『ラノベでリアルに描いてみた。舞踏会で婚約破棄したら、その場で人生が終了した件

鷹 綾

文字の大きさ
21 / 41

第21話 請求書は平等に届く

しおりを挟む
第21話 請求書は平等に届く

 王宮の朝は、今日も規則正しく始まった。
 鐘が鳴り、執務が回り、書記官たちは淡々と机に向かう。誰も声を荒げない。誰も立ち止まらない。公式は、感情を必要としないからだ。

 イディオット・パーソーンの部屋に、三通の封書が届けられた。
 いずれも、装飾のない封。
 差出人は違うが、文面の匂いは同じだった。

 彼は、最初の一通を開く。

 王家会計局。
 簡潔な書式。
 要点のみ。

 ――王家保証解除に伴い、以下の金額につき、即時の返済計画提出を求める。

 数字が並ぶ。
 合計額を見た瞬間、視界が一瞬、白くなった。

「……冗談だろ……」

 だが、冗談ではない。
 次の封を開く。

 国内有力商会。
 これまで、王太子名義でいくらでも融通してくれた相手だ。

 ――保証失効を確認。契約条項に基づき、支払い期日を前倒しとする。

 三通目は、さらに容赦がなかった。

 公爵家と連携する金融組合。
 文面は丁寧だが、冷酷だ。

 ――未履行分につき、担保の再評価を行う。期限内に応答なき場合、強制執行に移行。

 イディオットは、封書を机に並べ、しばらく動けなかった。

 請求書。
 それは、感情を含まない最終通告だ。

 王太子であった頃、金は「背景」だった。
 意識するものではない。
 足りなくなるものでもない。

 だが今、金は「主役」になっている。
 逃げ場を塞ぎ、時間を削り、選択肢を奪う主役だ。

 彼は、側近を呼ぼうとして、手を止めた。
 呼んでも、どうにもならない。

 昨日までなら、誰かが裏で調整してくれた。
 だが今は違う。

 請求は、本人宛だ。

 イディオット・パーソーン個人に。

 同時刻、王宮の別室では、会計官と法務官が淡々と確認を進めていた。

「通知、完了」

「支払い計画の提出期限は?」

「七日。延長は不可」

 短いやり取り。
 そこに、誰かの名前は出てこない。

 出てくるのは、期限と条件だけだ。

「未提出の場合は?」

「差し押さえ準備へ」

 それで話は終わる。

 王宮において、請求は脅しではない。
 事実の通知だ。

 一方、ティッド公爵邸では、同じ動きが、より静かに把握されていた。

「王太子個人宛の請求、各所より送達済み」

 側近の報告に、ソフィ・スティ・ケイティッド公爵令嬢は、軽く頷く。

「期限は?」

「七日です」

「十分ですね」

 それは皮肉ではない。
 制度上、十分だという意味だ。

 彼女は、書斎の机に置かれた一枚の紙に視線を落とす。
 そこには、簡潔なメモがある。

 ――請求は同時。猶予は平等。例外なし。

 公の場で壊されたルールは、公の方法で修復される。
 その過程で、誰が苦しむかは、副次的な問題だ。

 王宮に戻り、イディオットは、ようやく一つの事実を理解し始めていた。

 請求書は、敵意を持たない。
 味方もしない。

 ただ、届く。

 そして、支払えなければ、次へ進む。

 怒鳴っても、
 嘆いても、
 肩書きを叫んでも、
 紙の上の数字は変わらない。

 彼は、震える手で、紙を掴んだ。

 七日。
 それは、長いようで、致命的に短い。

 王太子だった時間は、彼に多くを与えた。
 だが今、その時間は、請求書の期限という形で、静かに精算され始めていた。

 公式の世界では、
 請求は、最も平等な裁定だった。

 そしてその裁定は、
 すでに、動き出している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

処理中です...