『ラノベでリアルに描いてみた。舞踏会で婚約破棄したら、その場で人生が終了した件

鷹 綾

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第39話 公式は、次を用意する

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第39話 公式は、次を用意する

 忘却が許可された案件は、もはや振り返る必要がない。制度にとって重要なのは、終わったことではなく、次に何を置くかだ。空白は、放置すれば不安を生む。だから公式は、常に次の配置を用意する。前例が定まり、沈黙が根付き、忘却が始まった今、この国に必要なのは明確な「次」だった。

 私は執務室で、後継に関する資料を机上に並べていた。人物名は伏せ、条件だけを抽出した一覧だ。血統、教育、公式行事での対応履歴、決裁の理解度、そして公の場における発言の慎重さ。情熱や人気は参考値に過ぎない。制度が求めるのは、再現性と安定性である。

 側近が静かに報告する。「候補者はいずれも、昨夜の前例を踏まえた行動計画を提出しています」私は頷いた。前例が生きている証だ。人は、具体的な基準が示されれば、そこに合わせて振る舞う。公式は、人を縛るためではなく、迷わせないために存在する。

 私は資料の一枚に目を留めた。公の場での質疑応答の記録だ。曖昧な問いに対して、踏み込みすぎず、しかし逃げない言葉で応じている。感情を煽らず、事実に寄せる。その姿勢が、一貫しているかどうかが重要だった。偶然の成功は評価しない。繰り返し再現できるか、それだけを見る。

 「選定の公表時期は?」と私が尋ねると、「各方面の受領確認が出揃い次第です。早ければ数日以内に」と返ってくる。急ぐ必要はない。だが、遅らせる理由もない。空白が長引けば、憶測が入り込む。公式は、余計な想像力に餌を与えない。

 私は窓の外を見た。城門の前を行き交う人々は、いつもどおりの速度で歩いている。昨夜の舞踏会も、今朝の通達も、彼らの日常を直接は変えない。だが、見えないところで、配置は確実に更新されている。その更新が滞りなく進んでいるかどうか。それを確認するのが、私の役目だ。

 クラス・クラウン男爵令嬢に関する追記も、簡潔にまとめられていた。監督下での生活は継続。問題行動はなし。公の場に戻す判断は時期尚早。妥当だ。焦らせる必要はない。制度は、時間を味方にできる。

 私は資料を揃え、最後の確認を行った。条件は明確、手順は共有済み、前例との整合性も取れている。ここまで整っていれば、あとは粛々と進めるだけだ。誰かの感情に配慮して判断を曲げる余地はないし、曲げる必要もない。

 公式は、常に次を用意する。
 それは、終わったものを否定するためではない。世界が止まらないようにするためだ。

 私は扇子を閉じ、承認の印を押した。
 次の配置は、すでに準備されている。あとは、予定された時刻に、それを表に出すだけだ。

 この国は、前に進む。
 公式が動き続ける限り、迷いは最小限に抑えられる。

 私は机を片付け、次の連絡に備えた。
 終わりが整った以上、始まりもまた、整えられていく。
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