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第14話 同席という名の断罪
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第14話 同席という名の断罪
その日の午後、王宮の空気はさらに張り詰めていた。
廊下を行き交う者の足取りは速く、視線は低い。誰もが、何か大きな歯車が回り始めたことを察している。だが、口にする者はいない。王宮では、沈黙もまた礼儀であり、防衛でもあった。
ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、再び呼び出しを受けていた。
ただし、今度は「一人で」ではない。
控えの間の扉が開き、先に通された人物を見て、ソフィは内心で静かに理解する。
――来るべき段階に入った。
同席者として指定されたのは、クラス・クラウン男爵令嬢だった。
彼女は、朝に見た姿とは別人のようだった。
髪は丁寧に整えられているが、どこか乱れている。ドレスは新しいが、肩の線が落ち着かず、視線は定まらない。何より、笑顔がない。作ろうともしない。
ソフィは、軽く会釈をする。
それ以上の反応は必要ない。ここは、社交の場ではない。
二人は並んで歩き、奥の小会議室へと通された。
部屋の中には、すでに国王、重臣数名、記録官、そして法務官が揃っている。やはり、王太子の姿はない。
クラスは、それを確認した瞬間、明らかに動揺した。
視線が泳ぎ、足取りが一瞬止まる。
「……殿下は?」
思わず漏れた言葉は、場違いだった。
誰も答えない。
答える必要がないからだ。
国王が静かに口を開く。
「着席せよ」
それだけで、空気が切り替わる。
ソフィは静かに席につく。クラスは一拍遅れ、慌てて椅子に腰を下ろした。
記録官が立ち上がり、書類を開く。
「これより、昨夜の舞踏会における一連の事象について、関係者同席のもと確認を行います」
淡々とした声だった。
感情は一切、混じっていない。
確認は、すでに終わっている内容から始まった。
舞踏会が公式の場であったこと。
婚約破棄が公に宣言されたこと。
それが王国の制度と契約に抵触する可能性があること。
クラスの顔色が、徐々に変わっていく。
「つ、つまり……わたくしは……」
言葉を挟もうとした瞬間、法務官が静かに視線を向けた。
「発言は、指示があってから」
それだけで、クラスは口を閉じる。
叱責ではない。だが、拒絶でもない。
ただの線引きだった。
続いて、国王がクラスを見た。
「クラウン男爵令嬢」
名を呼ばれた瞬間、彼女の背筋が跳ねる。
「そなたは、昨夜の舞踏会において、王太子の隣に立ち、婚約の宣言を受けたな」
「……は、はい」
「それは、事前に知らされていたか」
質問は、短い。
逃げ道はない。
クラスは、視線を伏せたまま答える。
「……存じておりました」
その一言で、部屋の空気がさらに冷える。
ソフィは、何も言わない。
ここで語る必要があるのは、彼女ではない。
「続けて問う」
国王は、声の調子を変えない。
「そなたは、それが公式の場で行われること、そしてその結果について、理解していたか」
沈黙が落ちる。
数秒。だが、ひどく長く感じられた。
「……い、いえ……そこまでは……」
絞り出すような答えだった。
法務官が、静かに言葉を継ぐ。
「理解していなかった、というのは通用しない。
公式の場に立つ以上、理解しているとみなされる」
それは責めではない。
制度の説明だった。
クラスの肩が、わずかに震える。
ここで、ソフィが初めて口を開いた。
「陛下」
視線が集まる。
「本件において、クラウン男爵令嬢の責任を、私情で語る必要はないかと存じます」
声は穏やかだった。
だが、内容は明確だ。
「公の場で起きたことは、公として処理される。それだけです」
国王は、ソフィを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「その通りだ」
その一言で、場の焦点が定まる。
これは、誰が悪かったかを決める場ではない。
誰が泣くかを決める場でもない。
誰が、どの立場で、どの責任を負うかを確定する場だ。
クラス・クラウン男爵令嬢は、ようやく理解し始めていた。
ここには、味方はいない。
王太子もいない。
庇ってくれる者もいない。
同席とは、救済ではない。
逃げ場を塞がれた状態で、公式に立たされることだ。
ソフィは、静かに前を見据える。
この場で、彼女が担う役割はすでに終わっている。
