る。
背後で扉が閉まる音を聞きながら、心の中で一つ、区切りをつけた。
――私は、もうここで役目を終えました。
一方その頃、王太子は、なおも呼ばれていなかった。
「なぜだ」
苛立ちを隠さず、側近に問いただす。
だが、側近は曖昧に頭を下げるだけだ。
「……まだ、でございます」
その言葉が意味するところを、イディオットは理解していない。
呼ばれないのは、保留だからではない。
優先順位が、下げられたからだ。
王宮において、最も危険なのは叱責ではない。
無視でもない。
最も危険なのは、「後回し」にされることだ。
王太子は、まだ知らない。
自分が今、処理される側に回されたという事実を。
呼ばれなかった者の時間は、静かに、だが確実に、削られていく。
舞踏会の翌朝、王宮はいつも通りに目を覚ました。
回廊は静まり返り、朝の光が高窓から差し込む。昨夜の喧騒が嘘のように、整然とした日常が戻ってきていた。
だが、それは「何も起きなかった」という意味ではない。
むしろ逆だ。王宮において、何事もなかったかのように朝が始まるときこそ、すでに処理が始まっている証拠だった。
ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、用意された客室で静かに紅茶を飲んでいた。
夜を越えても、感情が荒れることはない。眠れなかったわけでもない。ただ、起きるべきことが起きただけだと、身体が理解している。
侍女が控えめに告げる。
「公爵令嬢、本日、国王陛下よりお呼びがかかっております」
それだけだった。
余計な言葉はない。慰めも、気遣いもない。
ソフィは、静かに頷いた。
「承知しました」
呼ばれた。
それが、すべてを物語っている。
一方、別の場所では、まったく違う朝が始まっていた。
イディオット・パーソーン王太子は、自室で苛立ちを募らせていた。
昨夜の舞踏会の後、誰も訪ねてこない。側近たちは姿を見せず、いつもなら顔を出すはずの重臣たちも現れない。
「……遅いな」
苛立ち混じりに呟く。
父である国王から、まだ何の呼び出しもない。それが、彼には不満だった。
叱るなら叱ればいい。
注意するなら注意すればいい。
それでも最終的には、王太子である自分が守られる。
そう信じているからこそ、呼ばれないことが理解できない。
だが、理解できないのは彼だけだった。
王宮では、すでに線引きがなされている。
呼ばれる者。
呼ばれない者。
それは罰ではない。
処理の順番だ。
王宮の会議室には、すでに関係者が集められていた。
国王。
重臣たち。
そして、ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢。
そこに、王太子の姿はない。
ソフィは、その事実を見て、内心で静かに理解した。
これは、感情の場ではない。
王太子がいないからこそ、成立する話し合いなのだ。
「昨夜の件について、確認を行う」
国王の声は低く、感情を抑えたものだった。
怒りはない。だが、疲労と失望が滲んでいる。
形式的な確認が続く。
発言内容。
撤回の有無。
書記官の記録。
すべてが淡々と読み上げられる。
ソフィは、必要なときだけ答えた。
余計な説明はしない。
訴えもしない。
それが、公爵令嬢としての正しい振る舞いだった。
会議は長くは続かなかった。
なぜなら、議論する余地がほとんどなかったからだ。
結論は、すでに出ている。
今日ここで行われているのは、それを正式な形に落とし込む作業に過ぎない。
会議が終わり、ソフィは静かに一礼する。
「本日は、お時間を頂きありがとうございました」
国王は、彼女を見つめ、短く頷いた。
「……下がってよい」
それ以上、言葉はなかった。
ソフィは部屋を出る。
背後で扉が閉まる音を聞きながら、心の中で一つ、区切りをつけた。
――私は、もうここで役目を終えました。
一方その頃、王太子は、なおも呼ばれていなかった。
「なぜだ」
苛立ちを隠さず、側近に問いただす。
だが、側近は曖昧に頭を下げるだけだ。
「……まだ、でございます」
その言葉が意味するところを、イディオットは理解していない。
呼ばれないのは、保留だからではない。
優先順位が、下げられたからだ。
王宮において、最も危険なのは叱責ではない。
無視でもない。
最も危険なのは、「後回し」にされることだ。
王太子は、まだ知らない。
自分が今、処理される側に回されたという事実を。
呼ばれなかった者の時間は、静かに、だが確実に、削られていく。
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