『ラノベでリアルに描いてみた。舞踏会で婚約破棄したら、その場で人生が終了した件

鷹 綾

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第13話 名を呼ばれたのは彼女だった

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第13話 名を呼ばれたのは彼女だった

 王宮の鐘が、静かな間隔で時を告げていた。
 その音は、何かを知らせるためのものではない。ただ、王宮がいつも通りに機能していることを示す、規則正しい合図だ。

 ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、控えの間で待っていた。
 椅子に深く腰掛けることはせず、背筋を伸ばし、両手を膝の上に置く。その姿勢は、長年の教育の賜物だった。ここはくつろぐ場所ではない。呼ばれたとき、すぐに立てる状態でいること。それが、公の場に関わる者の基本だ。

 扉の外には、王宮の文官が一人立っている。
 護衛ではない。伝令でもない。
 ただ、名を呼ぶ役割を持つ者。

 その人選だけで、ソフィには分かっていた。
 これは感情の呼び出しではない。
 正式な段階に入ったという合図だ。

 やがて、扉が静かに開く。

「ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢。お入りください」

 呼ばれた。
 予想通りの名が、予想通りの順番で。

 ソフィは立ち上がり、裾を整え、一礼してから歩き出す。
 足取りに迷いはない。呼ばれる理由を、彼女はすでに理解していた。

 通されたのは、昨夜とは別の部屋だった。
 舞踏会の余韻が残る会議室ではない。
 もっと小さく、もっと静かで、しかし決定を下すために十分な場所。

 室内には、国王、数名の重臣、そして記録官がいた。
 やはり、王太子の姿はない。

 ソフィは、その事実を視界に収めても、表情を変えない。
 彼がいないからこそ、ここは成立する。
 それを理解しているのは、彼女だけではなかった。

「座りなさい」

 国王の声は、低く、抑えられていた。
 怒りではない。疲労でもない。
 ただ、決断を前にした者の声だった。

 ソフィは指示に従い、静かに腰を下ろす。

「これから確認する内容は、すでに一度整理されている」

 国王はそう前置きし、記録官に視線を向ける。
 記録官が一枚の書類を広げ、淡々と読み上げ始めた。

 舞踏会での発言。
 婚約破棄の宣言。
 理由の性質。
 撤回の確認と拒否。
 周囲の反応と、公式記録。

 すべて、すでに知っている内容だ。
 だが、ここで改めて読み上げられることで、それらは「処理対象」として確定する。

「公爵令嬢」

 国王が、ソフィを見る。

「あなたに確認することは一つだけだ」

 室内の空気が、わずかに張り詰める。

「あなたは、昨夜の舞踏会において、婚約者として、逃げずにその場に立ち会った。
 その認識で、間違いないか」

 問いは短く、明確だった。

 ソフィは、はっきりと答える。

「はい。間違いございません」

 それ以上でも、それ以下でもない。

 国王は、わずかに頷いた。

「十分だ」

 その一言で、ソフィの役割は終わった。

 彼女は理解する。
 これは評価ではない。
 免罪でも、慰めでもない。

 ただ、手続き上、必要な確認が取れたというだけだ。

 だが、その「だけ」が、決定的だった。

 ソフィがこの場に呼ばれた理由は、問い詰めるためではない。
 責任を問うためでもない。

 公式の当事者として、正しく振る舞ったかどうかを確認するためだった。

 そして、その確認は、すでに終わった。

 一方、別の場所で、イディオット・パーソーン王太子は、なおも待たされていた。
 呼ばれない。
 説明されない。
 何も知らされない。

 それが意味することを、彼はまだ理解していない。

 王宮において、最も早く呼ばれるのは、処理が必要な者ではない。
 最も遅く呼ばれる者こそが、最も重い判断を受ける。

 その事実を知る者は、まだ少ない。

 だが、名を呼ばれた順番は、すでに答えを示していた。

 先に呼ばれたのは、
 壊した者ではなく、
 壊される側でもなく、
 公の場に、最後まで立っていた者だった。

 ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、静かに部屋を後にする。

 背後で扉が閉まる音は、重くも軽くもなかった。
 ただ一つの工程が、確実に完了したことを告げる音だった。

 次に名を呼ばれるのが誰なのか。
 その答えは、もう決まっている。
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