だが、まだ物語は終わらない。
次に進むための、最も重い工程が、今まさに始まったところだった。
その日の午後、王宮の空気はさらに張り詰めていた。
廊下を行き交う者の足取りは速く、視線は低い。誰もが、何か大きな歯車が回り始めたことを察している。だが、口にする者はいない。王宮では、沈黙もまた礼儀であり、防衛でもあった。
ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、再び呼び出しを受けていた。
ただし、今度は「一人で」ではない。
控えの間の扉が開き、先に通された人物を見て、ソフィは内心で静かに理解する。
――来るべき段階に入った。
同席者として指定されたのは、クラス・クラウン男爵令嬢だった。
彼女は、朝に見た姿とは別人のようだった。
髪は丁寧に整えられているが、どこか乱れている。ドレスは新しいが、肩の線が落ち着かず、視線は定まらない。何より、笑顔がない。作ろうともしない。
ソフィは、軽く会釈をする。
それ以上の反応は必要ない。ここは、社交の場ではない。
二人は並んで歩き、奥の小会議室へと通された。
部屋の中には、すでに国王、重臣数名、記録官、そして法務官が揃っている。やはり、王太子の姿はない。
クラスは、それを確認した瞬間、明らかに動揺した。
視線が泳ぎ、足取りが一瞬止まる。
「……殿下は?」
思わず漏れた言葉は、場違いだった。
誰も答えない。
答える必要がないからだ。
国王が静かに口を開く。
「着席せよ」
それだけで、空気が切り替わる。
ソフィは静かに席につく。クラスは一拍遅れ、慌てて椅子に腰を下ろした。
記録官が立ち上がり、書類を開く。
「これより、昨夜の舞踏会における一連の事象について、関係者同席のもと確認を行います」
淡々とした声だった。
感情は一切、混じっていない。
確認は、すでに終わっている内容から始まった。
舞踏会が公式の場であったこと。
婚約破棄が公に宣言されたこと。
それが王国の制度と契約に抵触する可能性があること。
クラスの顔色が、徐々に変わっていく。
「つ、つまり……わたくしは……」
言葉を挟もうとした瞬間、法務官が静かに視線を向けた。
「発言は、指示があってから」
それだけで、クラスは口を閉じる。
叱責ではない。だが、拒絶でもない。
ただの線引きだった。
続いて、国王がクラスを見た。
「クラウン男爵令嬢」
名を呼ばれた瞬間、彼女の背筋が跳ねる。
「そなたは、昨夜の舞踏会において、王太子の隣に立ち、婚約の宣言を受けたな」
「……は、はい」
「それは、事前に知らされていたか」
質問は、短い。
逃げ道はない。
クラスは、視線を伏せたまま答える。
「……存じておりました」
その一言で、部屋の空気がさらに冷える。
ソフィは、何も言わない。
ここで語る必要があるのは、彼女ではない。
「続けて問う」
国王は、声の調子を変えない。
「そなたは、それが公式の場で行われること、そしてその結果について、理解していたか」
沈黙が落ちる。
数秒。だが、ひどく長く感じられた。
「……い、いえ……そこまでは……」
絞り出すような答えだった。
法務官が、静かに言葉を継ぐ。
「理解していなかった、というのは通用しない。
公式の場に立つ以上、理解しているとみなされる」
それは責めではない。
制度の説明だった。
クラスの肩が、わずかに震える。
ここで、ソフィが初めて口を開いた。
「陛下」
視線が集まる。
「本件において、クラウン男爵令嬢の責任を、私情で語る必要はないかと存じます」
声は穏やかだった。
だが、内容は明確だ。
「公の場で起きたことは、公として処理される。それだけです」
国王は、ソフィを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「その通りだ」
その一言で、場の焦点が定まる。
これは、誰が悪かったかを決める場ではない。
誰が泣くかを決める場でもない。
誰が、どの立場で、どの責任を負うかを確定する場だ。
クラス・クラウン男爵令嬢は、ようやく理解し始めていた。
ここには、味方はいない。
王太子もいない。
庇ってくれる者もいない。
同席とは、救済ではない。
逃げ場を塞がれた状態で、公式に立たされることだ。
ソフィは、静かに前を見据える。
この場で、彼女が担う役割はすでに終わっている。
だが、まだ物語は終わらない。
次に進むための、最も重い工程が、今まさに始まったところだった。
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